ゼノが、へっぽこ魔導士?
ゼノが移動の魔法を使い、辿り着いた、トアノという街は、ゼノの自宅から、街三つ分くらいは離れている。
その商店街を、嘉一はゼノの後ろに着いて歩いている。
「ゼノ!」
九歳くらいの少女が、そう言ってゼノに後ろから抱き着いた。
振り返ったゼノが「ルサナ」と彼女を見る。
ルサナは、ゼノから手を離し「来てたんだね」と笑った。
その後で、ルサナが、フードを深く被った嘉一の顔を覗き込み「何。あんたも居たの。ユィン」と不愉快そうにした。
「そんな表情するなよ。中身はユィンじゃないから」
ゼノの言葉に、ルサナは「何それ」と言いながら、嘉一を、まじまじと見る。
「堂染嘉一と言います。初めまして」
「よく分かんないけど、中身がユィンじゃないって何? 詳しく話してよ。あんたは「死にたい」とか言わないよね?」
「は?」
ルサナに言われて、思わず疑問の声を出した嘉一に、「ユィンは「死にたい」とか「俺のせいだ」ばかり言ってた」と、ルサナが返答した。
「悩み過ぎて多重人格にでもなったの?」
不思議そうにルサナが聞くので、嘉一は「ゼノが……」と口にした。
若干、首を傾げて、「ゼノが?」と、ルサナは尋ねる。
「ゼノが、おれとユィンを入れ替えたんだよ」
「……どうやって? ゼノが、そんな魔法、使えるの?」
「まぁ、なんとかな」
ゼノのその言葉に、「ユィンじゃないなら、なんでもいいや」とルサナは言った。
「私、ユィンが嫌いだったんだ。中身が違う人なら、もう死ぬとか言わないよね?」
「嘉一は「自分のせいだ」なんて思わないんじゃない? 自信家だもんな」
ゼノの返事に「じゃあ、ゼノと気が合いそうね」とルサナは微笑む。
短く、「どうかねぇ」と返したゼノから視線を動かして、再び嘉一を見たルサナは、嘉一の手を取る。
「とりあえず、うちに来ない? お母さんとお姉ちゃんが食事作ってくれてると思うから、一緒に食べようよ。立ち話も、なんでしょう?」
◇◇◇
ルサナの家に招かれた嘉一とゼノは、食卓に用意された椅子に座っていた。
開放式の台所で、ルサナの姉のリアナと、ルサナの母親のラナがシチューを作ってくれている匂いがする。
ゼノの斜め右辺りのイスに座り、にこにこ笑っているルサナは「お母さんとお姉ちゃんのシチュー、美味しいんだよ」と話す。
ルサナもリアナも、黒髪で、茶色い目をしている。リアナは、今、十五歳だ。
「それで、嘉一君は、あんまりこっちの世界が好きじゃないんだね」
そう聞いたルサナに「物騒なので……」と、嘉一が答える。
「ゼノは、あの古代神殿の話、してないの?」
ルサナがゼノへ向けた発言を耳にして、嘉一は「古代神殿?」とゼノを見た。
「魔物の巣窟だけど、一番奥の部屋に、なんでも願い事を叶えてくれる魔王が居るんだって」
そう話したルサナに「……って、噂な」とゼノが言う。
「元の世界に戻りたいなら、魔王にお願いしてみれば? そもそも、どうやってユィンと入れ替わったのか、よく分からないけど、ゼノは何も出来ないでしょう?」
「俺は、へっぽこ魔導士だからねぇ」
「え? 普通の魔導士って、もっと凄いの?」
思わず聞いた嘉一に、ルサナは「ゼノは、基本的に移動の魔法しか使えないもんね」と笑う。
「移動の魔法? え? でも……」
困惑する嘉一に、ゼノは「ヤバくなったら逃がしてやるから、魔王に会いに行ってみる?」と聞いた。
「直接、魔王の所まで移動出来ないの?」
ルサナの質問に、「誰かが呼んでる場所か、行った事か、見た事の有る場所じゃないと移動できないんだよ。魔王の居る部屋が、どんな風か分からないから無理だね」と、ゼノは返す。
「食事とったら、すぐ、神殿に行っちゃう?」
ゼノと嘉一を見ながら、ルサナが聞くので「どうする? 嘉一」とゼノが尋ねた。
返答に困った嘉一が「ゼノは? どうするの?」と聞き返す。
「すぐ出掛けてもいいんじゃない? ルサナは、もう少し、俺達が居た方がいい?」
「そうだなぁ。泊まってけば? せっかく来たんだし」
「それもいいかもなぁ。どうする? 嘉一」
嘉一は戸惑いながら、「ゼノは?」と返した。
「俺は、ちょっとゆっくりしたい気分」
「じゃあ、ゼノに任せるよ。……ところで……ゼノとルサナちゃん一家って、どういう知り合い?」
ゼノを見て聞いた嘉一に、ルサナが「ちゃんは要らない」と言い、嘉一が「えっと……。分かった」とルサナに視線を移す。
「私も嘉一って呼んでいい?」
そう発したルサナも嘉一の方を見たので、嘉一は「うん。別にいいよ」と応じた。
「どういう知り合い、ね。家族かな」
ため息交じりにゼノが答え、ルサナが「ゼノは、私にとって、お兄ちゃんだし、お父さんだよ」と笑う。
ルサナを見て、ゼノは「そうだっけ?」と、とぼけた。
ゼノを見た嘉一に「なんだよ。血のつながりは無いよ」とゼノが言う。
「……じゃあ、戸籍上のつながりは有るの? ルサナのお父さんって事は、ルサナのお母さんの旦那さんがゼノ?」
嘉一の言葉に、吹き出したルサナが大笑いする。
どっと疲れたように、ゼノが「んな訳、有るか」と右手を額に当てた。
「私のお母さんから見て、ゼノも息子みたいなもんだよ」
「俺は、今より子供だったルサナの面倒、任されたの。金は貰ってないけど、ベビーシッターみたいなもんだよ。ルサナが妙な表現するから、誤解まねいただろ」
「えー。本当の事じゃん」
ラナが鍋を抱えて現れ、「何の話? 食事出来たけど」と言ったので、ゼノとルサナが、ほぼ同時に、お礼を言い、少し遅れて、嘉一も続いた。




