帰り道でジャックと出会って
その声は、まだ遠くから届いている。ヘンリーお爺さまが「魔法使い」である、という言葉の直後に語られた、「名誉会長」「パトロン」という肩書きは、スカーレットの耳には届かなかった。
脳が、ヘンリーの顔と、彼の厳しい言葉と、「魔法使い」という単語との間に、巨大な断層が走るのを見て、処理を停止してしまったのだ。 彼女の胸中で、「合理的」と「非合理的」を厳しく隔てていた壁が、音を立てて崩れ落ちる。それは、この世界の真実が、最も信頼していた者の「嘘」によって成り立っていたことを知る、痛ましい瞬間だった。
スカーレットの瞳に映るルーサーとバイオレットは、もはや協会の人間ではない。彼らは、祖父の、そしてアシュフォード家の、あまりに重く、深すぎる秘密の継承者として、今、そこに座っているのだった。
スカーレットは、魔法協会の奥の部屋から外の光へと踏み出した。しかし、彼女の感覚器官は、町の光も、ケント州を吹き抜ける穏やかな風も、もはや正しく捉えることができなかった。
ルーサーたちが語り続けた、協会の活動内容や、これから始まる訓練の厳しさ。それらの言葉は、ただの音の羅列となって、彼女の耳を素通りしていった。脳が、たった一つの衝撃的な事実の処理に、その全ての資源を費やしていたからだ。
『おじいさまは、魔法使いだ』
そのフレーズが、最新式の蒸気機関のように規則的かつ暴力的に、彼女の頭の中で反復する。それは、彼女の理性と感情の全てを無効化する、強力な呪文だった。
彼女は、町外れの会計事務所から、ただひたすら家に近い方向へと歩を進めた。 どこをどう歩いたのか、途中の石畳の色も、すれ違った人々の顔も、全く記憶にない。彼女の足は、まるで水脈を知る古の獣のように、本能だけに従って動いていた。 目の前には、ヘンリーが築いた合理の王国が広がる。しかし、今やその王国全体が、祖父の嘘によって支えられた、巨大な偽りの舞台装置に見えていた。
ふと、足を止めると、目の前には、重厚な石造りの門と、近代的な威容を誇るキャンベル家の屋敷があった。
「スカリー、大丈夫かい?」
柔らかな声に、スカーレットはすっと現実へと引き戻された。 隣に立っていたのは、親友のジャック・キャンベルだ。彼は、産業と未来を体現するような、曇りのない目で彼女を見つめていた。
「顔が真っ青だよ。まるで廃墟で幽霊にでも出会ったみたいだ」
ジャックの言葉は、以前の自分たちであれば笑い飛ばせた、いつもの軽口だった。 しかし今のスカーレットは、まさに世界の幽霊、すなわち「合理主義の裏側に潜む非合理な真実」を目の当たりにした直後だった。
「ええ、大丈夫よ」
震える声で答えるが、その顔色は、ジャックの家の蒸気機関から排出される、冷えきった石炭ガラのようだったかもしれない。
「そうは見えないよ。学校帰りにしては、ずいぶん遠回りをしてきたみたいだけど……。うちで休憩していくかい? かあさんが今、お茶の準備をしているはずだ」




