表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/58

知りたくなかった魔法協会の秘密

 スカーレットは、息を飲んだ。ただの呼吸が、世界との合流。その言葉は、彼女の内に秘めた力を、恐ろしい暴走するものとしてではなく、世界の一部として捉え直す視点を与えてくれた。


「魔力は、外の大きな力と、あなた自身の小さな命の力が、触れ合う場所で生まれる。だからこそ、あなたの心――あなたの『流れ』が乱れ、速すぎたり、澱んでしまったりすると、外の力とうまく結びつけず、ただ暴れまわるものになってしまうの。呼吸は、あなたと世界を繋ぐ、最も古く、最も確かで、そして最も静かな『結び目』を整える術なのよ。」


 バイオレットは、摘んだ野草を、そっと鉢の上に返した。


「焦らなくていい。急いで力を引き出そうとする必要もない。まずは、この世界の呼吸と、あなたの呼吸を、ひとつに重ねることから。それが、真に強い魔法使いになるための、最初の一歩だから。」

 スカーレットの魔法修行はまだ始まったばかりだった。


 静謐な奥の部屋で、ルーサーは、まるで古の神話の始まりを告げるように、厳かな空気をまとわせながら話し出した。


「スカーレット嬢に、我が魔法協会の秘密を教えよう」


 その言葉は、古めかしい羊皮紙のように重く、この部屋に満ちる真鍮や星図の持つ、非合理な権威を帯びていた。しかし、スカーレットにとってそれは、自分を縛りつける鎖の音に他ならなかった。


「私はそんな秘密を聞きたくありません」


 スカーレットは即座に拒絶した。彼女が求めていたのは、秘密の共有ではない。祖父の怒りを鎮め、自分自身を取り戻す道筋だけだ。彼女の心には、ヘンリーの「正しい世界」の冷たい鉄則が、まだ深く打ち込まれたままだった。


 ルーサーは、その反抗を静かに受け流した。その明朗な顔から一瞬、会長としての冷徹な厳しさが滲み出る。


「君にはその権利はない」


 その一言が、スカーレットの僅かな抵抗を、音もなく打ち砕いた。


「君は、既にこの世界の『矛盾の修正』に関わってしまった。そして、制御不能な魔法の力を持つ限り、この協会の管理下にある。これは契約だ。そして、君の一族にとって、これは義務なのだよ」


 ルーサーは、言葉の端々に、拒否権のない古の掟の重さを滲ませながら、ゆっくりと続けた。彼の視線は、スカーレットの背後、つまり彼女が背負うアシュフォード家の影を見据えているかのようだった。


「では聞きたまえ。君の祖父、ヘンリー・アシュフォードは魔法使いだ」


 その言葉は、教会のステンドグラスを割るほどの、凄まじい衝撃となってスカーレットの耳朶を打った。世界は、一瞬にして音を失い、色彩を失った。


(魔法使い……?)


 自分の耳を疑ったのではない。自分の脳が、理解を拒否したのだ。


 あの祖父が。 朝から晩まで、新聞や議会の報告書を読み込み、数字や論理、そして合理的であることに、鬼気迫るほどに拘泥こうでいしていたヘンリーが。 非合理なものはすべて、時代の塵芥として切り捨て、魔法をはじめとするすべてのオカルトを、愚かな迷信として嘲笑していた、あの合理主義の守護者が。


 彼の厳格な顔、冷たい視線、そして彼の吐くすべての言葉は、アシュフォード家という堅固な要塞を守るための、鋼鉄の門そのものだった。その門の向こうに、自分と同じ「異端の火」が燃えているなど、どうして信じられようか。


 スカーレットの呼吸が浅くなるのを、ルーサーは待っていたかのように、追撃の言葉を放つ。


「そして、彼は、我がアシュフォード魔法協会の名誉会長であり、惜しみなく資金援助をしてくれているパトロンでもある」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