夜のおしゃべり
夜になり、嘉一とゼノは、女将と食堂に居た。
「記憶が、あいまいなんだけど、お掃除してくれてたのね。ありがとう」
食卓に、ついている嘉一とゼノの斜め横の椅子に、女将が座っており、嘉一とゼノは、ゼノが作ったオムライスを食べている。
「すみません。騒がしくして」
ゼノが謝ると、「あなた達二人しか居ないんだから、騒がしくして構わないわ」と、女将が笑った。
嘉一が小声で「女将さんの記憶、消したの?」と、ゼノに尋ねる。
ゼノも、「ここに来た、賞金首に関わる記憶は全部な」と、嘉一と同じくらい小声で、女将に聞こえないように答える。
「そんな事も出来るんだ……」
嘉一の返答が聞こえなかった女将が「寝ちゃうなんてね。私、疲れてたのかしら」と、苦笑した。
「今日は暖かかったから、寝るのも無理は無いですよ」
そうゼノに言われて、「でもね。まだ眠いの。どうしてかしら」と、女将が困ったような表情を見せる。
ゼノが「暖かいからですよ」と優しく笑う。
「二人とも、明日の朝、食事とったら、行ってしまうんでしょう?」
「お世話になったので、それまでに何か、お菓子でも作りますよ」
「ゼノさん、お菓子も作れるの?」
「凝った物、作る時間は無いですけど」
「手伝いましょうか?」
「女将さんは、そうしたいですか?」
「一人娘が、お嫁に行く前は、二人で作ってたんだけどねぇ。一緒に出来たら、嬉しいわ」
女将と、そう話して、ゼノが「じゃあ、頼みますね」と、女将に返す。
ふふと笑った女将は「懐かしいわ」と、目を細めた。
嘉一が「おれも手伝った方がいい?」と、ゼノに聞き、ゼノが「台所、狭いから三人は立てないよ」と、返答した。
「なら、止めとくね」
「三か月前も会いに行ったのだけど、また、娘に会いにいこうかしら」
女将の言葉に、ゼノが「いいんじゃないですか」と微笑む。
「孫娘も料理に興味を覚える年ごろでね。一緒に作ろうって言ってみようかしら」
ゼノが「その前に、女将さんに会えて良かったです」と伝える。
「本当に懐かしいわ。ゼノさん達のおかげね」
「俺達は何もしてないですよ」
嘉一が、女将を見る。
女将は、少しだけ目に涙を浮かべ、「寂しいわ」と口にした
嘉一が「また来ていいですか?」と言い、ゼノが「そうだな。また来るか」と続けた。
「半年後に、宿を畳んで、娘家族と一緒に暮らす事になってるの。ここ一年、お客さんは来なかったから、これから半年も、多分、誰も来ないわ。きっと、最後のお客さんは、あなた達ね」
ゼノは「娘さんの家、教えて頂けたら、会いに行きますよ」と、女将を見る。
女将が「……嬉しいわ」と、少し微笑む。
「俺、一瞬で移動できるんで、いつでも行きます」
「ゼノさんは凄いのね」
嘉一が、「うん。ゼノは凄いよ」と、女将の言葉に頷いた。
「お前も来いよ」
ゼノに見られて、嘉一が「……」と黙り込む。
「二人は仲が良いのね」
そう言った女将に「……まぁ」と、ゼノが返す。
「きっと、孫も喜ぶわ」
「明日の朝、女将さんの分も食事、作りましょうか」
ゼノに聞かれて、また、ふふと小さく笑った女将が「私の分はいいわよ。飲み物、おかわり持ってくるわね」と、二人のコップを持って、キッチンへ行く。
嘉一にだけ聞こえる小声で、ゼノは「バレるのも時間の問題だけどな」と呟いた。
嘉一も「何が?」と小声で問う。
「賞金首を殺したってニュースになる。そしたら、女将さんは俺達に関わりたくないさ」
「じゃあ、記憶を消しても意味が無かったんじゃないの」
「すぐ追い出されたら困る」
「……そうだね」
「菓子作っても、結局、その菓子、捨てられるよ」
「そっか」
二人のやり取りを耳にしていない女将が「ゼノさん達が来てくれて良かったわ」と、戻って来る。
少しの間の後、ゼノが「……ありがとうございます」と、女将に笑い掛けた。




