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レヴェリア、龍の舞う島々 ー無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語ー  作者: 藤村 樹
第2部 氷銀の狐

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第58話 ご挨拶のお伺い

◇

「ミネスポネ、こちらですっ!」

「!」


 ミネスポネが斜め後方の上空を振りかえると、空中からレゼルとエウロが迫ってきていた。

 ミネスポネがシュフェルたちに気を取られている隙に、レゼルたちはミネスポネの後方へとまわり込んでいたのだ。


 レゼルたちは氷の針のあいだをくぐり抜けながら、加速していく!


 レゼルは顔の前で交差させていた両腕を振りひろげ、複雑な気流の渦を無数に作りだしていた。

 彼女がもつ数多くの龍の御技(みわざ)のなかで、もっとも高い破壊力を誇り、あのオスヴァルトをも撃ちやぶった技。

 実戦で成功させた経験と、その後のたゆみなき鍛錬(たんれん)によって、彼女はその秘技を完全に自分のものにしていた!


 ――空中に障害物が多く、速さは全力の七割ほど……!

 でも、これで仕留める!


『乱気流(テュルビュランガ)』!!


 レゼルとエウロは複雑な気流の渦を従えながら、ミネスポネへと迫る。

 彼女の風をまとい、天空から舞いおりる姿は絵画のように美しく、神々しくすらあった。


 あたりには凄まじい風量の風が吹きあれ、ミネスポネの氷細工のような髪が乱れる。


「すばらしい技ですわ。

 複雑にして統制がなされている様は流麗(りゅうれい)ですらあります。

 ですが――」


 高速で距離をつめて斬りかかるレゼル。

 対して、エインスレーゲンを振りかざすミネスポネ。


「それでもわらわを相手にあなたでは」


 レゼルは周囲をめぐる氷塊(ひょうかい)ごとミネスポネを粉砕する心づもりだ。

 荒れくるう気流の刃とともに、今まさしく双剣を振りおろした――。


「力不足(ちからぶそく)」


「!!」


 ミネスポネの周囲をめぐっていた無数の氷塊が一点へと集まり、レゼルの双剣と風の刃をすべて受けとめた。

 さらに、エインスレーゲンの繊細な切っ先から膨大な量の自然素が放たれ、氷塊が壊れるそばから補填(ほてん)されていく!


 レゼルとミネスポネのちからは拮抗(きっこう)し、風と水氷(すいひょう)の自然素が混ざりあい、吹雪と化して外部へと放散されていく。

 ……そしてとうとう風はやみ、無風となった。


「……ふせ……がれた……っ!」


 レゼルは目を見ひらき、翠(みどり)の瞳は動揺で震えていた。


 彼女の風のちからはすべてうち消されていた。

 全力をだしきれたと言いがたいとはいえ。

 自身の最強の技が、刃が届くことすらなく防がれたという事実を、彼女は信じることができなかった。


 空中で硬直(こうちょく)しているレゼルの瞳を、ミネスポネの氷の瞳が射しつらぬいた。


「左様(さよう)なら」


「「ぐっ……!!」」


 レゼルとエウロの全身に強い衝撃が走る!

 地面からうねるように突きでてきた氷柱(ひょうちゅう)に、真横から思いきりぶつかられてしまったからだ。


 レゼルはとっさに双剣を構えたものの、ほぼ無防備の状態。

 そのまま地面から伸びつづける氷柱にエウロもろとも押しだされていく!


 レゼルたちはなすすべなく氷柱の勢いに飲まれ、大地から天空高く伸びていた針のひとつにぶつかり、押しつぶされてしまった。

 崩れる氷の塊のなかに埋もれ、彼女たちはそのまま気を失った。


 しかし、ミネスポネに彼女の生還(せいかん)を許す寛容(かんよう)さなどあるはずもなかった。


 ミネスポネはとどめを刺すための氷棘(つらら)をたっぷりと練りあげ、再び乱れ撃つ!

