↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
PR
111/152

過去の私にさようなら・エピローグ

 秘密の通路を抜けて時計台へ。時計台へ入る扉の隣にある何もない壁を叩いて中に入る。長い螺旋階段を息切れ切れに上がって最上部まで来たら外へと出る。そこがリリィの秘密の場所だ。

 すでに夜が空に訪れていた。二つの月がこの世界を見下ろしている。

 ミズキの選択の時は近かった。

 柵の上部に手をかける。下を見下ろすとずいんぶんと高いのがよくわかる。落ちれば死ねるだろう。

 そう思うとみがすくむ。柵から手を離して、壁に寄り添うようにペタリと床にお尻をつけた。

 死ぬのが怖い。当然だった。だから、こんなに悩んでいるのだ。

 死んで再び回帰すべきか、このまま死なずに姫となるか……。

「どうしたらいいの……。誰か教えてよ……」

 誰にも聞こえることない悲痛な呟き。いや、聞こえている。それはミズキの中にいる加護だ。

ーーお前は本当にいじらしいわ。それが魅力なんだけど、ね。

 死の加護が愛おしそうにいう。

ーー簡単なことだただ眠ってしまえばいい、そしたらお前はその苦痛から解放される。

 甘言のような囁きにミズキの思考は乱れる。思わずそれに従ってしまいそうなくらいに。

 眠気はちょうどいいくらいに来ている。瞼を閉じて数分の闇に委ねればきっと身体は眠りにつくに違いない。

 しかし、そう簡単に眠りに落ちることは許されない。それを分かっているから懊悩としているのだ。

 私はどうすればいいの? 誰か教えてよ……。いっそ、誰か殺してくれれば諦めがつくのに……。諦め? 私はやっぱり自分で選ぶことを恐れている。

 思いは逡巡する。胸中の加護がずっと何かを発している。それはどれも皮肉めいてミズキを肯定したものだ。

 自分が生きても、王都が一見平穏に見えても、その裏は荒んでいる。

 この結果は、ただミズキが生きているという事実だけだ。何も救われてなんかいない。

 リリィは死んだ。王都は皇女レイナが行方不明になり裏では荒れている。それに、メグチは死んでアヤチが苦しんでいる。

 何もできなかったのか? そう問いかける。

 自分が何もできないのはよく分かっている。何もできないから半端な人生を送ってきたのだ。死にたいと思っても死にきれない惰性の日々を。

 なんでもできる。そう思っていた頃が懐かしい。それは幼い時の特権でしかなかった。

 なんでもできて、なんでも助けられる。そんな理想の自分を想像していたはずだった。理想は理想でしかなくて、現実はミズキの無能さを容赦なく突きつけてきた。それが現実なのだ。

 でも、

ーー私もミズキのことを信用している。

 これはルバートの言葉だ。私も、か。

 リリィはつくづく、ミズキのことを信頼していた。

 カシュとアリゼルは言っていた。ミズキの隣にいていいのか、自分を卑下するような言葉を話していたことを。

 フィロルドという原初の姫という家系に生まれたのに、偉大な加護を現出できていない。側からは加護のない姫。リリィは自分のことを何もできない者だと感じている。それはミズキと一緒だった。

「私と一緒……」

 不意にそれを口にする。

 そうだ。リリィは悩んでいた。フィロルドでありながら誇ることのできない自分を。クラクを救ったミズキに申し訳なく感じていた。

 ミズキがクラクを救ったのは死にたくない一心が発端でしかない。その結果クラクを救ったに過ぎない。でも、リリィにとってはミズキはクラクを救ったという事実だけが残っている。

 ミズキは思い出す。何もできない自分が必死にリリィを守ったことを。自分でもらしくないと思ったことだ。傷だらけの身体をいなして魔獣を相手にしたことを。

ーーそれが本当のお前じゃないのか?

 加護が再び語りかけてくる。

 あれが本当の私? 嘘……。

 あんな弱いくせして立ち向かって無様を晒して、でも、立ち向かっていた。恐怖もあったし、逃げたかった。あの場だけはミズキはどんなに無様だろうが立ち向かっていた。

 それが本当の私なの? 私は主人公になりたかったの?

「……どうすればいいかわからない。でも、私があの時リリィを守りたいと思ったのは本物だった」

ーー……ええ、知っているわ。お前のことは誰よりも理解しているからね。

「リリィは私のことを信頼してくれている。こんな私のことを……」

 震えた声が出てくる。そして後悔していることを理解する。気づけば、ミズキはこの場を立っていた。

ーー覚悟は決まったのかしら?

 加護が問いかけてくる。

「死の加護ーー私にはただの呪いだと思っていた。けど、この呪いが私をここまで連れてきてくれた」

ーー…………行動したのはお前よ。

「そうかもしれない。でも、死から逃げられない事実が私を……惨めな私から遠ざけてくれた」

 ミズキは心音をバクバクさせながらいう。

「この加護を呪いだと思っていたけど、祝福だったのかもしれない」

ーー面白いことを言うわね。ふふ、あははは、どうやらお前は随分変われたみたいだね。

「変わる? 変わってない。だって死ぬのは相変わらず怖いし逃げたい思いだってある。私を信用してくれたリリィを、私のために泣いてくれたリリィのいない世界を生きるのはそれよりも恐ろしいって気づいただけ」

