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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第1章 ワン公、入学

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別に怖がってなんかないんだからね

カツアゲ事件から数分後。


レンとモズはクラス分け掲示板の前にたどり着いた。


そこには既に人だかり。


まるでお祭り会場だ。


「うわ、押すなって!」


「見えねぇ!」


「おい誰か浮遊魔法やめろ!後ろのこと考えろ!」


「耳引っ張るな!」


「それ俺の尻尾だ!!」


ガヤガヤガヤガヤ……


入学式前とは思えない騒ぎだった。


巨大な掲示板の前には新入生たちがぎゅうぎゅうに集まっている。


種族も様々だ。


角の生えた生徒。


獣耳の生徒。


翼を畳んでいる生徒。


中には本当に浮いている生徒までいる。


レンは人混みに押されながら、必死に前へ進んでいた。


「ちょっ……押すな……!」


「頑張れワン公!」


「お前も押されろ!」


隣ではモズがやたら元気だった。


というか朝からずっと元気だ。


体力が無限なのだろうか。


「頼むから別クラスだけはやめてくれよ〜!」


「いや、まだ会って半日だが?」


「もう親友だろ俺ら」


「うん、なんか距離感バグが発生してるな」


レンが呆れる。


しかし不思議と嫌ではなかった。


この世界に来てからずっと緊張していた。


周囲は知らない人ばかり。


知らない文化。


知らない常識。


しかもなぜか自分だけ化け物扱いされている。


そんな中で、モズだけは最初から変わらなかった。


うるさいし距離は近いし勝手にあだ名を付ける。


でも普通に接してくれる。


それが少し嬉しかった。


モズはそんなレンの気持ちなど知らず、ぐいぐい前へ進んでいく。


そして。


「あっ」


急に声を上げた。


「?」


「ワン公!!」


勢いよく肩を掴まれる。


痛い。


「同じ学科!!同じクラス!!!」


「えっマジ!?」


レンも慌てて掲示板を見上げた。


そこには確かに名前が並んでいた。


一年・特殊魔術学科


クラスA


大神レン


モズ・スターリング


「うお……」


思わず声が漏れる。


ほんの少しだけ。


本当に少しだけだが。


嬉しかった。


知らない世界で知っている顔がある。


それだけで安心感が違う。


モズは両拳を握って喜んでいた。


「よっしゃぁぁぁ!!」


周囲の視線も気にせず叫ぶ。


「これで毎日ダルい授業一緒にサボれ――」


その時だった。


ざわっ。


空気が変わった。


周囲が急に騒がしくなる。


「あれ……?」


「嘘だろ?」


「今年マジかよ……」


「新入生クラスだよな?」


レンは首を傾げた。


モズも笑顔を止める。


二人の視線が自然と掲示板の下へ向かった。


担任教師欄。


担任:ボイド


副担任:リゼリア・ルクス


その瞬間だった。


周囲がさらにざわめく。


「ボイド先生!?」


「いや待て待て待て!」


「副担任リゼリア教授!?」


「どういう組み合わせだよ!」


「問題児クラスじゃねぇか……」


「今年ヤバいの混ざってんのか?」


「絶対あいつだろ」


視線がレンへ集まった。


レン:

(俺ぇ!?)


何もしてない。


本当に何もしていない。


食堂を買収しかけただけだ。


モズも若干引いていた。


「いや……ボイド先生は変わり者で有名なんだけどさ……」


「けど?」


「リゼリア教授はガチで異例」


嫌な予感しかしない。


すると。


「――その認識は概ね正しい」


背後から冷たい声が響いた。


レンの背筋が跳ねる。


振り返る。


そこには一人の女性が立っていた。


銀色の長い髪。


透き通るような白い肌。


モデルのように整った体型。


細い眼鏡。


そして。


まるで氷細工のような美貌。


思わず見惚れそうになるほど綺麗だった。


だが。


怖い。


とにかく怖い。


感情が見えない。


冷たい湖の底を覗き込んでいるような圧迫感があった。


リゼリア教授。


その隣には、ふわふわ浮いているボイド先生。


「あっ!!」


レンは思わず声を上げた。


面接官だ。


ボイド先生はレンと目が合った瞬間――


すっ……。


半歩下がった。


警戒された。


なんで。


リゼリア教授は静かにレンを見る。


青い瞳がまっすぐ向けられる。


「大神レン」


「は、はい」


「お前の魔法は危険と判断している」


レン:

(だから魔法使えないんだが!?)


誰か聞いてほしい。


切実に。


だが教授は構わず続ける。


「だが同時に」


一拍。


「私はお前に興味が湧いた」


「えっ」


周囲がざわつく。


レンは固まった。


教授はさらに続ける。


「これから覚悟しろよ」


無表情。


淡々としている。


なのに妙に重い。


レンの背筋に冷たいものが走った。


まるで今後の苦労を予告された気分だった。


「は、はい……」


怖い。


めちゃくちゃ怖い。


その横でモズがぼそっと呟く。


「……でもコイツ、そんな危険そうに見えねーけどな」


その瞬間。


リゼリア教授の視線だけがスッと動いた。


モズを見る。


空気が凍る。


本当に凍った気がした。


「モズ・スターリング」


「……はい」


「お前も、ちゃんと勉学に励めよ?」


「うっ」


「単に勉強ができるだけのサボり魔は、この学校に必要ない」


名指し。


しかも的確。


モズの顔が引きつった。


レンは思わず吹き出しそうになる。


「……へい」


しょんぼりした返事だった。


リゼリア教授は小さく息を吐く。


「特にお前たちは目立っている。自覚を持て」


「はぁ……」


「では後日、ホームルームで会おう」


そう言って踵を返す。


ボイド先生も慌てて後ろをついていった。


その時。


ぽとっ。


何かが落ちた。


黒い手帳だった。


レンが気付く。


「あ、先生!落とし――」


ボイド先生がビクゥッ!!と飛び上がった。


「ひぇっ!!」


周囲まで驚く。


レン:

「えっ」


ボイド先生は数歩後退した。


完全に距離を取っている。


「お、大神レン君……」


「はい?」


「以降急に僕に話しかけないこと……」


「す、すみません?」


「心臓止まるかと思った……」


幽霊なのに?


レンは心の中でツッコんだ。


手帳を拾って差し出す。


ボイド先生は恐る恐る受け取った。


「あ、ありがとう……」


そして小さな声で呟く。


「……べ、別に怖がってなんかないんだからね……」


めちゃくちゃ怖がっていた。


レンとモズは顔を見合わせる。


そして同時に思った。


――担任、大丈夫かな。

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