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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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応接間での対面


 クラクの屋敷、一階にて来訪者と面会するための応接間が設けられている。

 クラクの応接間は通常対面するだけの場に比べて広く作られている。四人がけのソファーが対面するようにおかれ、それ以外は本棚や調度品が並ぶだけで空間をゆったりと使った印象がある。

 そこに待つよう最初に入室したのは王都からの使者二人である。

 王都直属の使者、フーヴェスト・コウを筆頭にそのお付きとして祈祷師の『怒の席』に位置するアン・クライムが加わっている。二人はソファーに腰掛けており、相手を待っている姿勢である。

 フーヴェスト・コウは応接間に入ってからというもの落ち着かない調子だ。入ってからクラク屋敷の使用人、メアリーが紅茶を運びにきてからその紅茶を逐一口元に運んでいる。その元凶は隣で、イラついた態度を見せるアンのせいだろう。

 紅茶に口をちょびちょび運び続けるフーヴェストに比べ、アンは一口も紅茶に手をつけていない。

 広い応接間の中で、周りを苛立ち気に見渡して怒り目が応接間の扉の先を睨んでいた。

「全く遅い! どれだけ心火を滾らせればいいの?」

 扉の先に投げかけられた言葉は、フーヴェストに向けられたものだと当人は錯覚する。それゆえに、フーヴェストは心底居心地の悪さを感じていた。

 ただでさえ、クラク襲撃に自身の面が悪用された事実があり非を認識している。本来ならフーヴェストではない使者が赴くのが筋だ。フーヴェストはギリギリまでクラクに行くことを拒んでいたのだ。それをアンが付き人として来ることを立候補したため今に至っているのである。

 立候補したくせに、アンは苛立ちを隠せていない。そもそもアンの性格は怒りっぽく、些細なことでも苛立ちを見せるが彼女の立場が『怒の席』ということもあってフーヴェストは終始気が気でなかった。

 フーヴェストが無意識に、空のカップを口元に運び出して飲むふりをしている中、扉のノックが鳴った。

「失礼します」

 使用人の格好をしたアメリアが深々とお辞儀をして入室してきた。

 それに気づいたフーヴェストが慌ててフラフラしながらもその場を立ち身体を揺らしたようにしてお辞儀をする。隣のアンは足組み、腕組み、一瞥だけ向けていた。

 アメリアの後ろから、同じように礼を尽くしてミズキが登場する。そして、その次にフィロルド・リリィが現れる。

 リリィが現れて、初めてアンは扉の方をじっと見る。そこには青白いワンピースに身を包む姿は純朴な印象を抱かせるリリィがいて、今まで見た姫の中でもまさに姫の呼称の似合う人物。アンにとっては三人目となる姫たる印象を受けた。

白百合のような輝きを放つ瞳がフーヴェストとアンに優しく向けられた。

「王都からクラクの方へご来訪頂きありがとうございます」

 リリィは厳かな口調で礼を述べる。彼女の言葉に、フーヴェストは何度もお辞儀をした。アンに関しては眉を寄せながらも、その場をたたず首を振ってそれに応えた。

 リリィの礼を待って、アメリアが応接間の扉を閉める。フーヴェストとアンの待つソファーの向かいのソファーにリリィとミズキが並んで座る。それをチラと見たアンが扉を閉めたアメリアに疑問を投げた。

「エリザベスはどうしたの?」

「ルバート様は同席の予定でしたが、急用で席を外されました」

「ふーん……」

 アンは嘆息して、それ以上追求しなかった。

 アメリアは皆が座るソファーの近くに来ると、リリィとミズキの座るソファーの横で姿勢を正して直立した。立場的には屋敷の使用人としてこの場を見張るということだ。

 ただミズキはリリィの近侍であると同時に屋敷の使用人でアメリアの部下でもあるため側に立たれると居心地の悪さを感じていた。

「あ、あのぉ……」

 未だソファーから席を立つフーヴェストが申し訳なさそうに発言する。

 フーヴェストの発したことから、アンは先読みしたのか面倒そうに面を顰める。そっぽを向くように机上の紅茶に手をつけた。

 リリィがフーヴェストの言葉に耳を傾けるように目をパチクリさせる。

「この度は申し訳ありませんでしたぁ! クラクに危険を持ち込む形なってしまい……、本当に……」

「はあ……いつまで言ってんのよ。あんたは過ぎたことをチクチク言って煩わしいのよ。ああ、うざったい」

 フーヴェストの陳謝を呆れた目で見るアンが怒気を孕ませ言葉を吐き捨てた。

「アメリア、クラク襲撃に関する文書は王都からすでに受け取っているはずよね?」

「ええ、先週に伝書猫から文書を頂きました。内容もその日のうちにクラクの屋敷では確認しております」 

 文書のやり取りに使者を使うだけでなく、伝書猫を使い通達する方法がこの世界ではある。ミズキはその存在に、鳩ではなく猫なんだと驚いたが伝書猫を使うのは性急ではない事柄を伝える場合に限るという。

