ナラの複製
食料を買う為の店に向かう途中の道で、ゼノが少しだけ後ろに視線をやった事で、嘉一が「どうしたの」と聞いた。
「つけられてる」
「え!?」
「走る。ヴァンの家から出来るだけ離れよう」
「逃げて、ルサナとヴァンは大丈夫?」
「お前が人間相手に怯まなければな」
ゼノが、走り出し、嘉一は、ゼノに着いて行く。
柱の後ろから出て来た影が、ゼノと嘉一を追い掛けて来る。
嘉一が「本当に、つけられてた……!」と小声で言う。
「嘉一。悪い知らせだ」
「悪い知らせ? 相手が人間とか!?」
「その通りだよ。任せたぞ」
ゼノが、いきなり横道に入って行き「姿、入れ替えてて良かったな! ゼノ! お前、逃げ切れるぞ!」と叫んだ。
敵が、少し立ち止まって、ゼノと嘉一を交互に見た後、嘉一を追い掛ける。
嘉一は戸惑った後、「くっ……。そうだよ、俺がゼノだよ! こっち来い!」と叫んだ。
空中に真っすぐ嘉一が手を伸ばすと、土が盛り上がって行き、敵を呑み込む。
敵は、箱型の土に覆われるが、その右手が箱の側面を破って、飛び出した。
「息が出来なくなれば気絶すると思ったのに……!」
嘉一は呟くが、敵は、飛び出させた右手を顔の辺りに持って行き、土壁を、むしるようにして砕いた。
嘉一は、相手の顔を見て、驚く。
「ナラさん……!? ずっと追いかけて来てたの……!?」
「気持ち悪い奴だねぇ」
ゼノは、そう言い、敵はゼノを見て、ゼノの方に歩を進めようとした。
「ゼノ! 頼んだって言ったよな!?」
「おれ、まだゼノなの!? これ、誤魔化せてるの!?」
「誤魔化せてないに決まってんだろ!」
敵は、ゼノを見つめたまま、突っ立っている。
嘉一が、手に炎を宿し「それ以上ゼノに近づくと燃やすからね!」と声を上げる。
「断ってる場合か! さっさと燃やせ!」
「だって……どう見ても人間じゃん!」
「目に見えるものに囚われてたら殺されるぞ!」
「え? 違うの!?」
「そいつは、ナラの細胞を使って作られた複製だ! 魂が無い!」
「人間じゃないの!?」
「……んな事、知るかよ! お前、細胞そのものを人間って呼ぶか!?」
「やばい……考え始めたら、沼に……」
「とにかく、お前が何とかしてくれなきゃマズいんだよ! 人形とでも思え!」
「あれを人形だと思えって!? ……思えないけど、やってみる……!」
嘉一が、炎を敵の方に近づけるが、炎は途中で動きを止める。
「ヴァンは知ってるのかな? お兄さんの複製が有るって……」
「知ってたら、もう少し頭が回る奴だろう」
「生ける屍でも、動いてる限り生きてると俺は思うんだけど……」
「生きてる奴が、授華呪の炎を前にして、微動だにしないって事が有るか」
「脳に障害が有る人とかさぁ……」
「そういう奴も居るけど、あいつは違うだろ」
敵が、嘉一が停止させていた炎の方に近づき、自ら炎に呑まれた。
嘉一は、それを見て「嘘だろ……」と呟いた。
ゼノが「自殺かね?」と言い、嘉一が「そうなの?」と聞く。
「俺が知るかよ」
ヴァンの家の方を、ゼノが見る。




