ゼノ、不機嫌になる
ゼノの自宅で、嘉一とルサナが、リビングのソファに座っている。
ゼノが、サイズの合ったワイシャツを着て、自室からリビングに出てくる。
「なんで、嘉一が殺したお兄さんが悪い奴だって言わなかったの?」
ルサナに見られて、ゼノは「俺が話さなくても、聞く機会が有っただろ?」と返事をした。
「私が言うまで、嘉一は知らなかったよ」
「そりゃ、話してくれて、ありがとうな」
「いい加減な返事……。荒くれ者の集落にでも投げ込んでやろうかな……」
「男ばっかだろうな……勘弁してくれ……」
「いい加減な返事するからだよ」
「考えるだけでトラウマが……」
「トラウマだらけだね」
「九歳に言えないような事、いっぱい有るんだよ?」
「面白くない話なら聞きたくない」
「話す気、無いから、いいよ」
「女の身体になる度、ゼノは色々有ったけど、町長の息子さんからの求婚には笑ったね」
ちょっとだけ思い出し笑いをしたルサナに、ゼノは「あれは笑い話だな」と返す。
「毎日みたいに豪華な花束持って来て、新種のバラ作って、ゼノの名前、付けるって言ってたもんね」
「花束持って来るついでに、手の甲にキスして来るのは止めて欲しかったけど」
「嫌じゃ無かった?」
「気持ち悪い通り越して、笑えて来たからな」
「『君の為に特注のウェイティングドレスを仕立てさせるよ』って言ってたね」
「奥手なのか積極的なのか分からないよな」
「久しぶりに、ゼノが笑った所、見たいな」
「面白くもねぇのに笑えるかよ」
ルサナは「ねぇ、ゼノ。嘉一の前じゃ、ほとんど笑った事無いって本当? 嘉一の事、嫌い?」と、身体の前で手を組んだ。
ゼノが、嘉一を見て、嘉一は、ゼノと目が合って、視線を逸らした。
その様子を見たゼノは「死んでほしいよ」とだけ答える。
ルサナが「そうなの?」と聞き、ゼノが「ルサナ。そいつ連れて、帰れ」と二人から視線を外した。
嘉一は「ゼノ……ごめん。ルサナ、帰ろう」と、立ち上がろうとする。
「素直じゃない」
ルサナが、それだけ言って、ゼノを見る。
「嘉一に死んでほしいのは、自分がつらかった事、思い出すからでしょう? 嘉一には関係無いじゃん」
「うるせぇな。苦労知らずは嫌いなんだよ」
「ユィンと嘉一を入れ替えてから、ずっと嘉一と居たのだって、本当は放っとけなかっただけのくせに、天邪鬼よね」
「……それが?」
「嘉一と仲直りしないと、もう、口、聞いてあげないから」
ルサナは、じっとゼノを見続けている。
ゼノは、ルサナを見て「お前が口出す問題じゃない」と言った。
「ゼノの分からず屋」
「相容れない人間ってのは居るんだよ。お前がユィンを嫌いだったように」
ルサナが、椅子から立ち上がり、ゼノに背を向けた後、ゼノに顔だけ向け、「ゼノなんか一生、性別反転したまま、玉の輿にでも乗っちまえー!」と叫び、走って、玄関から出て行った。
嘉一は、ゼノと、ルサナの出て行った方を交互に見た後、ルサナを追い掛け、玄関から外に出た。
ゼノが、棚の上に置いたままの杖を見る。
「ルサナ……あいつ……マジで性別、元に戻らなかったら、どうしようって毎回、怖ぇの分かってて、死にたくなるような捨て台詞、吐きやがって……」
杖を持ったゼノが、外に出た。




