↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最恐魔導士は、おれがお嫌い  作者: 水桜崎 有叉杜
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/62

日常の一端

 帰って来たゼノの、腰まで伸びた髪がボサボサになっている。

 服のあちこちは切り刻まれた状態で、自宅に戻って来て、リビングに現れたゼノを見たユィンが、座っていたソファから、立ち上がった。


「誰にやられた」


 ゼノは表情を無くした抜け殻のような顔で、ユィンを見た。


「逃げて来たから大丈夫」


 そう返したゼノに駆け寄り、ユィンは口を開く。


「お前のその姿を初めて見た時は驚いたが、女のお前を見ても、俺は何も感じない」

「そりゃ良かった。お前にまで見る目を変えられたら、俺は男全部に失望してる」


 ユィンが少し考えたような間の後、「俺の心が死に掛けてなければ、お前を綺麗だと思っただろうか」とゼノに聞いた。


「この世界じゃ、お前の心が元気になる事は無い。あっちの世界に行って、お前がどう思うかは知らないよ」

「……それもそうだな……」

「……ごめんな。今、強い魔法が使えない。お前を異世界にやるには、もう少し時間が掛かる」

「目星を付けたんだったか」

「ああ。お前は幸せになれるよ」

「その日が待ちどおしいな」


 床に膝をついて、座り込んだゼノが、自分の両肩に手を置き、自身を抱き締めるようにして、震え出す。


「は……マジ、気持ち悪ぃ……」


 視線を床に落としたゼノに「俺は近寄らない方がいいか」とユィンが尋ねる。


「……お前は大丈夫だよ」


 返事をしたゼノに近づいて行ったユィンが屈んだ後、ゼノを抱き締めた。

 少しして、その行動を止めたユィンに視線を向けず、ゼノが困惑したように、言う。


「友達には普通しないだろ」


 わずかの時間、黙って、ユィンがゼノを見つめた。


「友達……」

「悪い。お前にとって俺は、何でも無いんだよな」

「……すまない」


 苦笑したゼノは「着替えて来る」と立ち上がる。

 自室に向かおうとするゼノに、ユィンは「その姿の時に、今まで何が有ったんだ」と聞いていた。


「一方的な愛の告白から始まり、拉致、拘束、軟禁、監禁、薬を打たれて強姦未遂」

「……」

「本当、気持ち悪ぃ……」


 過去の事を思い出したのだろうゼノは、立ち止まる。

 ユィンに「髪が長くなっている以外、俺には、普段のお前と、どう違うのか分からないが……」と首を傾げられたゼノは、「俺にも、ちっとも分からないよ」と返した。


「普段は男には興味持たれないんだよな?」

「まれに物好きは居る……」

「……大変だな……」

「一人で出掛けるんじゃ無かったよ……」

「どうして、俺に声を掛けなかった?」


 疑問を口にしたユィンに「掛けたよ。お前、向こうの世界の映像、見てて、返事が無かったから……」とゼノが頭を掻いた。


「今度その姿で出掛ける必要が有る時は、殴ってでも声を掛けてくれ」

「……そうする」

「ごめんな」

「悪いと思うなら、夕飯の支度、頼めねぇか?」

「夕飯?」

「今、包丁見ると、怒りが湧いてきそうでさ。今日の奴、包丁持ち出して来やがったから」

「……怒りだけか? 恐怖じゃなくて?」

「怒りだよ。力で敵わねぇ相手を、包丁で脅すなんて最低だ」

「そいつを殺したのか?」

「気が付いたら魔法が発動しちまってな」

「……そうか」

「なんで残念そうなの」

「一度もゼノの役に立ててない……」

「そんな事、望んでない。だから、いいんだよ」

「お前は寛容だな」


 ゼノから視線を離さないユィンに「んな訳無いじゃん」と、ゼノは笑顔を向ける。

 ユィンは横に首を振り、「寛容だよ。俺を助けてくれた」と、ゼノを、また瞳に映す。


「じゃあ役に立って貰おうかな。グラタン食いたいから作ってよ」

「……レシピが無いと無理だ」

「母ちゃんの遺品に有ったんじゃないかな。探してくる」


 歩いて、屋根裏部屋に続く、はしごに手を掛けたゼノに、ユィンが「その前に着替えなくていいのか?」と聞く。


「話してる内に忘れてたわ。先に着替えて来る」


 はしごから手を離して、自室に入ろうとしたゼノの後ろ姿を、ユィンは見ている。

 そこには、何の感情も無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。