神殿の道中
狼男と嘉一が、互角に戦っている。
その様子に戸惑っているのは狼男で、彼は「くっ……」と短く声を出した。
「すげぇ……! 俺、狼男と戦ってる……!」
自分でも驚いている様子の嘉一の言葉に、狼男は「なんだ、この人間は……」と嘉一を見た。
嘉一は、ゼノに「花錬族って凄いね」と話し掛ける。
「ユィンは、その中でも凄かったからな」
「ユィンの体に感謝だね」
「授華呪で殺されても、相手には痛みも苦痛も無いから、遠慮なく、やっちまえよ」
右手に宿る炎を、嘉一が自分の背丈くらい大きくした。
ゼノは「やるじゃん」と炎を見る。
嘉一が、狼男を見た。
「焼かれたくないなら、そこを通して」
狼男は、「この身がどうなろうと構うものか……」と嘉一を睨む。
「じゃあ失礼します」
その言葉と同じタイミングで嘉一が向けた炎に、狼男が覆われる。
狼男は、その場に倒れる。
嘉一が、狼男を見て「ごめんね」と呟いた。
少し黙った後で、嘉一は、ゼノに「帰るの?」と尋ねる。
「……もう少ししたらな」
「どうせなら、奥まで一緒に行こうよ」
嘉一に誘われて、ゼノが面倒くさそうに腕を組んだ。
「魔王に会いに? ……仕方ねぇな」
◇◇◇
通路を、嘉一とゼノが歩いている。
嘉一が、ゼノに「三体、魔物、倒したね!」と話し掛けた。
「まだ先が長そうだから、気を抜くなよ」
「全部、狼男だったね」
「……少し気になる事が有る」
ゼノが、周囲に向けて「おい、お前ら」と声を上げた。
あちこちの柱の影から、狼女達が出て来る。
「何を守っている?」
ゼノの言葉に、ゼノの後方に居る狼女が「帰って」と話す。
「手荒な事はしたくない。話せ」
静かな声で、ゼノに言われて、ゼノの後方に居る狼女が再び口を開き「まだ早い」とゼノを見る。
そのまま、狼女達が、去って行く。
「まだ早い……」
呟いたゼノに、嘉一が「何がだろうね?」と聞く。
「狼女に子供でも居るんだろ。それでも奥に行くか?」
「うーん……。って、子供!?」
「お前が殺したのは父親だったかもな」
ゼノに言われて、俯いた嘉一は、少しだけ顔を上げ、ゼノに視線を向ける。
「与命の魔導士って狼男も生き返らせる事が出来る?」
「やろうと思えば」
「どこに居るの」
「その内会えるよ」
「その内じゃ間に合わない……」
元気を無くした嘉一に、ゼノは今来た道に目を向け、「……帰り道に灯りでも点けとくか」と杖を構えた。
「話、聞いてる?」
嘉一の質問は無視して、ゼノが杖を振ると、今まで来た道に光の玉が三つほど灯り、見えなくなった。
その様子を見ていた嘉一が立ち止まったままなので、ゼノが「先に行くぞ」と歩き始めた。
「もう狼男、出て来ないといいな」
「襲って来たんだから殺してもいい。正当防衛だ」
「……そうだね」
ゼノの後ろを着いて行きながら、嘉一は、ゼノの灯した明かりが消えた道を見た。




