喧嘩別れ
嘉一は目を覚まし、しばらくの間、空を見つめていたが、自身の胸元に手を触れ、怪我をした所の血は止まり、傷がふさがっている事を不思議に思った。
「治ってる……?」
冷たい目で嘉一を見ていたゼノが、口を開く。
「やっと死んでくれたね。いい気味」
「何をしたの、ゼノ……」
「死にやがったから生き返らせただけだよ」
嘉一は、一瞬、考えた後「じゃあ、与命の魔導士ってゼノなんだ……」と呟いた。
「もしかして、古代神殿の狼男も、ゼノが生き返らせたの……」
「ようやく気づいた? お前の馬鹿さ加減に呆れるね。そういえば、滅ぼされた花錬族を生き返らせたいんだっけ? 肉体が無い奴は無理だよ。花錬族は、授華呪でユィンが全員、火葬しちゃったから、さすがの俺でも、魂を呼び戻せないね」
まだ、はっきりしない意識の中で、「花錬族を生き返らせられないなら、なんで、ここまで一緒に来たの……」と嘉一は尋ねていた。
「見えない場所で死なれても、つまんねぇじゃん? お前、案外しぶといから、死なねぇかと思ったわ」
「なんで、自分で俺を殺さなかったの」
「ユィンと、お前を入れ替える為に使った魔法の影響で、お前に攻撃的な魔法、使おうとしても、発動しないんだよね。理屈は、よく分からないんだけど」
「おれを生き返らせたのは、どうして……?」
「何か、俺に言いたかったんじゃないの? 最後、何か言い掛けてたから」
ゼノを見て、嘉一が「ありがとう、って……言おうとした……」と言うと、ゼノは苦笑し、
「ぬるいね、お前は」と漏らした。
「なんでもない日々を、退屈だと思ってた。日々を食いつぶすだけの、おれに、生きてる価値も、生まれて来た意味も無いんだって……。だけど、誰かの……ユィンの役に立てたなら、おれにも生まれて来た意味が有ったんだって……。そう思わせてくれたゼノに、ありがとうって……」
嘉一は少しの間の後「でも、ゼノは、本当に、おれの事が嫌いだったんだね……」と口にした。
ゼノが、嘉一の傍に片膝をつき「……今は? どう思ってるの?」と聞いた。
その言葉に、嘉一の目が少しずつ潤む。
「帰りたい……」
嘉一は、涙を流し「帰して……」と呟いた。
「嫌だね。お前なんか一生、苦しめばいいよ」
「ゼノが、おれとユィンを入れ替えた事が罰なら、もう罰は受けただろ……。頼むから、帰して……」
ゼノは、嘉一の首に片手を掛け、心底、憎い者を見る目で嘉一を見た。
力を込められて、嘉一が軽い咳をする。
「どうやら魔法使わなければ、直接、お前、殺せるみたいだね。これ以上「帰して」って言ってみろ。本当に殺してやるから」
「殺すのも、殺されるのも、もう嫌なんだ……」
「ユィンは、ずっと一人で、そんな思いをしてたんだよ」
「知らないよ……。ゼノ……助けて……」
ゼノが、嘉一の首から、手を離し、立ち上がる。
「勝手だね。自分が救われる代わりに、生まれて初めて、極楽のような世界を味わったユィンを、また生き地獄に叩き落とすんだ?」
軽蔑の目を嘉一に向けて、「そんなに解放されたいなら死ねば? お前が死んでも誰も泣かないから」と告げて、ゼノは消える。
嘉一は、泣きそうな顔で「ゼノ……一人にしないで……」と言う。
走って来る足音に気づいた嘉一が「また……誰か殺さなきゃいけないのかな……」と呟きながら、身を起こした。
嘉一が立ち上がった時、「てめぇか。工場の機械壊したのは。火事まで起こしやがって」と言った者を含めて数人の男が現れ、彼らが剣を持っているのを見て、嘉一は逃げ出した。
「ユィンは、ずっと、一人で、こんな思いをして来たんだな……」
走っていた嘉一は「誰かが幸せな影で、誰かは不幸になるのかな……」と、立ち止まりながら、呟く。
「もう……死んでもいいな……」
嘉一を追い掛けてきた男達の首が空中に現れ、地面に落ちた。
「死にたいの? 殺してやろうか」
ゼノが目の前に現れ、そう言った事で、嘉一は、まるで、限界を超えた後、救われたような笑顔を見せた。
「……ゼノが来てくれたから、その気、無くなった」
「そりゃ残念だね。殺しても、お前の事、嫌いな事に変わりないけど」
そう発言したゼノを見て「じゃあ、その内、殺してよ」と、嘉一は泣きそうな表情で笑う。
「……お前の為に、力使うのなんて、ご免だね」
「ゼノは、そういう奴だよね」
嘉一は、ゼノが杖を持っていない事に気づき「杖が無くても魔法、使えるの?」と尋ねた。
「魔力を余計に使うけど、使えるよ。死にたいって、お前の声が聴こえたから、うっかり、杖、忘れて来た」
「元の世界の様子、杖が無くても見れる?」
「それくらいなら出来るけど」
「ユィンが今、どう過ごしているか見せてくれないか」
ゼノは黙って、空中に映像を投影し、嘉一は、嘉一として暮らすユィンの姿を見た。




