独白と朝と
その日の深夜、ゼノの家のリビングで、嘉一は眠れずにいた。
客間を使うかとゼノに聞かれた嘉一は、結局、リビングのソファに横になり、布団を被っている。
起き上がって、嘉一は、ゼノの自室の前まで歩いた。
ドアの窓から見ると、ゼノはベッドで寝ている。
思わずというように「おれの事、ゼノは嫌いなんだよな」と嘉一が小さく漏らした。
「家に泊めてくれたのは、ゆっくり寝たいからなんだろうな」
嘉一が、ドアに背をつける。
涙が流れて、今、自分は悲しいのだと嘉一は知った。
「他に、頼れる人なんか居ない……」
振り子時計が、深夜二時を知らせる音を鳴らした事で、嘉一は涙を拭って、息を吐いた。
「……寝ないとな……」
嘉一はソファに戻り、腰掛けて「殺すのも、殺されるのも嫌だ……」と呟く。
◇◇◇
朝が来て、ソファで寝ていた嘉一は、頭を軽くゼノから叩かれ、「そろそろ起きな」と声を掛けられた。
目を覚ますが、寝ぼけたまま、嘉一は「寝れた……?」とゼノに聞く。
「お前よりは寝れたんじゃない? 目くらましの魔法使うの面倒だから変装してくれる?」
ゼノから、変装道具の入った袋を渡され、嘉一は「どっか行くの?」と、袋を抱えた。
興味が無さそうな表情で「女の子が居る所」とゼノは返す。
「……そうなの?」
「そうだけど、その見た目じゃ嫌われるかもなぁ」
段々、目が覚めてきた嘉一は、この体がユィンのものだと思い出したように、布団の上で、自身の手のひらを思わず見た。
「この外見、嫌う女なんか居るの」
嘉一の問いに「中身も嫌われるかもね」とゼノは嘉一から離れた。
ゼノの返答に困惑して、「どういう意味?」と嘉一は、身を起こして、ソファに座った。
その質問には答えず、ゼノが台所の方へ行く。
「歯、みがくとか、顔洗うとかしてくれば?」
じっとゼノを見ている嘉一に、ゼノは、そう言い、「なんか作っとくから」と続ける。
嘉一は「なんかって?」と聞き、ゼノが「朝飯。食えるでしょ?」と、冷蔵庫のドアに手を触れた。
「それとも、お前が作る?」
「あ……。それでもいいよ」
「聞いただけだよ。冗談抜かすな」
嘉一は困ったように「冗談じゃないよ」と口にする。
ゼノは「いいって。俺が作る」と表情を固くした。
「……もしかして、おれが作ったものは食べたくない?」
「は? なんで、そう思う訳?」
「……ゼノは、おれの事、嫌いなんだろ? 嫌いな奴が作った食事なんて、食べたくないのかなって」
「まぁそれも有るかな。っていうか、お前、料理作れるの? 家じゃ、姉貴とか母親が作ってたろ」
「簡単なものなら作れるよ。グラタンは作った事、無いけど」
「……なんでグラタン?」
眉根を寄せたゼノに、嘉一は「ユィンが見せてくれた記憶の中で、ゼノが食べたいって言ってたから」と布団を脇に除けた。
「……ユィンは、いつの記憶を、お前に見せたの?」
「いくつか有ったから……いつって言われても……」
「まぁどうでもいいけど。米、食えそう? パンの方がいい?」
「……どっちでもいいけど、パンの方がいいかな……。なんか、米、食べれなさそう……。手間掛けさせて、ごめんね。ありがとう」
ゼノは、妙なものでも見るように、嘉一を見た。
嘉一が「どうしたの?」と尋ね、ゼノが「本当ぬるいな」と言う。
「ありがとう、か。お前、礼言うような事、俺にされたっけ?」
「え……。食事、作ってくれるって言うから……」
「そうだな……礼くらい言うか。悪い。なんでもない」
ゼノが冷蔵庫の方へ向き直って、その中身に目を向けたので、嘉一は、洗面台に向かう事にした。




