新型車のお披露目
鉛電極に刻まれる文様は、もはや幾何学的な模様の域を超え、まるで古の文字が連なる呪文のようだった。 職人の鑿が、不合理の盾の複雑な曲線と、雷の魔法陣の鋭い角を、寸分の狂いもなく鉛板へと写し取っていく。
それは、一見すれば単なる飾りにも見えるが、その奥底には、自然の理をねじ伏せるかのような力が宿っているかのようだった。
そうして生み出された電極を組み込んだバッテリーは、仕入れたばかりの無垢な鉛板で作られたものと比べ、まさしく別物と呼ぶべき性能を示した。 それは、一足飛びに跳ね上がるような、力強い出力を秘めていたのである。 その寿命は、標準的なバッテリーの優に1.5倍にも達し、一度の充電で電気自動車をはるか遠くまで走らせることを可能にした。
この奇跡にも似たバッテリーの誕生により、マイケル・キャンベルが長年抱き続けてきた夢――彼自身の電気自動車を市販化するという夢に、遂に確かな目途が立った。
意気揚々としたキャンベルは、アシュフォードの商工会議所の広間を借り切り、新聞社の記者たちを大々的に招集した。 発表会は盛大に行われ、彼は自信に満ちた顔で、磨き上げられた車体を指し示した。
「さあ、これがキャンベルの馬無し車、電気自動車だ!」
彼の声は、広間に響き渡る。
「他の会社の電気自動車よりも、出足もいいし、何よりも早い! さあ、皆さん、ぜひ試乗してみておくれ!」
記者たちはざわめき、その多くが好奇心に駆られて運転席へと乗り込んでいく。 あの悪名高き赤旗法が廃止されて以来、蒸気自動車、ガソリンエンジン自動車、そして電気自動車が、まるで堰を切った水のように、一斉に開発競争を始めていた。
その中でも電気自動車は、その簡便さにおいて抜きん出ていると見なされていた。 なにしろ、運転前に充電さえ済ませておけば、すぐにでも乗り出すことができるのだ。 それは、ボイラーに湯を沸かし、蒸気を溜めるまでに時間を要する蒸気自動車や、重いクランク棒を何度も回してエンジンを始動させ、燃料の調達にも苦労するガソリン自動車に比べれば、まさしく画期的な利点であった。
記者会見の片隅で、マイク・バートン氏(裏の顔はルーサー・スペルマン:アシュフォードの魔法協会会長)もまた、キャンベルの招待を受けて出席していた。
彼は他の記者たちとは異なり、興奮した様子を見せず、ただ黙々と、キャンベルの電気自動車をじっくりと観察し続けていた。 その鋭い目は、車の外装の光沢や、加速の滑らかさではなく、その奥に隠された「心臓部」――バッテリーへと注がれていた。
バートンは、この車の圧倒的な性能が、鉛電極に密かに仕込まれた「不合理の盾」の文様によってもたらされていることを、確かに見て取っていた。 しかし、彼の記事に、その「魔法」めいた事実は記されることはなかった。
彼は知っていたのだ。 この世界を動かすのは、目に見える技術や合理的な説明だけではないことを。 そして、時に人知を超えた力が、密やかに、しかし確かに、人々の暮らしを動かす原動力となることを。 彼はただ、静かに、その新しい時代の到来を記事にしたためるだけだった。
***
ヘンリー・アシュフォードとスカーレット・アシュフォード、そして今やキャンベル家の誇る技術者ジャック・キャンベルの三人は、お披露目会場のざわめきから一歩退いた、布の仕切り裏の涼しい影に立っていた。
表ではマイケルが、自らの偉業への興奮に顔を紅潮させながら、大声で熱心に説明を続けている。 その熱気は、仕切りの布を通り抜け、微かな振動となって伝わってくるだけだった。
スカーレットは、静かに立つジャックの傍で、その胸の内にひそかに抱える不安を押し殺していた。 あの蓄電池の驚異的な性能は、アシュフォード家の古い紋様に隠された雷の神聖な力によるものであることを誰かに見抜かれるのではないかという不安である。 そして、不合理な技を使うものとしてスカーレットが糾弾され魔女として裁かれるのではないかという不安である。
その静寂を破ったのは、傍らに立つジャックの、まるで秘密の石を掌にそっと置くような、低く静かな声だった。
「スカリー」と、彼はスカーレットの愛称を呼んだ。 「あの秘密の文様を電極に刻むと蓄電池の性能が上がる、その理が、ついに分かったよ」
その一言が耳朶に触れた瞬間、スカーレットの心臓は口から飛び出しそうになるほど驚きに打たれたが、平静を装いながら、彼女は尋ねる。
「ジャック、何が分かったの?」




