第三十六話 閑話休題
王都に平穏が戻ってから、三日。
俺は。
「暇だな」
そう呟いた。
「……は?」
向かいに座っていたセレナが、呆れた顔をする。
「暇って、あなたね」
「だってそうだろ」
宿の食堂。
朝食を食べ終えた俺たちは、珍しく何の予定もなかった。
グレンの一件は片付いた。
王都の記録についても、一度整理する時間が必要だということで調査は中断。
リゼリアについても、今すぐ追わなければならない危機があるわけではない。
つまり。
久しぶりに。
本当に何もすることがない。
「私はこういう時間、嫌いじゃないですよ」
ミレイアが紅茶を飲みながら微笑む。
「いつも何か起きていましたから」
「そうそう」
ルナが頷く。
「魔物に襲われたり、謎の本に名前を書かれたり、王都を救ったり」
「並べると凄いな」
「凄いというより、忙しすぎるのよ」
セレナがため息をついた。
「だから今日は休む」
「賛成」
俺は即答した。
すると。
「……じゃあ」
隣から小さな声がした。
エリナだった。
「今日は、皆さんと一緒にいられるんですか?」
「ああ」
「一日中?」
「ああ」
「……」
エリナの顔が、ぱっと明るくなる。
「嬉しいです」
その笑顔を見て。
俺も自然と笑った。
グレンから解放されて。
まだ三日しか経っていない。
エリナは少しずつ変わっていた。
以前なら。
誰かに何かを頼まれるたびに、まず相手の顔色を窺っていた。
何を言えば怒られないか。
何をすれば嫌われないか。
何をすれば迷惑をかけないか。
そんなことばかり考えていた。
けれど。
最近は。
「レオンさん」
「ん?」
「今日、お昼は甘いものが食べたいです」
「分かった」
「……え?」
「何だ?」
「本当に?」
「食べたいんだろ?」
「はい」
「なら食べよう」
エリナは少し目を丸くしたあと。
「……はい!」
嬉しそうに笑った。
セレナがそれを見て。
「甘やかしすぎじゃない?」
「そうか?」
「そうよ」
ルナが笑う。
「セレナも甘やかしてほしい?」
「なっ……!」
「顔赤いよ?」
「赤くない!」
「分かりやすいな」
「レオンまで!」
朝から騒がしい。
でも。
それが妙に心地よかった。
*
「というわけで」
宿を出た俺たちは、王都の大通りを歩いていた。
「今日は観光です!」
ミレイアが宣言する。
「観光?」
「はい」
「王都に来てから、まともに観光したことないでしょう?」
「言われてみれば」
これまで。
俺たちは王都に来るたびに事件に巻き込まれていた。
地下資料室。
古代記録。
リゼリア。
グレン。
エリナ。
考えてみれば。
王都の名所を見た記憶など、ほとんどない。
「最初はどこへ行く?」
俺が聞くと。
四人が同時に口を開いた。
「市場」
「宝飾店」
「甘味処」
「公園」
「……」
見事にバラバラだった。
「じゃあ」
俺は言った。
「全部行くか」
「全部?」
「ああ」
四人の顔が明るくなる。
「賛成!」
「いいわね」
「楽しそうです」
「じゃあ最初は市場!」
ルナが俺の腕を掴んだ。
「おい、引っ張るな」
「早く!」
その反対側から。
セレナが俺の腕を掴む。
「ちょっと、私もいるんだけど」
「二人とも」
俺は左右を見る。
「歩きにくい」
「いいじゃない」
「いいでしょ?」
「よくない」
「私はいいと思います」
エリナが小さく笑った。
「エリナまで……」
結局。
俺は両腕を二人に取られたまま歩くことになった。
少し後ろから。
ミレイアがその様子を眺めている。
「……ミレイア?」
「はい?」
「何か言いたそうだな」
「いえ」
微笑む。
「ただ」
「ただ?」
「私も、レオンさんと腕を組んで歩いてみたいなと思っただけです」
「……」
セレナとルナが同時に振り返った。
「ミレイア?」
