人の来ない森の中で
後日、嘉一は、ゼノが目くらましの魔法を掛けた森の中の住みかで暮らしていた。
嘉一を見ているゼノは、口を開く。
「気が変わったら、俺の名前を呼びな。目くらましの魔法、解いてやるから。殺すのも殺されるのも、もうたくさんだから、孤独に生きて行く事を選ぶなんてな。たまにはルサナを、よこしてやるし、宿の女将さんにも会いに行ってやれ」
「会いに行くなら、ゼノも一緒にね」と、嘉一は笑顔を返す。
「当然だろ。俺は多分ここに来ないけど」
「ゼノは来ないんだね」
「絶対っていう訳じゃないけど」
嘉一が、笑う。
「ヴァン、良い人だよね」
「……まぁな」
「付き合わないの?」
「ヴァン次第だ」
「この後、会いに行くの?」
「反転が治まったからな」
「ヴァンには言ってあるの?」
「突然行くから、反転治まってるのに気づかないかもな」
「女になってても、その事に、俺も始め気づかなかったもんね」
「思ったより早く反転、治まったしな」
「そうだね。二か月だっけ?」
「……嘉一」
嘉一が、ゼノに視線を向ける。
「本当に良いのか」
「うん」
「ここに一人で居るのか」
「そうだね。きっと、ゼノを呼ぶのは死にたくなった時だよ。ユィンの様子、見れる機械、置いて行ってくれて、ありがとうね」
他の世界の様子を見れる小型の機械が、机の上に置かれている。
それは、ユィンが嘉一の居る日本を見ていた機械と同じものだ。
「物好きな奴だな。そんなに元の世界が好きか」
「この世界に比べれば極楽だ。戻れないなら、せめて見ていたい」
嘉一は、装置で、元の世界を見ている。
「ラジアンでゼノやルサナに会えた事は楽しかったけど、そこに在る幸せに気づけてたら、今も、元の世界に居られたのかな。……戻れるなら、戻りたいな」
「悪かった。お前は、死にたいとか言わないでくれ」
ゼノに謝られて、嘉一は「気をつけるよ。でも、言ったら、ごめんね」と、微笑んだ。
「胸糞悪いな。ユィンに、よく似てる」
「ゼノが会いに来てくれる限りは死なないけどね」
「……死ねよ。本当」
「おれが死んだら泣いてくれるのに、よく言うね」
「思い上がんな」
「ゼノと友達になれて良かった」
「馬鹿かよ」
ゼノが腕を組み、背を預けた壁に寄り掛かる。
嘉一は、ゼノを見る。
「ゼノ。俺を異世界に連れて来てくれて、ありがとう」
ゼノは、少しだけ苦笑したような笑顔を嘉一に向け「お前が馬鹿で良かったな」と呟く。
嘉一が、ゼノに「うん。おれ、馬鹿で良かった」と笑い返す。
眩しいものでも見るように、ゼノが「お前の望みは叶うよ。それだけ言っとく」と、目を細めた。




