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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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使者の来訪


 急ぎ足で正門に来たところ、門前でアメリアとルバートが整然と並んで待っていた。

 まだ使者とやらは到着しておらず、待っているという感じだ。

 駆け足で向かうミズキに気づいたルバートが微笑を浮かべ声をかけてくる。

「お祈りは済んだか?」

「うん」

 端的に答えるが、その視線は少し逸らし気味である。

 ミズキの態度から察したのか、ルバートが優しげにいう。

「その表情から察するに、まだ成果はないか」

「リリィが小さな加護と対話しているところに割り込むと逃げてくよ」

 自嘲気味に返すと、ルバートは苦笑した。

「お前は加護よりも魔法の方が向いているのかもしれないな」

「そんな目を逸らして言われても……」

 ルバートにも、ミズキが魔法に関しても不得意な面を晒していることはルラから伝わっているはずだから彼女の言葉とそぶりには十分な説得力はなかった。

「ま、お前にはお前の良さがある。他の姫の近侍みたいにならなくていいさ」

「はあ……」

 先ほどと違い真っ直ぐな視線を向け告げられる。

 彼女の真意には思うところがある。フィロルド・リリィの近侍になる際に、近侍の役割について話された。その内容が、他の姫の近侍のことでありミズキにとって自分の立ち位置を改めて疑心にさせた。

 近侍は姫を護るのが主だ。それなりの能力が求められる役職で、近侍になるものは騎士であったり魔術師そして祈祷師として秀でているのがほとんど。それもそれらの役職においてかなり階級の高い者である場合が多い。

 実際、リリィの近侍として選ばれる候補にルバートがあげられていたことをアメリアから告げられたのだ。ルバートは元騎士であるが呪術師メシアと渡り合えるほどの実力者。正直、ミズキよりも相応しいと思う他ない。

 だが、リリィが選択したのはミズキだ。その理由はクラク襲撃の功績というよりもリリィ自身の直感によるものだった。

 ミズキは実力も功績も、他の近侍と比べ不足しているのは本人も自覚がある。他の近侍の能力を知ってそれはさらに深くなっていた。

 不安にもなるが、リリィもルバートも屋敷のみんなもミズキにしかない良さを信じている。しかし、ミズキはその良さについて未だピンと来ていない。

 この一ヶ月の間に、魔法や祈祷術、ナイフの扱いに長けることになればその不安も薄れたのだろうが成果のない一ヶ月にその自信は身につかないものだ。

 ミズキにあるのは『死の加護』という誰にも語れない理不尽な力である。

 本心としては相応しくないと思っているが、リリィの隣にいることをミズキは望んでいる。そこに自分の力のなさが後ろめたさになっているのは間違いない。だからこそ、この一ヶ月で身に付かなかったことに不甲斐なさを感じている。

 近侍というものが具体的にどういうものかハッキリしているわけではないけど、他の近侍の能力からしてそれなりの力量が求められることは確かだ。

 ミズキは敵と相対しても相手にすることはできず、次の機会を次に託すことしかできない。強いて言えば、ミズキにとってそれが強みだろうが彼女自身、死に恐れがある分誇れるものとは思えない。

 回帰と拮抗。それが『死の加護』の力。できれば、発動してほしいものではない。だからこそ、この一ヶ月で身につかなった魔法やナイフの扱い、祈祷術に落胆している。

 素直に受け止めきれないミズキに対して、ルバートもアメリアも励ましてくれるが響かなかった。

「来ましたよ」

 しばらく、三人でミズキの近侍の姿勢を話題に話す中、アメリアが馬竜の蹄の足音を聞いて門前の並木路に視線を向けて発した。

 アメリアの場をキリッとさせる発言に、ミズキは背筋を伸ばす。並木路に目線を向けると、一頭の馬竜が人を載せる荷車を引いてこちらに向かっているのが目に見えた。

 馬竜は荒々しく鼻息を鳴らして屋敷の敷地内に侵入する。丁度、荷車がアメリアたちが整列しているところに位置するように止まると、馬竜は自分を落ち着かせるように大きく前足を地に叩きつけた。

