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最恐魔導士は、おれがお嫌い  作者: 水桜崎 有叉杜
第四章

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嘉一、落下する

 山道を歩いている嘉一の少し先を、ゼノが歩いている。

 嘉一には目くらましの魔法が掛けられていて、他の人間からは別の人間に見える状態だ。


「まだ、上?」


 道の上の方を見ながら、嘉一はゼノに聞いた。


「まだまだ、上。この先の洞窟に凶悪な魔物が居るらしい」

「凶悪かぁ。俺、死に掛けるかなぁ」

「是非そうなってほしいな。死に掛けた、お前を放置して、魔物を倒した後、俺は立ち去るから」

「嫌われ過ぎだろ、おれ……。ねぇ、ゼノ」

「何だよ、ゴミクズ」

「昨日は名前呼んでくれたのに悪化した……。後悔しなかった? ユィンと会えなくなって」

「くだらない事、聞くんだな」


 嘉一が、「ユィンの事は嫌いじゃなかったのかなって……」と、少し俯いた。


「ラジアンに居ても、ユィンは幸せになれない。死にたがってたユィンが興味を持ったのが、お前として生きる事だ。あいつが前向きに生きる事に手を貸しただけなのに、なぜ後悔する必要が有る?」

「ユィンは今、幸せなんだよね? ゼノは、俺が居た世界の様子、見れるんだろ?」

「ああ。幸せみたいだよ。姉が三人も居るのには、戸惑ってるみたいだけど」

「……こっちに帰りたがってたりしない?」

「それは無いんじゃない?」


 淡々と返される言葉に、嘉一が「ゼノの名前、呼んでたりとか」と聞く。


「たまに有るけど『ありがとう』としか、ユィンは言わないよ」

「……そっか」

「昨日の夜は泣いてた。『こんなに幸せでいいのかな』って。ユィンが帰りたがってるなんて有り得ないね」


 また、行き先に視線を戻して、嘉一はゼノに質問した。


「毎晩、ユィンの様子、見てるの?」

「毎晩じゃないよ。あいつの声が聴こえた時だけ」

「ゼノはユィンの声、聴こえるの?」

「俺には死に掛けてる奴の声が聴こえるからな。ユィンの心が元気になれば、きっと聴こえなくなるよ。――着いたぞ。ほら、洞窟」


 ゼノが、顎で前方を示す。


「思ってたより近かった」


 嘉一が、前方に見える洞窟を見て、「え? ここ入るの?」と、唖然とする。

 洞窟は、鍾乳石が多く下がっており、「……本当に、ここ?」と、嘉一は戸惑った。


「多分」

「何か入りたくないなー……。真っ暗だし」


 ゼノが空中に松明を呼び出し、「ほら」と嘉一に渡す。

 受け取った嘉一は「炎? じゃあ、俺が呼び出しても良かったんじゃ……」と口にする。

「要らないなら消そうか?」

 松明を嘉一から、自分の方に近づけたゼノに、嘉一は急いで、「いや、助かる。ありがとう」と礼を言った。




◇◇◇




 奥に進んだ嘉一が「魔物の巣窟……?」とゼノを見る。


「おかしいな……」

「うじゃうじゃ魔物、居るんじゃないの? また奥に狼男でも居るのかなぁ」

「もう狼男は、出て来なくていいよ……」


 一瞬で、疲れた表情を見せたゼノに、嘉一が「子供の狼女さんが持って来た薬、本当に不味かったの?」と疑問をぶつけた。


「あんまり」

「じゃあ、なんで不味いって言ったの……」

「ルサナの作る飯の方が不味い」

「どっちも不味いって事?」

「ああ。ルサナが初めて作ってくれた、おにぎりに比べればマシ」


 嘉一が「ちなみに、どんな風に不味いの……?」と聞くと、ゼノの目が遠いものになった。


「出来合いの牡丹餅の中に、昆布と梅干と、マヨネーズで和えたツナが突っ込まれてる。気合で完食した」

「……ゼノはルサナには優しいね……」

「ルサナは、あいつが生まれる前に亡くなった親父さんに似て、四歳まで病弱だったからな。死に掛けた事が有るから、死にたいって言う奴が嫌いなんだ。言葉喋る前から面倒見てれば情も湧く」


 その発言に、嘉一は「俺もガキだったら、ゼノに優しくして貰えたのかなぁ」と本音を、こぼした。


「ガキの面倒は、もう見たくない。『美味しい物を合わせれば、もっと美味しくなると思って』って、ことごとく最悪な組み合わせで食べ物作るんだそ? おかげで不味いものに慣れたけど」

「……料理、覚えようかな……」

「自分で作れる」

「おれ、何したらいいの……」

「さっさと死に掛けろ」


 ゼノの容赦ない返事に、嘉一は「強い魔物さん出て来て……」と言うのが精一杯だった。


「花錬族より強い魔物ねぇ……」

「居る?」

「魔王ぐらいじゃない?」

「魔王って、他にも居るの?」

「その辺に、そこそこ居るよ」

「古代神殿だけじゃないんだ……」

「ここには居ないけど」

「そうなの!?」

「仮に魔物が出て来ても、お前、余裕で倒せるよ」


 嘉一が「じゃあ、違う所、行こうよ……」と、足元に視線を落とした。


「俺も、その方がいいんだけど……。魔物なら、何でもいいのかなって……」

「死に掛ける方がいい」

「じゃあ、引き返す?」

「魔王にズタボロにやられたら、おれの事、好きに……」

「多分ならないよ」


 ゼノの言葉にショックを受けた嘉一が、ふらふらと歩いて、壁に手をついた直後、壁が倒れて、大きな穴が現れ、嘉一は、そのまま穴に落下して行った。

 地面に、しりもちをつくように嘉一は落ちる。

 頭を上げて、見た前方には、円陣を組むように、地面に座り込んだ盗賊が沢山居た。

 思わず、嘉一は「……嘘だろ……」と呆然とする。

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