「はい」
「あなた、最近ちょっと大胆になってない?」
「そうでしょうか?」
「そうよ」
エリナが首を傾げる。
「私も……腕、組んでもいいですか?」
「エリナまで!?」
セレナが叫んだ。
俺は思わず笑った。
「いいぞ」
「……!」
エリナが嬉しそうに俺の袖を掴む。
そして。
少しだけ。
身体を寄せてきた。
「……こうですか?」
「ああ」
「近くない?」
セレナが言う。
「そう?」
「近い」
「でも、レオンさんがいいって」
「……」
セレナが黙る。
そして。
「じゃあ私も」
「お前もか」
「悪い?」
「悪くはない」
結果。
俺は四人に囲まれて歩くことになった。
王都の人々がこちらを見ている。
俺は気にしないことにした。
今日は。
休む日なのだから。
*
市場では。
エリナが目を輝かせていた。
「これ……」
小さな菓子店の前。
ショーケースの中に、色とりどりの焼き菓子が並んでいる。
「食べたい?」
「……はい」
「じゃあ買おう」
「でも」
「何?」
「私だけ……」
「四人分買えばいい」
「え?」
「俺も食べる」
「じゃあ私も!」
ルナが手を挙げる。
「私も」
セレナ。
「私もいただきます」
ミレイア。
「……」
エリナが笑った。
「みんなで食べるんですね」
「ああ」
それだけのことなのに。
エリナは嬉しそうだった。
店を出て。
近くの広場で菓子を食べる。
「おいしい」
エリナが目を細める。
「本当ですね」
「エリナ、口元」
「え?」
俺が指差す。
頬に小さな粉砂糖がついていた。
「ああ……」
エリナが手で拭おうとする。
「待て」
「はい?」
俺はハンカチを取り出した。
「動くな」
「……」
頬を軽く拭う。
「取れた」
「……ありがとうございます」
エリナの顔が赤くなる。
「どうした?」
「いえ……」
「顔赤いぞ」
「暑いんです」
セレナが横から呟いた。
「絶対違う」
「セレナさん!」
「はいはい」
ルナが笑う。
「でも、レオンってああいうこと自然にやるよね」
「そうか?」
「そうよ」
「だから困るんです」
エリナが小声で言った。
「何が?」
「……何でもありません」
ミレイアが笑う。
「ふふ」
「ミレイアまで」
「すみません」
穏やかな時間だった。
事件もない。
追手もいない。
謎の本も開かない。
ただ。
皆で菓子を食べて。
笑って。
そんな時間。
俺は。
こういう日があってもいいと思った。
*
昼過ぎ。
俺たちは公園へ向かった。
王都でも有名な場所らしく。
大きな噴水と花壇があり。
木陰にはベンチが並んでいる。
「ここ、綺麗ですね」
ミレイアが言った。
「ああ」
俺たちはベンチに座る。
しばらくすると。
ルナが俺の肩に頭を乗せてきた。
「眠い」
「寝れば?」
「じゃあ寝る」
「おい」
本当に目を閉じる。
「重いぞ」
「いいじゃん」
「まあいいけど」
すると。
反対側からセレナが。
「……ずるい」
「何が?」
「別に」
そう言いながら。
セレナも俺の肩に頭を預けた。
「お前までか」
「嫌?」
「嫌じゃないけど」
「ならいいでしょ」
左右から二人。
その後ろでミレイアが笑っている。
「私も混ざりたいです」
「ミレイアまで?」
「はい」
「どうする?」
「膝、借りてもいいですか?」
「……」
俺は自分の膝を見る。
「まあ」
「ありがとうございます」
ミレイアが座り。
ゆっくり頭を乗せる。
「……これは」
「気持ちいいですね」
「そうか?」
「はい」
エリナが少し離れた場所から見ていた。
「エリナも来るか?」
「えっ」
「遠慮しなくていいぞ」
「……」
エリナは迷ったあと。
俺の隣に座った。
「ここでも……いいですか?」
「ああ」
彼女は俺の袖を掴む。
そして。
そっと肩を寄せた。
「……落ち着きます」
