もう会えない
夜になって、二人は、闘技場で野営をしていた。
ゼノと嘉一は、テントの近くで、焚火をしている。
「本当に傍観してたね……」
床に座ったまま、その近くに座るゼノを嘉一が見る。
「お前の特訓だからね。お前が死んでも構わないけど、ルサナに、ひどい人と思われたくないからね」
焚火に視線を移し、嘉一は聞いた。
「ゼノが言ってた女の子って、ルサナの事? ルサナのお姉さんの事? 両方?」
「ルサナの事だよ。ルサナじゃ不満か」
「どういう意味?」
「彼女欲しいなら、ガキのお前には似合いと思ったけどねぇ?」
「ルサナは、いい子だけど、まだ小さいし、彼女欲しい訳じゃないよ。……というか、疑問なんだけどさ。ゼノは、ルサナと、どう知り合ったの?」
「親父を殺した男の奥さんが、ルサナの母さんと知り合いだったんだよね。一歳だったルサナの子守、ルサナの母さんに押し付けられてさ。気が付いたら五年経ってた。ルサナの母さんは友達の旦那が俺に殺された事、知ってるけど、俺に同情してる。いつ死んでもいいと思ってる俺みたいなガキ、放っとけなかったんじゃない?」
ゼノも焚火を見ていたが、不意に空を見上げるように、頭を上に向けた。
嘉一も上を見る。
夜空には、星が広がっていた。
「ゼノは今も死にたいの?」
空を見たまま、ゼノが答える。
「親父が闘技場に放り込まれた時に、俺の人生は終わったんだよ。明日は古代神殿に行くから、もう寝た方がいい」
空から、闘技場に、ゼノが視線を戻す。
嘉一が、テントに行き掛けて、「ゼノは寝ないの?」と尋ねた。
「寝れないんだよね。ここじゃ。怒りが湧いて来てさ。お前の訓練の為じゃなきゃ来てない」
「……そうなの?」
「一日二日寝ないくらい大丈夫だ。負担の掛かる魔法を使わなければ。今日は大した魔法使ってない」
「……どうしてルサナは、ゼノが移動の魔法しか使えないと思ってるの?」
「他の奴も全員そう思ってるよ。俺の魔法を目の当たりにした奴以外は。出来損ないと思われていた方が生きやすい」
その場に立ち止まったまま、「なんで?」と嘉一は聞いていた。
「ラジアンじゃ、力が有ると妬まれる。出来るだけ、もう、誰も殺したくない。襲ってくる奴と、悪い奴は別だけど」
嘉一は、ゼノの傍まで歩いた。
「移動しない? ゼノが寝れないんじゃ意味ない」
「お前が寝れないなら移動しようか?」
「うん」
嘉一を見ずに、ゼノが、ため息をつく。
「お前が休めないと明日、俺の負担が増えるからな」
ゼノがテントに杖を向けると、テントと焚火が消えた。
嘉一が、「すごい」と、思わず驚く。
「俺の魔法を見る度、ユィンは「苦労したんだな」って言ってた。あいつは何も言わなくても分かってくれた」
嘉一の方を、ゼノが、遠い目で見ている。
それは、もう、帰って来る事の無い何かを見る目だった。




