桜色の入学式?
ついに、入学式が始まる――。
新入生たちが次々と移動を始めていた。
だが。
歩いてない。
「……え?」
レンは足を止めた。
空。
みんな空飛んでる。
箒。
魔法陣。
羽。
謎の浮遊生物。
自由。
もしかしてワンチャン飛べたりする?
…なんとなく両手をパタパタさせてみる。
鳥みたいに。
「…いやいやいやいや」
自分で自分にツッコむ。
飛べるわけない。
そんなレンの横。
モズは慣れた様子で、
制服の袖をまくった。
「んじゃ行くか〜」
パチン、と指を鳴らす。
次の瞬間。
ふわっ。
細身の箒が現れた。
黒を基調にしたスタイリッシュなデザイン。
先端に銀色の装飾。
いかにも“乗り慣れてます”感。
レン:
「うわっ!?」
モズ:
「ん?」
「いや普通に出てきたが!?」
「普通だろ?」
普通じゃない。
モズは当然のように箒へ跨った。
そして不思議そうにレンを見る。
「……ワン公、箒出さねぇの?」
終わった。
レン、硬直。
当然持ってない。
そもそも魔法使えない。
「え、えーと……」
どうする。
どうする。
レンは必死に脳を回転させた。
「……デザイン悩んでて」
「ん?」
「まだ買ってない」
沈黙。
レン:
(終わった)
だが。
モズは普通に頷いた。
「あー、なるほど」
通った。
「えっ」
「わかるわ。箒って結構センス出るしな」
「そ、そうそう」
「ワン公絶対こだわるタイプだもんな〜」
助かった。
なぜか助かった。
モズはニッと笑う。
「んじゃ後ろ乗れよ」
「えっ、いいの?」
「落ちんなよ?」
レンは恐る恐る箒の後ろへ跨った。
意外と安定してる。
というか。
「……これ、自転車みたいだな」
次の瞬間。
ふわっ。
体が浮いた。
「うおっ!?」
地面が離れる。
風が吹く。
校舎が小さくなる。
レンの目が、一気に輝いた。
「うわっ……!!」
空。
飛んでる。
本当に。
「すっげぇぇぇ!!」
レン、完全に子供。
モズは後ろをちらっと見て笑う。
「お前ほんと変わったやつだな」
「だ、だって飛んでるぞ!?空!!」
「いや魔法大学だし」
「うわぁぁ……!!」
レンは目を輝かせながら景色を見回した。
空中橋。
浮遊庭園。
遠くの巨大塔。
全部ファンタジー。
「やばい……大学生活ってすげぇ……」
感動ポイントそこなんだ。
モズは少しだけ目を細めた。
最初は、
“危険人物”だと思ってた。
でも。
今後ろで騒いでるのは、
ただ空飛んで喜んでる男子高校生みたいなやつ。
「……やっぱ変だわ」
「何が!?」
「全部」
そんな話をしているうちに、
巨大な建物が見えてきた。
月詠魔法大学・中央大講堂。
城みたいだった。
いや、もはや神殿。
空中に浮かぶ巨大階段。
無数の光。
レン、ぽかん。
「……入学式ってレベルじゃねぇ」
モズ:
「まあ月詠だし」
スケール感が終わってる。
大講堂へ降り立つと、
すでに新入生たちが集まっていた。
その中心では、
小さな魔法演出が始まっている。
火花。
氷結晶。
光球。
みんな、
軽く魔法を披露している。
モズが言う。
「新入生歓迎の恒例行事」
「えっ」
「簡単な魔法出すだけだって」
終わった。
レンの顔から血の気が引く。
「無理だが?」
「ん?」
「いや……」
その時。
隣から、そっと袖を引かれた。
振り向く。
ノン。
ふわふわの桜色の髪が、
風に揺れている。
ノンは周囲に聞こえないよう、
そっとレンへ顔を寄せた。
「……困ってる〜?」
耳元で、小さな声。
近い。
レンの肩が跳ねる。
「っ!?」
ノンは眠そうに笑っている。
でもその目だけ、
ちゃんとレンを見ていた。
「だいじょぶだよぉ」
周囲に気づかれないよう、
ノンがそっとレンの手へ触れる。
「ちょっとだけ貸してあげるねぇ」
次の瞬間。
淡い桜色の光。
ノンの魔力が、
静かにレンの中へ流れ込む。
ドクン。
レンの心臓が跳ねた。
「っ……!?」
熱い。
温かい。
全身に、
何かが巡っていく。
ノンが耳元で囁く。
「そのまま出してみてぇ」
「だ、出すってどうやって!?」
「ん〜、ぽんって感じ〜」
説明が雑。
レンは混乱しながら、
とりあえず手を前へ出した。
その瞬間。
レンの瞳が、
淡い桜色に染まる。
ノンが少しだけ目を丸くした。
「……きれい」
そして。
ボッ。
小さな火花。
……のはずだった。
次の瞬間。
ドォォォォォン!!!!!!
巨大な桜色の花火が、
大講堂の天井いっぱいに炸裂した。
「「「!!???」」」
講堂全体が揺れる。
光。
桜吹雪みたいな魔力残光。
新入生、絶叫。
上級生、騒然。
モズ:
「はぁぁぁぁ!?」
レン:
「えぇぇぇぇぇ!!??」
ノン:
「わぁ〜」
完全に他人事。
花火は止まらない。
バババババン!!!
空中で桜色の爆発が連続する。
もはや祝砲。
レン:
「止め方分からん!!!」
モズ:
「ワン公ぉおおお!?お前何したんだよ!?」
レン:
「俺が聞きたいんだが!!!」
入学早々の大事件だった。
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