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初めての矛盾修正

 平穏な放課後の終わり、会計事務所の奥の部屋で、ルーサー会長の声が張り詰めた緊張感を運んできた。


「魔法協会に、依頼が入った。プラックリー村で、魔法が使われた形跡が見つかった。調査と魔法の痕跡の消去に行くぞ」


 その言葉は、訓練中の穏やかな炎の制御とはかけ離れた、現実の戦場への召集令のようだった。スカーレットは何が何だか分からなかった。彼女にとって、魔法はまだ、制御を学ぶべき「個人的な力」の域を出ていなかったからだ。


 しかし、ルーサーの口調は有無を言わせない。次の休日、スカーレットは協会のメンバーと共に、アシュフォードから十キロメートルほど離れたプラックリー村へ向かうことになった。


 当日の朝、アシュフォードの町から離れる道は、蒸気機関の喧騒から遠ざかるにつれて、次第に素朴な田園風景へと変わっていく。 彼らは最新の蒸気自動車ではなく、頑丈な荷馬車に乗り込んでいた。それは、協会の仕事が、いかに合理的な視界の外側で行われるかを示しているようだった。


 荷馬車が土煙を上げながらゆっくりと進む道中、ルーサーが事の経緯を説明した。


「プラックリー村では、ここ数週間、幽霊騒ぎが頻繁に起きているそうだ。夜な夜な、意味不明な呻き声や、人影が目撃されると。怖いもの見たさの物見遊山で人が集まってきてしまい、住民が困り果てているらしい」


 スカーレットは、かつてオカルトに夢中だった頃の、胸の高鳴りを覚えた。しかし、これは遊びではない。祖父の秘密が守られるべき、世界の裏側の仕事なのだ。


 ルーサーは、手綱を持つペネロペに目をやりながら、静かに結論を述べた。


「これは、野良魔法使いが、意図してか無意識にか、魔法を使って、その後始末をしていない可能性が高い。我々の最大の敵は、そのようにして合理の世界に不合理の淀みを残していく、無責任な力だ」


 スカーレットは、訓練で学んだばかりの知識と、今の会話とを結びつけようとした。


「魔法を使うと、その痕跡が残るのですね」


「そうだ」


 ルーサーは深く頷き、彼の視線は、遠くの畑の畝を鋭く見つめていた。


「我々が訓練で教えているように、制御された魔法は、魔力を世界に還元し、一切の痕跡を残すことはない。それは、君のおじいさん……ヘンリー名誉会長が追い求めた、究極の合理的な魔法だ」


 彼は一度言葉を切り、そして、彼の声には警告の色が濃く混ざった。


「だが、制御されていない魔法は、まるで破片のように魔力が飛び散り、空気に、土に、そして人々の記憶に、淀んだ影響を残す。これが後々、悪さをするのだ。幽霊騒ぎや、原因不明の機械の不調といった形でね。そうした魔力の破片、すなわち魔法の痕跡を消し去り、その場所を正常化するのが、我ら魔法協会の仕事さ」


 荷馬車はゆっくりと、合理の表側から隔てられた、真実の現場へと近づいていく。 スカーレットにとって、それは初めての矛盾の修正。祖父が築いた嘘の合理を守るための、最初の一歩となる旅だった。


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