与命の魔導士
男からの攻撃に、嘉一は逃げ回りながら、時折、ゼノを見た。
ゼノは相変わらず、面倒くさそうな表情をしていて、嘉一に加勢する様子は無い。
ゼノの方を見た一瞬、男から馬乗りになられた嘉一は、とっさに両目を閉じた。
「殺らなきゃ殺られるぞ」
感情のこもっていないゼノの言葉に、嘉一は「でも……」と、弱弱しい声を出す。
「仕方ねぇなぁ」とゼノは呟き、杖を振る。
意志とは無関係に、嘉一の腕が動き、嘉一は男の腹を、剣で貫いていた。
「え……」
男から溢れた血に、まみれながら、嘉一は、そう発した。
倒れて来た男を避け、嘉一は、ゼノを見る。
「ゼノがやったの……? おれの事、操れるの……?」
嘉一の問いに「それが、どうしたの?」とゼノは返す。
二人の男が倒れた男に駆け寄り、まだ、その男の命が有る事を目で確認して、嘉一を睨む。
だが、それも一瞬で、二人の男は、怪我を負った男の止血を始めたようだった。
そうしている間に、嘉一は屋外へ走った。
ある程度、走った所で、男達が追って来ず、辺りが林だと気づいた嘉一は、立ち止まった。
進行方向に現れたゼノが、嘉一に尋ねる。
「覚悟は決まったか? ようこそ。無法地帯ラジアンへ」
まるで演技でもするように、ゼノは、わざとらしく、体の横で手を開いた。
嘉一は、ゼノに、すがるように「どうして、相手を刺すよう、おれを操ったの」と聞く。
「お前が、あんまり、ぬるいからだよ。現実、見れば?」
「……一族が生き返れば、ユィンは、この世界に戻って来る気になるんだよな? この世界では、人の命を生き返らせる事が出来るの? ゼノは魔導士なんだろ? 何か知らないか?」
「与命の魔導士は、この世界には一人だけだって、こっちの住人なら知ってるけどな。命を生き返らせる事の出来るのは、その魔導士だけだけど、みんな頼まないよ? 与命の魔導士が曲者だから」
「そいつ、どこに居るの?」
面倒くささを隠さずに、ゼノが答える。
「あと三秒で死ぬとかいう状況になれば現れるかもな」
「……どの地方に住んでるとか」
「死の間際か、死んでからしか力は貸してくれないよ」
ゼノの答えに、嘉一は知りたい事を聞いた。
「生き返らしてくれるの? くれないの?」
「無駄だと思うけどなぁ。そんなに会いたい? なら、俺も同行するけど」
嘉一はゼノの発言に驚いて、「案内してくれるの?」と聞き返した。
今にも泣きだしそうな嘉一を見ながら、ゼノは感情の無い声で、言い切った。
「暇なんでね」




