魔王の居る部屋
最下層についた嘉一は、後ろ姿のゼノが居るのを見た。
ゼノに駆け寄り、ゼノの左腕を掴んだ嘉一が「良かった! 無事で……」と声を掛けるが、ゼノは、それには応えず、右手で杖を構える。
嘉一の視線の先で、ゼノの杖の先が発光し始めた。
ゼノが見ている方角を見た嘉一は「……っ」と、声にならない声を出す。
半透明のドーム状のカプセルから伸びた管が、ゼノの首に刺さっていた。
ドーム状のカプセルの中には、赤ちゃんが居る。
以前に「帰って」と言った狼女が現れ、「私達の魔王様は千年ごとに生まれ変わる」と口にした。
「今の魔王様は未熟児として生まれたの。魔力が充分ではなくて、ずっと眠っている。魔力が足りなくて、カプセルの外では生きていけない」
「それとゼノの首に何か刺さってるのと、何の関係が?」
ゼノの杖の先からの光が止み、ゼノの首に刺さっていた管が風の刃で切り落とされ、ゼノが、首に残っていた管を引き抜く。
「俺の魔力を喰らえば、魔王が目を覚ますって事だろ」
「え」
嘉一の驚いたような声に、ゼノを見たままの狼女は「あなたは死ぬけど、あなたの仲間は魔王様に願い事を叶えて貰えるわ」と告げる。
「それは良い話だね。あんた達の魔王様の方が先に死ぬけど」
ゼノが杖を構え、カプセルの中の魔王が、目を開ける。
カプセルが内部から破裂し、光を放った事で、嘉一の目には何も見えなくなった。
嘉一の視界が元に戻った頃には、魔王は床に転がったまま、口をパクパクさせていた。
呼吸が辛いのだろう。
「嘉一。帰るぞ。魔王は放っとけば死ぬ」
部屋の入口の方に体を向けたゼノに、嘉一は何も言えず、魔王を見ている。
「そなたの願い事は……?」
狼女が「魔王様……!」と魔王に駆け寄った。
「望みを言え……。その為に我は居る……」
ゼノは「無理でしょ? その状態で願い事、叶えるなんて」と少しだけ魔王の方を振り返る。
「死ぬ前に誰かの望みを叶えたい……」
狼女が、泣きそうな表情で「回復に魔力を使って下さい……。死なないで下さい……」と魔王の手を取る。
魔王を見ていた嘉一が「何でもいいの?」と口にした。
「なら、あなたが元気になって、成長出来ますようにって願うよ」
その願い事に、ゼノが「……嘉一」と、嘉一を見た。
狼女が、魔王を見て「魔王様……?」と呟く。
魔王は、身体から光を放った次の瞬間、成人男性になった。
ゼノが「お前、これでいいのかよ」と嘉一に、呆れたような表情を向ける。
「これで元の世界に戻れても、後悔するから」
嘉一の言葉を待ったように、魔王が「この奥の部屋に、財宝が有る。好きなだけ持って帰るといい」と、ドアの方を手で指し示した。
魔王を見た嘉一は、「魔王って悪い人かと思ってたけど、良い人ですね」と笑顔を向けた。
◇◇◇
神殿の出口まで来たゼノが宝物の入った子袋を二つ持っている。
嘉一はゼノのすぐ後ろに居て、二人とも、立ち止まっていた。
狼男の横で、その子供の狼女が、嘉一とゼノに手を振り、二人を見送っている。
子供の狼女は、途中で、ゼノに薬を持ってきた子で、立ち去る嘉一とゼノに、大きく手を振っている。
「あの子の父親も生きてたんだね」
狼男と狼女の子供を背にし、少し離れた場所まで来た時に、嘉一が、ゼノに聞いた。
ゼノは狼男と狼女の子供を、わずかに振り返りながら「……そういう事にしとくか」と返した。
「俺が倒した他の狼男も、みんな眠ってるだけだったね」
嘉一の言葉に、ゼノが小声で「いいよな。お前は馬鹿で」と、漏らした。
その声が聞こえなかったのか、特に何も言わずに、嘉一が「宝物、どこで、お金にするの?」とゼノを見る。
「その辺で」
「もう少し詳しく……」
「これだけの物なら、どこでも金になる。もう遅いし、店探すのは明日にしよう」
ゼノから言われて、嘉一はゼノと、宿を探しに行く事にした。




