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最恐魔導士は、おれがお嫌い  作者: 水桜崎 有叉杜
第三章

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煎じ薬と狼男

 嘉一が、手に宿した炎で、十五体目の狼男をやっつける。


「また、出てきちゃったね。狼男……」

「……ああ。そうだな……」


 ゼノが、そう答えながら、ぐったりしている。

 疲れた様子のゼノに「どうしたの?」と嘉一は尋ねた。


「マジで、もう、出てくんな、狼男……」


 ゼノが、その場にしゃがみ込み、「先に行ってろ。灯り、灯しとくから……」と嘉一に言う。


「さっきから体調悪そうだね。大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃない……」

「そうなの? 休む?」


 ゼノは、額に手を当てた後、その手を離し、倒れて、意識を失った。


「え? 何? どうしたの?」


 思わず、そう言った嘉一は、ゼノの近くに跪き、ゼノの額に手を当てる。


「熱い……」


 ゼノが熱を出している事に気づいた嘉一は、部屋の入り口を見る。


「どうしよう。帰った方が……。あ、そうか。冷やせばいいのか。水? 氷? どっちがいいかな」


 目を覚ましたゼノが、額に置かれた嘉一の手に自分の手を当て、「その必要は無い。少し休めば何とかなる」と嘉一の手をどけた。


「……帰らなくて大丈夫?」


 身を起こしたゼノは「少し休めば何とかなる」と繰り返した。


「さっきと同じ事、言ってるけど」

「少し休めば何とかなる」


 嘉一は数秒黙って、「なんで、そんなに疲れてて体調悪そうなの」と聞いた。


「奥に行くほど体調悪くなるだろうな……。お前が、ぬるいせいだよ」

「どういう意味?」

「……本当、馬鹿だな……」


 柱の影から、子供の狼女が出て来る。その子は瓶を持っており、ゼノの所まで歩いて来た後、ゼノに瓶を差し出した。


「ママがゼノさんに持って行けって。飲んだら魔力が回復する」

「お前のママは、さっき「帰って」って言ってた奴か」


 ゼノに視線を向けられて、子供の狼女は「うん。パパの事、ありがとう」とゼノに頭を下げた。


「俺達は魔王を害しない。パパの友達に、もう出て来ないように話せないか」


 子供の狼女は「魔王?」と聞き返し、ゼノが「知らないのか?」と問う。


「一番奥の部屋には行った事無い」


 その返答に、ゼノは「本当に?」と聞く。


「それ飲んで。瓶は持って帰るから」


 ゼノは、再度、差し出された瓶を受け取って、瓶を見つめ、中身を飲み干した。


「不味いな」


 ゼノが漏らした言葉に、「ママが煎じたからね」と、子供の狼女が返す。


「ありがとうって、君のママに伝えてくれ」


 瓶を返したゼノを見ながら、嘉一は「よく分からないけど、ゼノ、魔力を使うような事した?」と尋ねていた。

 子供の狼女は「馬鹿ね」と、嘉一を見る。

 嘉一達が今、来た方に向かった子供の狼女は、嘉一を振り返り「あなたはパパを殺したから嫌い」と言って、奥に歩いて行き、姿が見えなくなった。


「……ゼノは、気絶させる魔法とか使えないの」

「殺したくないか? お前の為に魔法使う気は無いね」

「……そっか。後、何体、出て来るのかな」

「俺も、もう出て来て欲しくない」

「うん。魔力、回復した?」

「ああ。全快した」

「体調も?」

「多分な」


 嘉一は「良かった。後どれくらい、地下に続いてるんだろうな」と、行き先の方を見つめる。


「狼男と狼女しか居ないのかね。この神殿」


 ゼノが、光の玉を杖に宿す。

 光の玉は、移動しながら、部屋の天井近くに行き、中央に浮かぶ。

 上の方に灯りが灯った事で、ゼノの影が、嘉一の影に重なる。

 ゼノの影が歪むのを見た嘉一が「ゼノ……」と言い掛けた所で、ゼノの影が大きくなり、そこから手が伸びて来て、ゼノを覆い始めた。

 嘉一は「ゼノ……!」と、ゼノの方へ手を伸ばすが、ゼノは影から伸びた手に口を塞がれ、影に呑み込まれるようにして、地面に消えてしまう。

 倒れていた狼男が「う……」と呻いた。

 嘉一が、声がした方へ視線を向ける。

 狼男が目を覚ましていた。




◇◇◇




 驚いた嘉一が狼男を見ている内に、浮かんでいた光の玉が消えた。


「燃やしたのに、生きてたの……?」


 向けられた視線に、地面に横になっている狼男は、嘉一の方へ目線を動かすことで応じた。


「……そのようだな」


 狼男が、自分の手のひらを見つめる。


「生きてる……?」

「おれ、完全に燃やしたはず……」

「燃えたはず……生きてるはずは……」


 嘉一が、狼男の手を取り「奇跡だね!」と言い、手を離した。


「奇跡……?」

「違うの?」

「お前の連れの魔導士……呼ばれたか……」

「……呼ばれたって?」


 独り言のように呟く狼男に、嘉一は、そう尋ねたが答えは返って来ないまま、狼男は、また独り言を漏らした。


「あの魔導士なら、もしかして……」

「そうだった……! ゼノが影に覆われて、地面に消えちゃったんだよ! この下って何が有るの?」


 狼男は、目線だけを嘉一の方へ向け、嘉一の問いに答えた。


「お前達が『魔王』と呼ぶ存在が居る。だが……」


 俯くように、狼男が、わずかに頭を下に向ける。


「どうしたの?」

「お前は、あの魔導士を説得できるか?」

「……どうかな?」

「どうやら今は体が上手く動かないようだ。左側の壁に隠し通路がある。最下層に一気に行ける。魔導士が「魔王」を殺すようなら止めてくれ」

「どうして?」

「寝たい……。疲れた……」


 狼男は、目を閉じて、寝息を立て始める。


「ゼノが『魔王』を殺す……?」


 狼男を見下ろした嘉一は、左側の壁まで行き、壁に手を押し当てた。

 壁が奥に押され、下方に通路が現れる。


「本当に通路が有った……」


 嘉一は、通路に足を踏み入れる。


「うわっ」


 足が滑り、座り込む姿勢になり、嘉一は、長い滑り台になっている通路を滑り降りて行く事になった。

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