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ブラックリー村の嘘と真実

 プラックリー村は、アシュフォードのような産業の喧騒とは無縁の、時がゆっくりと流れる場所だった。ローマ時代からの歴史のある、ひなびた石造りの建物が並び、人口は千人ほど。合理主義の波が、まだその古い土壌の奥深くまで浸透していない、ケント州の農村だった。


 ルーサーは、村の顔役でもあるセント・ニコラス教会の牧師館に挨拶に向かった。一方、スカーレット、ペネロペ、バイオレットの三人は、魔力の痕跡を探すために、教会の隣にある古い墓地へと足を踏み入れた。


 石の十字架と、苔むした墓石が並ぶ中、バイオレットがドレスの裾を気にしながら、声を弾ませた。


「まずは、ここ、セント・ニコラス教会の墓地に行くぞ。ここに、夜な夜な女の幽霊が出るんだとさ。まったく、野良魔法使いときたら、後始末がなってない」


 スカーレットは、墓石の間を縫って歩きながら、オーウェンに習ったばかりの魔力制御の事を考えていた。


「魔力の痕跡って、私にも見つけられるものなんですか?」


 スカーレットが尋ねると、ペネロペは、古びた墓石の表面に手をかざしながら、にこやかに答えた。


「簡単さ。制御されていない魔力の破片は、時間が経つと、まるで泥水が乾いた後のように、墓石や建物の表面に染みとなって残っていることが多いよ」


 彼女は、スカーレットの顔を覗き込み、目を細めた。


「スカリーは、魔力が多いから、その染みが、私たちには見えない光を放って見えるかもしれないね。ルーサーは、ああいうものには独特の光沢があるって言い方をするけど」


 ペネロペが言い終わらないうちに、スカーレットは足を止め、ある墓石を指さした。


「あっ、あった……」


 それには、スカーレットには、ただの雨染みか、あるいは、鳥の糞のような汚れがこびりついているように見えた。だが、目を凝らして魔力の流れを意識して見ると彼女の眼には、その汚れの輪郭が、微かに揺らめいて見える気がした。


「これが、魔力の染みだよ」


 ペネロペが指さす先は、まさにスカーレットが感じた違和感のある箇所だった。


「あんな感じの汚れを落とせばいいのですね」


「そういうこと。君の最初の仕事は、この世界の矛盾を拭い去ることだ」


 ペネロペは、懐から数枚のぼろ布を取り出し、そのうちの一枚をスカーレットに手渡した。


「この布には、魔力を中和除去する魔法を込めてある。普通の布と変わらないように見えるだろう? これで、その染みをしっかりと拭き取るんだ。魔力の残滓を完全に正常な無に戻すんだよ。これがスカリーの分」


 スカーレットは、手に取った布の、何とも言えないざらつきに、協会の仕事の地味さと泥臭さを感じた。それは、彼女が想像していた「魔法」の華やかさとは、かけ離れたものだった。


 その時、バイオレットが、派手なドレスの袖を払いながら、忠告した。


「いいかい、スカリー。中に、中和除去しようとすると逆らう奴があるからね。特に、悪意を持った魔法使いの痕跡は厄介だ。もし布を当てた時に、急に手が熱くなったり、染みが手を跳ね除けようとしたら言ってね。その時の処理の仕方を教えてあげるから」


 スカーレットは、ぼろ布を強く握りしめた。彼女の目の前の墓地は、もうオカルト好きの少女の探検の場ではない。ここは、合理の世界の裏側で行われる、静かで、しかし危険をはらんだ、秘密の清掃現場だった。


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