「文書にも書いたけど、フーヴェストが呪術師に軟禁された日は王都の警備が整っていない時だった」

 アンはイラつきながらも丁寧に顛末を話していく。

「先に話しますが王位継承式に向けた警備変遷の日でして、私や聖騎士、力のある魔術師は王都から出ていました」

 先週の文書に書かれていた内容通りの話に、ミズキは神妙にうなずいた。

「聞けばクラクも、屋敷が手薄の状態を狙われたという話。計画的な呪術師の攻撃である以上、こちらは文書で陳謝を述べる他ありません」

 アンの簡潔な説明に、フーヴェストはすっかり消沈してその場に座った。その姿は背が高いのに縮こまっている。

「ええ、こちらも重々承知している事柄であります。襲撃は事実でありますが、町民に被害はなく屋敷の人間も大きな怪我もなく今日を迎えております」

「…………そのおかげがそこの近侍っていうわけ?」

 アメリアに訝しげな視線を向けるアン。アメリアは真っ直ぐな瞳で頷いて見せた。

 アンの視線はミズキに向けられる。

「な、なんですか……?」

 ミズキは彼女の視線に思わず狼狽える。

「近侍にしては頼りなさそうだけど。フィロルドの選んだ近侍にしてはあまりにお粗末じゃない?」

 ミズキからリリィに問いかけるようにいうアン。

「私は力とか形で選んでいるわけではありません。近侍に必要な能力ではなくて、私に必要な方そしてミズキだから選んでいるのです」

 キッパリと言うリリィに思わずミズキは感動した。

「ふーん、まあいいけど、クラク襲撃を退けた人物がどんな者かとここに来たわけだけど、少し肩透かしだったわ」

 彼女は興味を無くしたように、その場を立って応接間から出ようとする。

「ちょ、ちょっとぉ。クライムさん! まだ本題が……」

「はあ? 本題はあなた一人で済ませられるでしょう? 私は馬車の中で待っているから済んだら戻って来なさい。早急に王都に帰るわよ」

 アンは一応フーヴェストの付き人として来ているが、その役割など関係なく自由であった。

 フーヴェストはそれでも彼女を止めようともっともらしいことを言ってみせた。

「付き人で来ているからぁ……、いてもらわないと……」

 態度の悪いアンでも、隣にいて欲しいのかと疑問を持つがその制止も虚しくアンは怒り目で眼光を飛ばして吐き捨てた。

「あなたの状態は離れても確認できるわ。何かあってもここじゃなくても対処できるし、もう私がここにいる意味ないの。それじゃあね。フィロルドの姫様、そして近侍ミズキ。今度は王都で会いましょう」

 面倒そうに早口でいうなりに、応接間から出て行ってしまった。

「何あの態度……」

彼女の偉そうな態度に、ミズキは嫌気がさした。

「祈祷師の中でも席に座する人なんだよ。ここにお付きで来るなんて珍しいことだけど、本来ああいう人なんだよ」

「つまりお偉いさんってことか……」

 祈祷師の席についてはミズキは見識があった。そんなお偉いさんがわざわざお付きを申し出てクラクに来た理由も今の会話の流れ大体把握できた。当人は何やらがっかりした様子だったが、ミズキは本題に入る前に面を食らってしまった。

 がっくりと項垂れるフーヴェストは脱力し、疲れた視線をあげた。

「こ、こんな状況で申し上げるのもなんですがぁ。本題に移行しても?」

 ミズキはフーヴェストに同情して、肯定する。

「では、……もう内容はわかると思いますが」

 そう言いながら、懐から書状を取り出して机上に広げて見せた。そして彼女は宣告する。

「近日より、オルファナス王国における新国王が決定致しましたので継承式を実施することに至りました。つきまして、国内の姫及び近侍の招集を要請したく考えております」

 丁寧な口調でありながら彼女の脱力したような性格が滲む語調に、皆が耳を傾ける。

 その本題とは、王都招来。そのお誘いである。

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