ゼノの過去と今
嘉一とゼノがルサナの家に泊まったのは三日間で、その翌日、ゼノは移動の魔法で、嘉一を闘技場に連れて来た。
「あの神殿に行くなら、ちょっと特訓しようか」
ゼノに言われて、「ここ、どこ? コロシアムみたい」と嘉一は、辺りを見回した。
二人が居るのは、観客席に囲まれた空間の中央で、そこには、石で出来た広い円形の床が有る。
右手に持つ杖に意識を集中しているゼノの手から離れた杖が、空中に浮き始めて光を放ち始める。
「召喚魔法は時間が掛かる。ちょっと無駄話に付き合ってよ」
「話?」
嘉一の問いに答えず、ゼノが自身の服の袖をまくり、左手首を見せる。
そこには、669と書かれた入れ墨が有った。
「お前はコロシアムって言ったけど、それで合ってるよ。―-闘技場の選手だった戦闘士は左手首に入れ墨が有る。大体、犯罪者だよ。俺は親父が戦犯扱いされてさ。親父を助ける為
に、ここに入ったんだけど、親父は死んじゃったね」
ゼノの杖は、まだ光を放っており、ゼノが、それを見た後、一度、まぶたを閉じて、目を開いた。
「親父を殺した奴は勝ち進んで、その年に優勝して、優勝の褒美として、ここから解放された。俺が五歳だったから、親父と二人で組む事を許されたんだけど、基本的に戦闘士は一人で戦う事になってる。俺の肩には、親父が死んだ戦いで負わされた傷の痕が有る」
ゼノが、着ているシャツのボタンを外して、服をはだけて、傷の有る右肩を見せ、服を元に戻す。
嘉一からの視線を気にせずに、ゼノは「顔も見た事無いらしい娘に、おれを重ねて助けてくれた戦闘士が居なければ多分、俺も死んでたと思う」と言った。
「その五年後、俺は優勝して、闘技場の外に出たけど、母さんは病気で亡くなってた。親父を殺した奴を殺して、俺も死のうと思ってたのに、いざ殺したら、家の外から赤ん坊の泣き声がしてさ。そいつにも家族が居たんだよね。帰って来た奥さんが赤子を抱えたまま、呆然とした後、そいつに駆け寄った。奥さんが泣きもせず言うんだ。「私が殺され掛けて、その相手を、この人は殺したから、犯罪者扱いされてた。闘技場で、あなたの父親を殺してまで勝ったのも、外に出て私と会う為。この人は、いつか、あなたが殺しに来るって言ってた」って」
何も言わない嘉一に、ゼノは苦笑する。
「ごめんね。ぬるい世界で生きて来た奴には重い話だったね。特訓相手、ゴーレムでいい?」
「ゼノが、俺の事、嫌いな理由ちょっと分かった」
嘉一は、まだ、ゼノを見ているが、ゼノは嘉一を見ない。
「そう。じゃあ、特大のゴーレム呼ぶから、死ぬ思いして貰おうか」
空間に渦が現れ、そこから、嘉一の身長の三倍は背丈の有る、石造りの人形が出て来る。
「俺は傍観者だから、自分で倒してね」
「こんなもん、どうやって倒すの」
尻込みしたように、嘉一は、その場から少し後ずさる。
まだ光を放ったままの杖が下りてきて、ゼノの手の中に納まり、ゼノは、その杖を握った。
「花錬族には授華呪って力が有ってね。華が自然に咲くように、当たり前に存在する五元素を操れる呪いの力を持ってるんだ。「木」「火」「土」「金」「水」のどれかに、「力を貸して」って念じると、その時お前が必要としてる形で現れるよ」
嘉一は、目をつぶって念じてみたが、何も起こらない。
「何も出ないんだけど!?」
「もっと真剣にやってみな」
「真剣……。真剣に……」
嘉一が、再度、目をつぶるが、少しして目を開ける。
「やっぱり出ないんだけど、まだ真剣にやるの!?」
「殺され掛けた時の事、思い出してみな」
「あの時はゼノが武器、出してくれたじゃん」
「じゃあ丸腰で戦うんだね」
ゴーレムが動き出し、嘉一の頭上から右手を下ろして来た。
嘉一は逃げたが、ゴーレムの左手に捕まった。
「授華呪、使わないと死ぬよ」
ゴーレムの手に身体を締め上げられて「そんな事、言われても……」と、嘉一が口にする。
「足元が不安定になれば、ゴーレムも転ぶんじゃない?」
「足元……地面を揺らすの!?」
「そうだね。その後、焼いちゃえば?」
嘉一が、目を閉じて集中する。
足元が大きく揺れて、ゴーレムが転んだ。
捕まっていた手から逃げた嘉一が、「や、焼き尽くせ。炎」と、ゴーレムに手を向ける。
ゴーレムが火に包まれ、土くれのようになって消えて行った。
「ようやく出来たか。じゃあ、ゴーレム三体になっても、いける?」
ゼノの右の方に三つの渦が現れ、そこから、それぞれ、嘉一の背丈くらいのゴーレムが一体ずつ、現れる。
嘉一は、動き出したゴーレムに向かって、右手を出し、集中するように、目を閉じた。