 その音が合図になったのか荷車の扉が開かれる。

 アメリアはすかさずお辞儀をした。ミズキもそれを横目に真似をする。

「これは申し訳ありませんねぇ。わざわざ門の前まで出迎えて頂くとは、いやはや……」

 丁寧な口調だが、どこか芯のない言い様でその扉から降りてくる。

 のっそりと降りてきたのは落ち着いた色の礼服を着たひょろひょろとした長身の女性だ。

 脱力し切った面をして、長い髪がだらしなく見える。ミズキは彼女をじっと見て、しばらくハッと何かに気づいて叫ぶ。

「え……、呪術師?!」

 ミズキの急な発言に、アメリアとルバートは驚愕をあらわにした。

「呪術師?!」

 ルバートの驚きに、ミズキは怯えながらうなずく。

 ミズキの記憶の底に住み着く恐怖が目の前にあった。忘れもしない。その顔は名前のない少女が見せた一面だったからだ。

 ルバートはすぐさま腰に携えた剣を引き抜く。その光景を目に礼服の女性は額に汗を流して当惑を示した。

「ち、違いますよぉ。本物です! 本物の使者ですぅ」

「それを証明できるか?」

 ルバートの詰問に、相手は押し黙る。すると、荷車の奥から呆れた言葉が聞こえてきた。

「嘆かわしいわね。痛ましいことがあって、王都が何も学ばないわけないでしょう。はあ、そんなことも考えられないなんて憤慨極まりない」

 礼服の女性を追って出てきたのは修道服姿の女性だ。

 語句に怒りを馴染ませ、その表情はまゆを顰めて怪訝な顔つきで当たりを見渡している。特に、ルバートとミズキの間を行き交って見ており、露骨にため息を吐いた。

「……使者に教会の席をつかせるとは。これは疑ってすまない」

 ルバートは修道服姿の女性の登場に言葉を翻して剣を鞘に戻した。

 その隣でミズキが唖然として、ルバートと修道服姿の女性を見回した。

「ま、あなたたちの疑心も知らないこともないけれど、王都も王都で被害の発端となった同じ使者を送るのもどうかと思うけどね」

 と、彼女は横目で礼服の女性を睨んだ。

 礼服の女性は申し訳なさそうに首を垂れているが、どこか芯のないように見える。

「ってことで、このフーヴェスト・コウのお付きとして私、アン・クライムがわざわざ怒気を収めて来てあげたというわけ。祈祷師が王宮の使者に仕えるって本来ないことだからね」

「それはご足労なことで」

 アン・クライムと名乗った修道服姿の女性に労いをかけるアメリア。

 すっかり蚊帳の外になったミズキだが、状況を客観視するにどうやらアン・クライムの存在がフーヴェスト・コウの呪術師疑惑を払拭しているようだ。

 そうであるなら、あの時見た名前のない少女の面はフーヴェスト・コウのものだと考えられる。会話の中身からして、フーヴェストも被害者の一人だと思慮できた。

 半分心の中で納得したところで、フーヴェスト・コウが前に出て口を開く。

「あの時は本当に申し訳ないですぅ。私、夜間に襲われまして軟禁されていたのです。その後、スチュワート様に助けて頂き……」

「事の顛末など煩わしいだけ、さっさと事を済ませて王都に戻るわよ。はあ、腹立たしい」

 クラクの敷地に立ってから終始苛立った様子のアン。

 アンの気迫に根負けしたフーヴェストは芯なく姿勢を崩すと、コホンと咳払いした。

「改めましてぇ。王都から招来の要請が来ています。文書の譲渡と意思を伺いに参りましたぁ。早速ですが、フィロルド・リリィ様並びに近侍との面会を」

「ええ、準備は整っております。こちらはリリィ様、近侍並びに私とルバートが同席しますがそちらはアン様同席で?」

「もちろん、近侍の人柄を知っておきたいからね」

 アメリアの確認に、アンが同意して不意にミズキの方を一瞥した。

「では、早速参りましょう。馬竜は屋敷の玄関口の前に止めて、見張りにうちの使用人をつけます。ミズキ先に屋敷へ行ってアルマを呼んできてください、そしてヘレナにリリィ様を連れて応接間に連れてくるよう伝達してください」

「わ、わかりました」

 緊張した返事をして足早に屋敷の方へ引き返す。

 ミズキが屋敷へ向かったことろ見送ったところで、アメリアは馬竜の手綱を引きながらフーヴェストとアンを屋敷の方へと引導した。

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