普通っぽいねぇ
朝のホームルーム前。
特殊魔術学科Aクラスは、すでに騒がしかった。
「今年の担任マジかよ……」
「リゼリア教授副担任って本気?」
「絶対ハズレクラスじゃん……」
レンは窓際の席で、居心地悪そうに座っていた。
モズは机に突っ伏している。
「終わった〜……リゼリア教授とか絶対サボれねぇ……」
「お前最初からサボる気だったのか」
「大学生活ってそういうもんだろ?」
違う気がする。
その時。
教室の扉が静かに開いた。
ふわり。
柔らかい甘い香りが流れ込む。
何人かの学生が一斉に顔を上げた。
「……来た」
「げっ」
「マジで同じクラスかよ……」
空気が変わる。
レンもつられて扉を見る。
そこにいたのは、小柄な女の子だった。
白に近い、淡い桜色の髪。
光を受けるたび、
ふわっと柔らかく色が変わる。
ゆるく波打つロングヘア。
眠そうなタレ目。
白いカーディガンを羽織り、
大きめの制服をゆるっと着ている。
見た目だけなら、
完全に“ほんわか女子”。
両手でマグカップを持ちながら、
ぽや〜っと教室を見回していた。
「……ねむい〜」
第一声それ。
レン:
「普通の子っぽいな」
モズ:
「いや、周りの反応見ろって」
確かに。
教室の空気がおかしい。
緊張してる。
なんなら若干距離空いてる。
女の子は気にした様子もなく、
レンたちの前の席へ座った。
ぽすっ。
そして窓の外をぼーっと眺め始める。
「……春だねぇ」
平和。
その瞬間だった。
教室後方。
誰かの使い魔らしき黒い鳥が突然暴れ出した。
「うわっ!?」
「おい捕まえろ!!」
羽ばたき。
机が倒れる。
魔力が暴走し始める。
レンも思わず立ち上がる。
「やばくね!?」
だが。
前の席の女の子が、のんびり振り返った。
「ん〜……だめだよぉ」
ふわっ、と指先を振る。
次の瞬間。
教室全体の空気が止まった。
――静寂。
暴れていた黒い鳥が、
空中でぴたりと静止する。
羽ばたきすら止まっている。
時間が凍ったみたいだった。
レン:
「……え?」
モズ:
「は?」
女の子は眠そうに笑う。
「はい、おしまい〜」
パチン。
指を鳴らす。
すると鳥は、
何事もなかったように飼い主の肩へ戻った。
教室、静まり返る。
誰も喋らない。
レンだけが状況についていけてない。
「……今、何した?」
モズが小声で呟く。
「高位拘束魔法……だと思う……」
「“だと思う”?」
「いや規模がおかしい……」
前の席の女子は、
何事もなかったみたいにマグカップを傾ける。
「朝から元気だねぇ〜」
怖い。
すると周囲の学生たちがヒソヒソ話し始めた。
「白羽ノンだ……」
「名家の……」
「今年の首席候補……」
「またやった……」
レン:
「有名人?」
モズが頷く。
「白羽家知らねぇの?」
「知らん」
「王都でもトップクラスの魔術名家」
話がでかい。
モズはさらに小声になる。
「しかもノン本人、バケモン級に魔法上手い」
「えぇ……」
レンが前の席を見る。
ノンは窓の外を見ながら、
ぽや〜っとしていた。
そんな危険人物には見えない。
すると。
ノンが突然振り返った。
レンと目が合う。
にこっ。
「おはよぉ」
「あ、おはよう……」
「レンくんだよねぇ?」
レン固まる。
「えっ、なんで名前」
「有名だもん〜」
嫌な有名。
ノンはふにゃっと笑った。
「ワン公くんって呼ばれてるんでしょ〜?」
「もう広まってんの!?」
モズが吹き出す。
「さすがワン公」
「やめろって」
ノンはくすくす笑う。
その笑い方すら柔らかい。
でも次の瞬間。
「……でも、なんか安心するなぁ」
「え?」
「レンくん、普通っぽい」
レン、凍る。
モズ:
「おっ」
終わった。
バレた。
だがノンは首を傾げる。
「不思議な感じ〜」
ニコニコしてる。
読めない。
その時。
教室の扉が開く。
ボイド先生が入ってきた。
「……ホームルームを始める……」
低い声。
頑張って威圧感出してる。
だが教室前方で、
ノンとレンが並んでるのを見た瞬間。
「…………」
顔に出た。
嫌な汗。
ちょっと透ける。
モズ、小声。
「先生ワン公とノンの事めっちゃ警戒してる」
レン:
「やめてくれ」
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