ゼノの本音
ゼノの家の客室で、嘉一が居る世界を見る事の出来る機械を、ユィンが見ている。
その部屋のドアをノックして、ゼノが開き戸を手前に開け、中に入ってくる。
「ユィンは本当に、この世界の事が嫌いなんだね」
「……ゼノは、この世界の事が好きか?」
「極悪非道を尽くした相手に、暴力を振るったら裁かれる国の方がユィンは良いんだね。俺は、そんな理不尽な国より、悪者を成敗しても、何も言われないこの世界の方が好き。ごめんな。なかなか、良い奴、見つからなくて」
「本当に入れ変われるのか?」
「お前が幸せになれる奴を見つけてやるよ」
「そいつは、俺として生きて行って、大丈夫か」
「俺が、何とかするよ」
「信用していいか?」
「……どうだろうねぇ」
返答を聞いたユィンが、真顔でゼノを見る。
「約束してくれ。そうでなければ、俺は他の世界に行く事を選べない」
「……指きりでもしとく?」
「それが、何の証明になる?」
「それも、そうだねぇ」
「周りが良い人なら良い人なだけ、俺は罪悪感を覚えるだろう。入れ替わったと話してしまうかもしれない。話を信じてくれる家族なんて、居るか?」
「意地でも探すよ」
「ゼノなら、やるだろうな」
「向こうに行く前に、家事の一つも覚えとけば?」
「俺が何も出来ないとでも?」
「家事ってのは、料理と洗濯だけじゃないよ?」
「何が有る?」
「まずは、掃除かなぁ」
「それは……そうだな……」
「まぁ、明日からでいいけどね。食事作ったら、食べる?」
「始めの三日だけ、俺が作った後、結局ずっと、お前が作ってくれてないか?」
苦笑とも微笑ともとれる表情で、ゼノが「塩と砂糖、間違えて、甘いチャーハン作る奴に任せられないねぇ」と返す。
「失敗したのは初日だけだろう」というユィンの返事に、「そう。料理は大丈夫と思ったから、後は、俺が作るでいいんだよ」とゼノが笑う。
「お前は人を甘やかすクセが有るのか?」
ユィンの真剣な様子に、ゼノは吹き出す。
少しの間だけ笑ってしまったゼノが「どうでもいい奴には、こんな事、言わないよ」と腕組みすると、ユィンが「……俺は……」と俯いた。
ユィンを見たまま、「ユィンは助けてくれるなら誰でも良くて、俺じゃ無くても良かったんだよね」とゼノは腕組みを解いた。
「助けてくれて、感謝している……」
「……心が死に掛けてる奴に、何言っても無駄か。いいんだよ。ユィンが、そういう奴なのは知ってるから」
「すまない……」
「その内、俺が甘やかした理由に気づいてくれればいいよ」
顔を上げたユィンに向けられるゼノの視線は、まるで、とても大切なものを見るようで、それは多分、友達に向ける視線だが、ユィンは、その事に気づいていなかった。




