煎じ薬と狼男
嘉一が、手に宿した炎で、十五体目の狼男をやっつける。
「また、出てきちゃったね。狼男……」
「……ああ。そうだな……」
ゼノが、そう答えながら、ぐったりしている。
疲れた様子のゼノに「どうしたの?」と嘉一は尋ねた。
「マジで、もう、出てくんな、狼男……」
ゼノが、その場にしゃがみ込み、「先に行ってろ。灯り、灯しとくから……」と嘉一に言う。
「さっきから体調悪そうだね。大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃない……」
「そうなの? 休む?」
ゼノは、額に手を当てた後、その手を離し、倒れて、意識を失った。
「え? 何? どうしたの?」
思わず、そう言った嘉一は、ゼノの近くに跪き、ゼノの額に手を当てる。
「熱い……」
ゼノが熱を出している事に気づいた嘉一は、部屋の入り口を見る。
「どうしよう。帰った方が……。あ、そうか。冷やせばいいのか。水? 氷? どっちがいいかな」
目を覚ましたゼノが、額に置かれた嘉一の手に自分の手を当て、「その必要は無い。少し休めば何とかなる」と嘉一の手をどけた。
「……帰らなくて大丈夫?」
身を起こしたゼノは「少し休めば何とかなる」と繰り返した。
「さっきと同じ事、言ってるけど」
「少し休めば何とかなる」
嘉一は数秒黙って、「なんで、そんなに疲れてて体調悪そうなの」と聞いた。
「奥に行くほど体調悪くなるだろうな……。お前が、ぬるいせいだよ」
「どういう意味?」
「……本当、馬鹿だな……」
柱の影から、子供の狼女が出て来る。その子は瓶を持っており、ゼノの所まで歩いて来た後、ゼノに瓶を差し出した。
「ママがゼノさんに持って行けって。飲んだら魔力が回復する」
「お前のママは、さっき「帰って」って言ってた奴か」
ゼノに視線を向けられて、子供の狼女は「うん。パパの事、ありがとう」とゼノに頭を下げた。
「俺達は魔王を害しない。パパの友達に、もう出て来ないように話せないか」
子供の狼女は「魔王?」と聞き返し、ゼノが「知らないのか?」と問う。
「一番奥の部屋には行った事無い」
その返答に、ゼノは「本当に?」と聞く。
「それ飲んで。瓶は持って帰るから」
ゼノは、再度、差し出された瓶を受け取って、瓶を見つめ、中身を飲み干した。
「不味いな」
ゼノが漏らした言葉に、「ママが煎じたからね」と、子供の狼女が返す。
「ありがとうって、君のママに伝えてくれ」
瓶を返したゼノを見ながら、嘉一は「よく分からないけど、ゼノ、魔力を使うような事した?」と尋ねていた。
子供の狼女は「馬鹿ね」と、嘉一を見る。
嘉一達が今、来た方に向かった子供の狼女は、嘉一を振り返り「あなたはパパを殺したから嫌い」と言って、奥に歩いて行き、姿が見えなくなった。
「……ゼノは、気絶させる魔法とか使えないの」
「殺したくないか? お前の為に魔法使う気は無いね」
「……そっか。後、何体、出て来るのかな」
「俺も、もう出て来て欲しくない」
「うん。魔力、回復した?」
「ああ。全快した」
「体調も?」
「多分な」
嘉一は「良かった。後どれくらい、地下に続いてるんだろうな」と、行き先の方を見つめる。
「狼男と狼女しか居ないのかね。この神殿」
ゼノが、光の玉を杖に宿す。
光の玉は、移動しながら、部屋の天井近くに行き、中央に浮かぶ。
上の方に灯りが灯った事で、ゼノの影が、嘉一の影に重なる。
ゼノの影が歪むのを見た嘉一が「ゼノ……」と言い掛けた所で、ゼノの影が大きくなり、そこから手が伸びて来て、ゼノを覆い始めた。
嘉一は「ゼノ……!」と、ゼノの方へ手を伸ばすが、ゼノは影から伸びた手に口を塞がれ、影に呑み込まれるようにして、地面に消えてしまう。
倒れていた狼男が「う……」と呻いた。
嘉一が、声がした方へ視線を向ける。
狼男が目を覚ましていた。
◇◇◇
驚いた嘉一が狼男を見ている内に、浮かんでいた光の玉が消えた。
「燃やしたのに、生きてたの……?」
向けられた視線に、地面に横になっている狼男は、嘉一の方へ目線を動かすことで応じた。
「……そのようだな」
狼男が、自分の手のひらを見つめる。
「生きてる……?」
「おれ、完全に燃やしたはず……」
「燃えたはず……生きてるはずは……」
嘉一が、狼男の手を取り「奇跡だね!」と言い、手を離した。
「奇跡……?」
「違うの?」
「お前の連れの魔導士……呼ばれたか……」
「……呼ばれたって?」
独り言のように呟く狼男に、嘉一は、そう尋ねたが答えは返って来ないまま、狼男は、また独り言を漏らした。
「あの魔導士なら、もしかして……」
「そうだった……! ゼノが影に覆われて、地面に消えちゃったんだよ! この下って何が有るの?」
狼男は、目線だけを嘉一の方へ向け、嘉一の問いに答えた。
「お前達が『魔王』と呼ぶ存在が居る。だが……」
俯くように、狼男が、わずかに頭を下に向ける。
「どうしたの?」
「お前は、あの魔導士を説得できるか?」
「……どうかな?」
「どうやら今は体が上手く動かないようだ。左側の壁に隠し通路がある。最下層に一気に行ける。魔導士が「魔王」を殺すようなら止めてくれ」
「どうして?」
「寝たい……。疲れた……」
狼男は、目を閉じて、寝息を立て始める。
「ゼノが『魔王』を殺す……?」
狼男を見下ろした嘉一は、左側の壁まで行き、壁に手を押し当てた。
壁が奥に押され、下方に通路が現れる。
「本当に通路が有った……」
嘉一は、通路に足を踏み入れる。
「うわっ」
足が滑り、座り込む姿勢になり、嘉一は、長い滑り台になっている通路を滑り降りて行く事になった。