「ならよかった」
「レオンさんの隣って」
「ん?」
「なんだか安心します」
その言葉に。
俺は少しだけ胸が温かくなった。
*
夕方。
宿に戻る。
そして。
「夕食、どうする?」
俺が聞く。
「作りましょう!」
ミレイアが立ち上がった。
「料理?」
「はい」
「俺も手伝う」
「じゃあ私も」
セレナ。
「私も!」
ルナ。
「……私も」
エリナ。
結局。
全員で厨房を借りることになった。
「レオンさん、これ切ってください」
「分かった」
「セレナさん、そっちお願いします」
「任せて」
「ルナさんは火を」
「了解」
「エリナさんは――」
「私、何をすれば?」
「野菜を洗ってもらえますか?」
「はい!」
少しずつ。
エリナが自然になっていく。
「……楽しいです」
エリナが呟いた。
「何が?」
「こういうの」
「料理?」
「はい」
「前は?」
「誰かと一緒に料理することなんて……ほとんどありませんでした」
「そうか」
「だから」
エリナが微笑む。
「こういう普通のことが、嬉しいんです」
俺は頷いた。
「なら、これから増やしていけばいい」
「……はい」
そのとき。
「レオン」
「ん?」
セレナが俺の頬を指差す。
「粉」
「粉?」
「小麦粉」
「どこ?」
「そこ」
セレナが手を伸ばす。
頬を軽く拭う。
「取れた」
「ありがとう」
「……」
セレナがそのまま固まった。
「どうした?」
「別に」
顔が赤い。
「セレナ?」
「何でもない!」
ルナが笑い出す。
「分かりやすいなぁ」
「うるさい!」
「セレナさん」
エリナまで笑う。
「……エリナまで!」
厨房に笑い声が響く。
そんな時間が。
俺には。
何より大切に思えた。
*
夜。
夕食を終えて。
俺たちは談話室に集まっていた。
「今日、一日何も起きなかったな」
俺が言う。
「いいことじゃない」
セレナが答える。
「確かに」
「むしろ、今までが異常だったんです」
ミレイアが笑う。
「毎日事件が起こるほうがおかしいです」
「でも」
ルナが言った。
「こうしてると、なんか変な感じ」
「何が?」
「私たち」
ルナが四人を見る。
「最初は全員、こんな関係になるなんて思ってなかったじゃん」
「……そうね」
セレナが頷く。
「最初はレオンのこと、信用できるかどうかも分からなかった」
「酷いな」
「仕方ないでしょ」
ミレイアが笑う。
「私は最初から、少し不思議な人だと思っていました」
「それは今でもだろ?」
「はい」
即答された。
「おい」
皆が笑う。
エリナも。
「私は……」
彼女が言葉を探す。
「まだ、皆さんと知り合ってから短いですけど」
少しだけ俯く。
「本当に、ありがとうございました」
「急にどうした?」
「今日」
エリナは笑った。
「今日みたいな一日を過ごせたことが、嬉しくて」
「……」
「朝起きて」
エリナが続ける。
「誰かに怒られる心配をしなくてよくて」
「……」
「何を食べるか自分で決めて」
「……」
「どこへ行くかも、自分で決めて」
彼女の目が少し潤む。
「誰かと笑って」
「……」
「夜になったら」
エリナは微笑んだ。
「明日も同じように過ごせるって思える」
静かな声だった。
「それだけで」
エリナは胸元に手を置く。
「私は、十分幸せです」
誰も。
すぐには言葉を返せなかった。
やがて。
セレナがエリナの頭を撫でる。
「……よかったわね」
「はい」
「これからは、もっと欲張っていいんだから」
「欲張る?」
「そう」
セレナが笑う。
「幸せなんて、いくらあってもいいでしょ」
ルナが頷く。
「私もそう思う」
ミレイアも。
「はい」
そして。
三人の視線が。
俺へ向いた。
「……何だ?」
セレナが笑う。
「レオン」
「ん?」
「これからもよろしくね」
「ああ」