 レゼルたちは氷の針の、幹(みき)にあたる場所に食いこんだままだ。


「まずいっ……!」

「姫様ぁーっ!」


 ブラウジもレゼルの危機を察して叫んでいるのが聞こえてきた。


 ――レゼルを助けに行かねば!

 だが、ヒュードの回避能力をもってしてもあの嵐のように浴びせかけられる氷棘(つらら)の群れをすべてかわしきれるかどうか。

 そしてなにより、俺がいる位置からでは、とうていレゼルたちのところへは間に合わない……!


 氷棘の群れが、レゼルとエウロのからだを貫こうと飛んでくる!

 だが、次の瞬間。


「え……?」


 俺にはいったい何が起こったのかわからなかった。

 レゼルのほうへと飛んできていたはずの数多(あまた)の氷棘(つらら)はすべて消えさり、あとには微細(びさい)に砕けちった氷の欠片(かけら)が、煙のように漂っているのみだった。


「ほう……」


 ミネスポネは空中を漂う煙の向こう側、レゼルのいた場所を見据えていた。


 ――そこには、エルマさんとセレンがいた。


 今回も戦場のはるか後方で戦況を見守っていたはずの彼女が、いつの間にかレゼルを救出しに最前線までやってきていたのだ!

 エルマさんはレゼルを抱きかかえ、セレンはエウロに覆いかぶさるようにして氷の針にしがみついている。


 まさか、エルマさんが、飛んできた氷棘をすべてうち砕いたというのか……!?

 途中の動きをまったく目で捉えることができなかった。

 ブラウジの話では、彼女もまた、かなりの実力者であることはうかがい知れていたが……。


 エルマさんはあくまでも、普段どおりの涼しげな表情を崩さない。

 彼女はさも何事もなかったかのようにミネスポネに話しかけた。


「これはこれは。

 初めまして、母のエルマです。

 私の娘たちがたいへん失礼いたしました。

 よく言い聞かせておきますので、本日は出直しますね。

 ……後(・)日(・)あ(・)ら(・)た(・)め(・)て(・)、(・)娘(・)た(・)ち(・)が(・)ご(・)挨(・)拶(・)に(・)伺(・)い(・)ま(・)す(・)」


「おやおや、こちらこそお初にお目にかかります。

 わらわのほうこそ、娘どもが粗相(そそう)つかまりました。どうぞお気になさらず。

 い(・)つ(・)で(・)も(・)歓(・)迎(・)い(・)た(・)し(・)ま(・)す(・)ゆ(・)え(・)」


「「うふふふふふ」」


 ……なんだこれ、怖すぎる!

 ふたりとも上辺(うわべ)は笑っているが、空気が笑ってない。

 緊迫感で空中を漂う氷の欠片がはじけ、怪奇現象のごとくあちこちで破裂音が鳴っている。


 とは言え、未知数の強者(きょうしゃ)の登場に、ミネスポネも今日のところは矛(ほこ)をおさめたようだ。


 エルマさんがレゼルを、セレンがエウロを抱えて離脱する。

 シュフェルとクラムは重装龍兵五人衆の面々(めんめん)がすでに回収していた。


「皆の者、撤退(てったい)じゃ!

 氷の壁の外側まで後退するのじゃ!」


 ブラウジの指示で、騎士団は撤退を開始した。

 氷銀(ひょうぎん)の狐たちもおのおの追いかけてくるが、飛翔(ひしょう)はできない分、深追いはしてこないようだった。



 今回の戦いで、レゼルとシュフェルは意識不明の重体。

 一般龍兵たちも全体の三分の一が死傷(ししょう)した。

 俺が翼竜騎士団に加入してから、最大数の犠牲者。


 俺たちの、完全なる敗北だった。




 日本語的には「氷柱」と書いて「つらら」あるいは「ひょうちゅう」と読むのが普通ですが、表記の簡略化のため本作では


 先端が鋭利で斬り裂くことを目的とした攻撃は「氷棘(つらら)」

 

 先端が鈍で打撃を目的とした攻撃は「氷柱(ひょうちゅう)」


 で表記を統一させてください。


 次回投稿は2022/8/2の20時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします!

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