 ミズキの身は震えている。目線も胡乱な様子で決意を定めたものとしてはみっともないがらではある。

 しかし、これが自分なのだとミズキは理解している。怖いのは当たり前。身体が震えるのも目線が定まらないのも自然なことなのだ。

 ミズキは柵に手をかけ身を乗り出す。柵を越えてへりに両足を揃えて乗せる。手は柵を掴んだままだ。正面を見下ろせばそこは空が広がっている。あとは一歩踏み出せばそこは空へ身体を投げ出せるだろう。

 あと一歩。ミズキはその一歩を躊躇する。

 固めた決意。覚悟。それらは一様にミズキの右足が空へ踏み出すのを期待している。

 そうだ。私は決めたんだ……。ミズキは自分に言い聞かせる。

 そして、

「私は、私がリリィを救うんだ!!」

 決意を言葉にする。そして言葉を力に変える。

 痛いのはきっと一瞬。大丈夫、目を覚ませばそこはリリィの顔が待っている。

 震えた手が柵からゆっくり離れる。

「さようなら、過去の私」

 か細く呟かれる言葉の中、ミズキの身体は空の方へ傾いていく。

「私はもう逃げない」

 その言葉と共にミズキの身体は空へと落ちていく。

 自分から選んだ回帰への道。

 落ちて一瞬。地面に身体は叩きつけられる。身体は無惨に崩壊し死を迎える。

ーーおめでとう。ミズキ。

 無惨な死体に死の加護はそういった。




「ん……」

 薄い瞼が日の差し込みを確認していた。

 痛みは本当に一瞬だった。残っている感覚は空から落ちている時のものだった。

 いまだに胸がバクバクと高鳴っているのはその感覚が残留しているのだと自覚する。だから、ミズキは回帰に成功したのだと理解できた。

ーー起きて。ねぇ。

 声が聞こえる。軽やかで涼やかな声。リリィだ。

 心地よくてこのまま無視するのもいいのかもしれない。だが、ミズキが取った行動は実に直情的なものになった。

 がばっと起きて、リリィの顔を確認する。彼女は大層驚いたように目を見開いていたがそれを気にせずミズキはリリィの身体を引き寄せて抱きしめた。

「え、な、なにどうしたの急に?」

 リリィは顔を赤くして恥ずかしそうだ。それでも抱きしめるのをやめない。これは決意の表れなのだ。

「私頑張るから……頑張ってみるから」

 ミズキの目には涙が浮かんでいた。リリィはそれを横目で見て何か納得したように頷いて優しい声で言う。

「ミズキは優しいね。嬉しいよ。でも、私もミズキのために頑張らなきゃ」

「ありがとう……、一緒に頑張ろう」

 リリィはその言葉に一筋の涙を流す。

「ふふ、なんかおかしいね」

「そ、そうかな」

 そういって気恥ずかしさを思い出してリリィから離れる。

「うん、王都に来てすぐこんなこと言われると思わなかったから。ホームシックになっちゃったのかな?」

「すぐって今日まで王都で色々あったからそれで……」

 そういと、リリィは不思議そうな顔をした。

「今日まで王都?」

「え、そうでしょ。王都をまた回ったりとか……」

そう言ってる最中、部屋の扉が開く。その方に丁度向いているために誰が入って来たかはすぐにわかった。わかったが、ミズキの目は疑わしいものを見るかのようにまんまるくさせる。

 入って来た人物は明るい様子で話す。

「なぁにそんな近くにくっついてるの? リリィ様とミズキはとても仲良いんですね!」

 獣耳をピンと立てる。感情に嬉しさが混じっている。その瞳も嬉々としたものを宿している。

「これは違うのよ」

「えー本当ですかぁ? なんか二人とも目の下がほんのり赤いような……」

「妙な詮索をしないで、メグチ」

 ミズキは部屋に訪れた人物の名を呼ぶ。そうメグチがいたのだ。

 それもメグチに初めて会った時の印象そのもので、あの狂気で呂律の回らないメグチと全然違う。ちゃんと生きていると感じるメグチだ。

「これから王都回るんですよね。早く朝ごはん食べてください。時間なくなっちゃいますよ!」

 そういってメグチは部屋を出ていく。

「え、な、ど、どうして」

 小さな声で疑問が口をつく。

 その疑問は回帰のスタート地点がおかしいということだ。これから王都を回る。それは王都に来て初日だということを示唆している。

 リリィは不思議そうな顔をしている。

「よくわからないけど、朝ごはん食べに行きましょう。これからいっぱい王都を見て回るんだから!」

 ミズキは疑問の残る中、リリィの言葉に応えるように頷く。

 ミズキが先に部屋を出ていって一人になった時、ミズキは状況を考える。

「スタート地点が戻ってる……そういうことなの?」

 自らの加護に問いかける。加護は答えない。だが、ミズキは覚えていることがあった。

 それが死の直後なのか判然としないが、死の加護はいったのだ。

ーーおめでとう。

 そう称賛の言葉を。

 それは回帰の力が強くなった。それを意味していた。

ご覧いただきありがとうございます!

やっと第二章王都招来完結です!

見ていた方、楽しみにしていた方二年あいだが空いてしまい申し訳なかったです……。

次は長くあけないよう頑張ります(自信はない)


次回次章に移ります。また続けて見て頂ければ幸いです。


もしよろしければ、

ブクマ登録

評価

リアクション

感想

お願いします!励みになります!

では、また近いうちに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。