「私も」
ルナ。
「私もお願いします」
ミレイア。
「……私も」
エリナ。
俺は笑った。
「こちらこそ」
それだけだった。
でも。
その言葉が。
妙に嬉しかった。
*
夜も深くなった。
「じゃあ、おやすみ」
俺が立ち上がる。
「待って」
セレナが言った。
「何?」
「今日は」
セレナが少し迷う。
「……皆で寝ない?」
「皆で?」
「うん」
ルナが目を輝かせる。
「それ楽しそう」
「私も賛成です」
ミレイア。
エリナは少し驚いていた。
「私も……いいんですか?」
「もちろん」
セレナが笑う。
「一人で寝るより、みんなで寝たほうが楽しいでしょ」
「はい」
結局。
俺たちは大きな寝室に集まることになった。
「狭くないか?」
「狭いわね」
「じゃあ――」
「レオンは真ん中」
ルナが即答した。
「なんで?」
「いいじゃん」
「……まあいいけど」
ベッドの中央。
俺が横になる。
その両側に。
セレナとルナ。
足元側にミレイア。
そして。
「エリナ?」
「……ここ」
エリナは少し離れていた。
「そんな端じゃなくていいだろ」
「でも」
「おいで」
「……!」
エリナが少しだけ目を見開く。
そして。
ゆっくり近づいてくる。
「ここ……」
「ああ」
俺の隣。
エリナが横になる。
最初は少し距離があった。
けれど。
しばらくすると。
小さな声が聞こえた。
「……レオンさん」
「ん?」
「手」
「手?」
「……握っていてもいいですか?」
「ああ」
俺が手を差し出す。
エリナがそっと握る。
その手は。
まだ少しだけ震えていた。
「大丈夫」
「……はい」
しばらくすると。
エリナの呼吸がゆっくりになる。
「寝た?」
ルナが小声で聞く。
「たぶん」
「可愛いね」
「そうだな」
「……レオン」
今度はセレナ。
「ん?」
「私も」
「何?」
「手」
「……」
「私も握りたい」
「はいはい」
俺は反対の手を差し出す。
セレナが握る。
「……温かい」
「お前もな」
「……そういうこと言うから」
「何?」
「なんでもない」
暗闇の中。
少しだけ。
距離が近くなる。
ミレイアも。
「私も……」
「三人目か」
「嫌ですか?」
「嫌じゃない」
ミレイアが笑う。
「では」
彼女も手を重ねた。
四人の手が。
俺の周りに集まる。
「なんか」
ルナが呟く。
「変な感じ」
「何が?」
「こんなに近くにいるのに」
「うん」
「不思議と安心する」
セレナが言う。
「私も」
ミレイアが続ける。
「私もです」
エリナは眠りながら。
「……安心します」
小さく呟いた。
俺は。
その声を聞きながら。
目を閉じた。
今日は。
何も起きない。
何も起こさない。
ただ。
皆と一緒に。
眠るだけ。
そう思っていた。
*
翌朝。
最初に目を覚ましたのは。
俺だった。
「……」
目を開ける。
そして。
固まった。
「……何だこれ」
昨日より。
距離が近い。
セレナは俺の肩に頭を乗せている。
ルナは俺の腕を抱えている。
ミレイアは俺の胸元に寄り添うように眠っている。
そして。
エリナは。
俺の手を握ったまま。
すぐ隣で眠っていた。
全員。
無防備な寝顔。
「……」
俺は動けなかった。
下手に動けば。
全員を起こしそうだった。
すると。
「……ん」
セレナが目を開ける。
「……朝?」
「ああ」
「……」
セレナは自分の状況を確認する。
俺の肩。
そして。
俺の顔。
「……」
みるみる顔が赤くなる。
「お、おはよう」
「おはよう」
「……近いわね」
「昨日よりな」
「……誰のせい?」
「知らない」
「……まあいいけど」
セレナは離れようとする。
しかし。
「……痛っ」
「どうした?」
「ちょっと腰……」
「腰?」
「寝相悪かったのかしら」
セレナが腰を押さえる。
