第76話 万物停止の華
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レゼルたちとミネスポネとの激闘が続いていた。
レゼルとシュフェルはミネスポネからの注意と攻撃を分散させるため、大地底湖の中央にいるミネスポネを中心として、常に対極に位置するように周回している。
依然としてミネスポネからの攻撃は嵐のように激しいものであったが、レゼルは飛んでくる水と氷の塊を風で相殺しながら、ある変化を感じとっていた。
――ほんのわずかだけど、攻撃が弱まっている……!
いくらミネスポネが氷雪の化身であり、周囲の水氷の自然を取りこむことができるとはいえ、数多の奇跡をなんの代償もなく引きおこすことができるはずがなかった。
共鳴する龍と人が、そうであるように。
ミネスポネの身体はあくまで自然素を素にして奇跡を生みだす『器』と『変換装置』にすぎない。
圧倒的な物量をほこる水と氷の操作は、着実に『器』であるミネスポネの身体へと負荷をかけていたのである。
必ず反撃の好機はやってくる……!
レゼルがそう考え、風の斬撃を飛ばして崩しを入れようと狙いをさだめ、攻めの姿勢を見せたときだった。
「わらわがいずれちから尽きる、とでも思いなさったか?」
エインスレーゲンの刀身がよりいっそう蒼く光り輝くと、空中にいたレゼルとエウロを覆いかくすように水の塊がうすく広がり、そして凍りついた。
「しまっ……!」
瞬間、レゼルとエウロは巨大な氷の円筒のなかに閉じこめられてしまっていた。
内部が六角柱になっている円筒のなかには、さまざまな色合いで輝く鋭い氷片が無数に浮かびあがり、散りばめられている。
この技は、クラハがガレルを斬りきざんだのと同じ技……!
だが、円筒の大きさ、内部に詰めこまれている氷片の数も桁違いだ。
レゼルが風を発動して円筒を壊すよりも早く、ミネスポネが技を発動させる。
ミネスポネが円筒を操って回転させると、氷片どうしが擦れあい、鈴のような音を奏でた。
『雪花の万華鏡』!!
「あぁっ!」
無数の氷片が、レゼルとエウロのからだを斬りきざむ!
円筒のなかがレゼルたちの血で紅く、美しく染まっていく。
「姉サマぁーっ!!」
シュフェルは悲痛な声で叫んだ。
すぐにレゼルたちを助けに行きたいが、レゼルたちはミネスポネを挟んで湖の対岸にいる。
しかも、ミネスポネは大技を放ってレゼルたちのほうを向いている。
技の出どころを叩いたほうが早い……!
「姉サマをだせえぇっ!」
シュフェルとクラムはからだの向きをかえ、湖の中央付近にいるミネスポネに向かって斬りかかった!
だがミネスポネは肩越しにシュフェルの接近を認識すると、湖の水面から霧を大量に発生させ、姿をくらましてしまった。
シュフェルは濃い霧のなかでミネスポネと氷狐を見逃しそうになったが、鋭い動態視力でその影をとらえた。
「そこだぁっ!」
シュフェルは共鳴して帯電すると、ミネスポネの影に襲いかかった!
真一文字に剣を振りぬき、ミネスポネを一刀両断にする。
だが――。
「……!?」
シュフェルの剛腕から繰りだされるひと振りで霧が払われると、彼女が斬り捨てたのはミネスポネではなかったことがわかる。
それは、ミネスポネと氷狐を象った氷の人形だった。
「残念。はずれでございます」
ミネスポネは、シュフェルのすぐ背後にまわり込んでいた。
氷雪の女王が、シュフェルの背後で妖しく笑う。
「このぉっ……!」
シュフェルが振りむきざまに剣を振ろうとしたが、もう遅かった。
湖の水面から氷の柱が生成され、シュフェルとクラムを強烈な勢いで叩きあげる!
「うあああぁっ!!」
そのままシュフェルたちは地下洞の天井へと叩きつけられ、埋めこまれたまま気を失ってしまった。
「シュフェルぅっ!」
レゼルは怒りに身を任せ、自身の身が氷片で斬りきざまれるのも厭わずに、双剣と風の刃で氷片をすべて叩き割った!
さらに風圧で氷の円筒を内側から破壊すると、その風を自身の周囲に引きもどす。
「シュフェルを傷つけることは、許しませんっ!」
レゼルは強烈な風の渦を自身の周囲に従えたまま、ミネスポネへと突進していった!
だが、ミネスポネはすでに次の技を発動させる準備を整えていた。
彼女が手ににぎるエインスレーゲンが、妖しく、冷たい輝きを放つ。
「あらあら、怒りで我を忘れなすって。
……お熱いのは、苦手ですわ」
「!!」
『万物停止の華』!!
ミネスポネを中心として、全方位に向けて圧倒的な冷気が放たれる!
その冷気が生みだす極低温は、瞬間的に絶対零度に到達していた。
冷気の広がりとともに空間が凍りつき、地底湖の中央に美しく、巨大な氷の華が咲く。
氷の華に秘められた光が、地底湖の空間をさらに青く染めあげた!
「――っ!!」
レゼルに、ミネスポネが誇る最強の技が直撃してしまった!
極低温の冷気に晒されたのちに、咲きひろがる氷の華に身を切りさかれ、撃ちのめされた。
「ぁっ……!!、っ!!、……!!!!」
風の防御はほどこしていたものの、膨大な水氷の自然素に飲みこまれ、レゼルはエウロとともに吹きとばされてしまった。
地下洞の壁へと強く打ちつけられ、彼女たちも戦闘不能におちいる。
――静かになった空間に、しんしんと細かな氷の欠片だけが降っている。
やがて巨大な氷の華にひびが入り、砕けた。
氷の華が砕けたあと、そこに立っていたのはミネスポネと氷狐のみであった。
大地底湖の壁と天井に埋めこまれて眠るふたりの少女と、その龍たち。
彼女たちはそのまま凍りつき、美しき氷の華となるだろう。
ミネスポネは動かなくなったレゼルを見やると、袖の下で勝ち誇るように笑みを浮かべた。
「――頭は冷えのうしたか?」
※『万物停止の華(ばんぶつていし の はな)』……絶対零度のなかで咲き誇る、美しき氷の華を発生させる技です。
絶対零度、すなわち-273℃ではすべての物質が凍結します。
次回投稿は2022/9/26の20時以降にアップロード予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




