第57話 荒れくるう氷宴の騒乱
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ミネスポネがにぎるエインスレーゲンの刀身が、青く輝いた――。
「! シュフェル、下です!」
「下……!?」
『剣山』!!
無数の氷の針が、地面から突きだす。
しかし形状こそ針であるが、それはとてもそんな可愛らしい呼びかたをしてよい代物ではなかった。
一本一本の針は空高くそびえたつほど高く、大きな氷塊であり、あたかも天空に釘を刺しつらぬいているかのよう!
針の発生範囲の広さは尋常ではなく、じゅうぶんに距離をとって後退を始めていた騎士団のほうにまで攻撃が及ぶ。
何騎かの人や龍が針に串刺しにされてしまっていた。
「範囲が広いゾ!
皆の者、もっとさがるんじゃ!」
ブラウジが檄を飛ばす。
広大な雪原が、一瞬にして巨大な針だらけの光景に変わってしまった。
レゼルとシュフェルはかろうじて針を回避していた。
ミネスポネが攻撃に専念しはじめたことで上空の吹雪の勢い自体は弱まっており、針のあいだを飛行することができたのだ。
双子たちのように氷棘を飛ばしてくることを予想し、それぞれ照準が定まらないように不規則な軌跡を描いて飛んでいる。
「蝿みたいな動きで、目障りですこと。
今、叩きおとしてさしあげますわ」
ミネスポネがクスクスと笑い、追撃を加える。
――だが、その攻撃はレゼルたちの予想をはるかに超えるものだった。
ミネスポネがエインスレーゲンをかざすと、瞬く間に水氷の自然素の塊が錬成され、そこから氷棘が撃ちだされる。
単身で双子を超えるほどの勢いと量の氷棘を撃ちだすばかりではなく、広範囲に広がる極寒の冷気も織りまぜてくる。
さらに圧巻なのが、雪原から巨大な氷の柱が次々と練りあげられ、シャクトリムシのように跳ねあがっては、彼女たちを押しつぶそうと迫ってきたのだ!
ミネスポネが放つ氷どうしが衝突しあい、あちこちで地響きが起こっているかのような轟々たる喧噪だ。
俺もミネスポネの攻撃に巻きこまれないように遠くに離れて彼女たちの戦いを見守っていたのだが……。
――別格じゃないか!
双子たちの攻撃の手数の多さにも目を見張るものがあったが、最大出力に関してはレゼルたちには劣る印象があった。
だが、ミネスポネが操る自然素の総量は、規模・量ともにレゼルたちの龍の御技の比ではない。
これじゃあまるで、反則技だ。
これが水氷の神剣のちから、これが五帝将のちから……!
レゼルもシュフェルも、やっとのことで攻撃をかわしているが、いつ撃墜されても不思議ではない。
はやく攻勢に転じなければ、押しつぶされてしまう。
彼女たち自身もまた、その事実をよく理解していた。
間断なく降りそそがれる攻撃の合間を縫って、レゼルとエウロは体勢を崩して上下反転しながらも風の斬撃を飛ばし、正確にミネスポネのほうへと撃ちこんでいく。
風の斬撃は、いつの間にか氷狐の背中に乗りこんでいたミネスポネに向かって飛んでいくが……。
「あら、そよ風ですこと」
「!!」
風の斬撃は、ミネスポネの周囲をぐるぐるめぐって飛んでいるいくつかの氷の塊にぶつかって、すべて相殺されてしまった。
消滅した氷の塊は、すぐさま新しいものが再生されていく。
ミネスポネの周囲には、常に彼女を守るように無数の氷塊が周回している。
これだけ激しい攻撃を繰りひろげながら、氷の塊による自動防御まであるなんて……!
――このまま風の斬撃を飛ばしていてもミネスポネには届かない。
レゼルは再び、シュフェルに呼びかけた。
「シュフェル!」
シュフェルは攻撃をかわしながらも振りむく。
ふたりは視線だけで意思の伝達を行い、シュフェルがコクコク、とうなずいた。
レゼルは追いこまれたように見せかけ、地面のほうへと下降していく。
そして、地面に衝突する間際のところで、エウロと強く共鳴した。
――好機は一度!
『薙ぎ風』!
レゼルが地面と水平に双剣を振るうと、降りつもっている雪を薙ぎはらうように風を発生させた。
地を這うような風によって広く絨毯のように雪が舞いあがり、ミネスポネの視界を遮る。
そして、あたりに響きわたる轟音にまぎれるように、鋭い共鳴音が鳴った。
『雷剣』!!
舞いあがる雪を突きやぶって、シュフェルとクラムが閃光となって駆けぬける!
絨毯のように広がる雪が視界を遮り、技の出どころを覆いかくしていた。
シュフェルが『雷剣』を発動してから対応して、彼女の攻撃を防ぐ手立てなどない、はずであった――。
「ああ、怖い怖い。
そんな恐ろしげな顔で迫ってこないでくださいまし」
ミネスポネはいかにも芝居がかった言いぶりでそんなことを抜かした。
だが、彼女はシュフェルとのあいだに巨大で厚い氷の壁を一瞬で作りだしていた。
壁というには、その障壁はあまりにも厚く奥行があって、氷の山といったほうがしっくりする。
双子たちは、とっさに冷気を放つのがやっとだったというのに……!
シュフェルたちは勢いのまま氷の障壁に突入した。
強い衝撃で内部の氷が荒く削られ、耳をつんざくような掘削音が鳴りひびく!
シュフェルたちはトンネルを掘り進めるかのように氷のなかを突きすすんでいったが……。
――この氷、硬ぇ……!
自然素の操作によって生みだされた氷は、あくまでも水氷の自然素の塊。
天然の氷ではありえない硬度を実現していた。
驚異的な突破力を誇るシュフェルの『雷剣』をもってしても、厚い氷の障壁を最後まで突きやぶるのは困難だった。
――このままだと、なかに閉じこめられる!
「クラム、上っ!」
ミネスポネのもとまで氷の障壁を突きぬけるのは不可能であると判断し、シュフェルたちはむしろ厚みのうすい上方へと方向を変え、脱出を試みた。
だが――。
「お待ちしておりました」
「な……っ!?」
氷の障壁から脱出した瞬間を狙われ、シュフェルたちに極寒の冷気が浴びせかけられる!
シュフェルたちは強く帯電したままだったのでまったくの無防備ではなかったものの、もろにミネスポネの攻撃を受けてしまった。
冷気の勢いに飛ばされ、そのままちからなく地面に落下する。
シュフェルもクラムも全身が凍りつき、戦闘不能におちいってしまっていた。
「シュフェル!」
俺は思わず叫んだが、シュフェルもクラムも身動きひとつできず、生きているかどうかすらわからない。
「さて、小娘ひとりは片づけた。
もうひと方は……?」
「ミネスポネ、こちらですっ!」
「!」
ミネスポネがシュフェルと対峙しているあいだに、レゼルとエウロはミネスポネの背後をとっていた。
そして、レゼルたちは決死の覚悟でミネスポネへと斬りかかっていく――。
次回投稿は2022/7/30の19時に予約投稿する予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