「変な体勢だったんじゃないか?」
「たぶん」
そこへ。
「……んん」
ルナが目を覚ます。
「朝?」
「ああ」
「……」
ルナも周囲を見る。
「……あはは」
「何だ?」
「昨日より近い」
「お前もか」
「なんか寝てる間に動いたんじゃない?」
「そうかもな」
「……私も少し身体が痛い」
「お前まで?」
「うん」
ミレイアも目を覚ました。
「……おはようございます」
「おはよう」
「……」
ミレイアは周囲を見て。
小さく笑った。
「随分と賑やかな朝ですね」
「そうだな」
「私も……少し肩が痛いです」
「昨日、変な体勢だったんだろ」
「ふふ」
最後に。
「……ん」
エリナが目を覚ました。
「おはよう」
「……おはようございます」
エリナは。
俺の手を握っていることに気づいた。
「……!」
一瞬で顔が真っ赤になる。
「す、すみません!」
「謝らなくていい」
「でも……」
「昨日、握ってていいって言っただろ」
「……はい」
エリナは少し笑う。
「じゃあ」
小さな声で。
「もう少しだけ、このままでもいいですか?」
「ああ」
エリナは安心したように目を細めた。
その光景を見て。
セレナがため息をつく。
「……ほんと」
「何?」
「増えたわね」
「何が?」
「鈍感」
「それは前からでしょ」
ルナが笑う。
「まあいいじゃん」
「何が?」
「こういう朝も」
ミレイアが頷く。
「はい」
エリナも。
「私も好きです」
「……」
俺は。
四人を見る。
ミレイア。
セレナ。
ルナ。
エリナ。
それぞれ違う。
性格も。
考え方も。
俺との出会い方も。
それでも。
今。
同じ場所にいる。
誰かに決められたわけじゃない。
誰かに命令されたわけでもない。
俺たち自身が。
ここにいることを選んだ。
「……ありがとう」
俺が言う。
「何が?」
「今まで」
四人が静かになる。
「一緒にいてくれて」
セレナが笑う。
「こちらこそ」
ルナも。
「ありがとう」
ミレイアが。
「私もです」
そして。
エリナが。
「……私こそ」
少し涙を浮かべながら。
「ありがとうございます」
俺は笑った。
「じゃあ」
俺は起き上がる。
「朝飯にするか」
「早い!」
ルナが笑う。
「感動の雰囲気が台無し!」
「腹減ったんだから仕方ないだろ」
「レオンらしいわね」
セレナが笑う。
「じゃあ、今日は私が作ります」
ミレイアが立ち上がる。
「私も手伝う」
「私も!」
ルナ。
「……私も」
エリナ。
「じゃあ俺も」
「レオンは座ってて」
「なんで?」
「今日は休む日でしょう?」
ミレイアが微笑む。
「そうそう」
セレナが頷く。
「昨日いっぱい甘えたんだから」
「……」
その言葉に。
四人が一斉に顔を赤くした。
「……何だ?」
「何でもない!」
セレナが叫ぶ。
「朝から変なこと言わないで!」
「俺、何も言ってないぞ」
ルナが笑い。
エリナも。
ミレイアも笑った。
窓の外。
王都の朝日が差し込んでいる。
世界の謎も。
白い本も。
リゼリアも。
まだ何一つ終わっていない。
むしろ。
これからもっと大きな出来事が待っているのだろう。
けれど。
今だけは。
それを忘れてもいい。
戦うことだけが。
俺たちの物語じゃない。
笑って。
食べて。
くだらないことで騒いで。
誰かの隣で眠って。
朝になったら。
また笑う。
そんな普通の日々も。
きっと。
俺たちが自分で選んだ物語の一部なのだから。
そして。
白い本の閉じられたページには。
誰にも気づかれないまま。
新しい一文が記されていた。
『記録者と四人の選択者――』
『穏やかな一日を記録』
その下に。
さらに一行。
『この幸福を守るため、次の物語が始まる』
だが。
そのページを。
今は誰も開かなかった。
今日は。
ただの休日なのだから。




