ゼノの昔の知り合いと、見知らぬ護衛
ゼノが、大勢の人の一番前に居る人間を見る。
「……エン。久しぶりだね」
エンが、ゼノに名前を呼ばれて、「こっちから、音がすると思ったら、ゼノか」と、ゼノを見た。
嘉一は「知り合い?」と、ゼノに聞く。
「親父が殺された時に攻撃を受けて重傷負って、死に掛けてた俺を助けてくれた。親父と同じ戦犯だよ」
エンは「嫁になるはずだった女の腹に娘が居る時に、ここにぶち込まれたから、顔は見た事が無いが、その娘と、ゼノが同じ歳だったんでな」と、懐かしいものを見る目でゼノを見た。
「一度は外に出れたのに、管理人として、ここに戻って来るなんて物好きだよねぇ。あんたが規則変えたおかげで死人は出なくなったみたいだけど」
「お前は相変わらず容赦無いみたいだな。賞金首狩りと、人形製造機の破壊なんて、目ぇ付けられる真似しやがって」
「やっぱり俺が目を付けられてる?」
ゼノとの会話の後に、エンは嘉一を見て「そっちの連れは」と、嘉一を見た。
「昔はユィンだったけど、今は嘉一だよ」
エンは、ゼノのその返答に「間違って人、殺したって一時期ひどい報道のされ方してたけど、結局、殺した奴が黒幕だったんだろ? 追われてるなら仕方ないけど、名前を変える必要が有るか?」と聞き、ゼノが「色々有って今は嘉一なんだよ」と答える。
「そうか……。ゼノ。魔力が反転しているようだが、今、大勢から戦いを挑まれたら敵わないか?」
「逃げなきゃ死ぬだろうね」
「お前を殺そうとしてる奴らが居る。何か有ったら、戦闘士達にも応戦して貰うから、反転が治まるまで、ここに居るといい」
「そりゃ、有り難い申し出だけどねぇ。嘉一が居れば大丈夫じゃない?」
「そのガキは、そんなに強いのか?」
「相手が人間じゃ無ければ容赦ないよ」
「それじゃ戦力にならない。見当は付いてるだろう? お前がそうしたように、お前の首を落としたい奴らが居る。しばらく、ここに居ろ」
「……いつ、反転が治まるか分からないんだよねぇ」
「ここに居る間、魔法を使わなければいい」
「一生、戻らなかったら、どうする?」
「嫁に行ったらいいんじゃないか? 反転したお前は昔からモテる」
ゼノが嫌そうに「……実際そうするしか無いだろうね。あんたが冗談言うなんてな」と苦笑する。
「お前と戦ってた頃は、余裕が無かっただけだ」
「男ばっかの、ここの世話になるより殺される方がマシ」
「手は出さないように、戦闘士達には言い聞かせる」
「それで何も起きないとでも?」
「せいぜい着替えを覗かれるくらいだ」
「そうだな。減るもんじゃないし……って、嫌に決まってんだろ」
「どうしても嫌か」
「こちとらトラウマものの経験、色々有るんでね」
「そうか……じゃあ、一人、護衛を付けよう。女ならいいだろう?」
「ああ。ありがたいよ。反転してる時は、不思議と男にしか興味持たれないから」
ルサナが「え? 反転してるのに女の人に口説かれてるの見た事、有るけど……」と口を挟む。
ゼノが「ルサナ。余計な事、言うな」と迷惑そうな表情になる。
エンは「ガキの頃は、そこまでじゃなかったのに、気の毒に」と、本音を漏らした。
エンの隣りに居たヴァンが一歩、前に出て来る。
「闘技場の警備員をしています。ヴァンです。私に護衛をさせて下さい」
作業着を着ているヴァンは、黒いボブの真っすぐな髪と、黒い目をしている。
ヴァンの申し出に、エンが「そうだな。ヴァンなら問題無い。臨時の警備員を、もう一人雇えばいいだけだから、闘技場の事は心配するな」とゼノに言う。
ヴァンが「ゼノさん。よろしく」とゼノに近づく。
ゼノは、ヴァンに手を差し出され、握手を求められると、しばらくの間の後、仕方ないといったように応じた。
手を離したヴァンが「嘉一さんも、よろしくお願いします」と嘉一にも握手を求める。
嘉一は「よろしく……」と握手に応じたが、一瞬で手を離され、戸惑った。
ヴァンが「ゼノさんの家には帰らない方がいいです。どうぞ、私の家へ」と口にする。
「おたくの家は安全なの?」
ゼノの問いに、ヴァンは「自宅に帰るより、敵に襲われる可能性は低いです。嘉一さんとルサナさんも、一緒に、どうぞ」と答えた。
ゼノが、ヴァンから目を逸らし、嘉一はゼノの様子を見て、ヴァンに目を向ける。
ヴァンは、エンに「しばらく留守にしますが、よろしくお願いします」と頭を下げた。
◇◇◇
ヴァンの住む屋敷は、闘技場から半日も有れば着く距離に有った。
辿り着いた豪邸で、豪華な置物や、高級そうな絨毯を見た嘉一は、言葉を無くした。
嘉一は、天井からシャンデリアが下がっているのを見て、余計に何も言えなくなる。
四人は、ヴァンを先頭にして、ルサナ、嘉一、ゼノの順で家の中を歩く事になった。




