そしてカツアゲにげました
「賭けをしませんか?」
レンがそう言った瞬間。
先輩三人は顔を見合わせた。
そして。
「ぷっ」
一人が吹き出す。
「ははは!」
「賭けだってよ!」
「面白ぇ!」
ゲラゲラと笑い始める。
モズだけが頭を抱えた。
嫌な予感しかしない。
妙な度胸を発揮するレン。
ついさっきまでビビっていたくせに。
今は妙に堂々としていた。
「ほぉ?」
先頭の男がニヤニヤ笑う。
「賭けか」
「いいですよね?」
「内容によるな」
レンは頷く。
「簡単です」
そう言うと。
先輩達へ手を差し出した。
「先輩方が持ってる硬貨を一枚貸してください」
「硬貨?」
「なんでもいいです」
三人は顔を見合わせる。
そして一人がポケットを探った。
銀色の硬貨を取り出す。
魔界で一般的に流通している銀貨だ。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
レンは受け取った。
指先でくるりと回す。
カラン。
小さな音。
そして。
百円玉と並べた。
サイズはほとんど同じ。
「では」
レンは二枚を差し出す。
「この二枚を片手で握ってください」
「それだけ?」
「はい」
先輩の一人が鼻で笑う。
「楽勝じゃねぇか」
二枚の硬貨を受け取る。
そして。
右手でぎゅっと握り込んだ。
レンは頷いた。
「ありがとうございます」
「で?」
「その中から一枚だけお借りします」
「は?」
男が眉をひそめる。
「握ってるぞ?」
「大丈夫です」
レンはそう言って。
拳に手を近付けた。
モズが見守る。
先輩達も見守る。
そして次の瞬間。
レンの指先が拳に触れた。
たったそれだけ。
それだけだった。
だが。
レンが手を離した時。
右手には魔界の銀貨が一枚乗っていた。
「……は?」
先輩が固まる。
レンは微笑む。
「え?」
男が慌てて拳を見る。
まだ握ったままだ。
開いていない。
だが。確かに。
レンの手には先輩が持っていたはずの銀貨がある。
「1枚、取り取り出しました。」
「……え?あ、ああ」
周囲の二人も困惑していた。
モズも目をぱちぱちさせる。
知っている。知っているぞ。
これが
噂に聞いていたレンの魔法だ。
決して派手な魔法ではない。
しかし
間近で見ても何が起こったのか全く分からない。
不思議な感覚だった。
「簡単な賭けの内容は」
「最終的に先輩の手の中にある硬貨を当てる、というものです」
「先輩方の銀貨か、俺の白金円貨か」
レンはそう言って。
手のひらの銀貨を掲げた。
「では始めましょう。」
魔界の銀貨。
先ほど貸してもらったものだ。
「今、俺の手にあるのは先輩方の銀貨です」
「……あ、あぁ」
「そして先輩の手の中にあるのは…白金硬貨」
「そうだ」
先輩は頷いた。
「では」
右手のひらへ銀貨を乗せる。
その上から左手で擦った。
シャッ。
シャッ。
まるで汚れでも落とすように。
すると。
硬貨が光った。
淡い光。
ほんの一瞬。
だが。
確かに光った。
「なっ!?」
先輩達の顔色が変わる。
モズも思わず叫ぶ。
「えっ!?」
レンは首を傾げた。
実際には。
光る仕掛けが入った簡単な手品道具。
人間界では珍しくもない。
だが。
魔法使い達は知らない。
だから。
余計に不気味だった。
レンは静かに顔を上げる。
そして。磨いたコインを見せる。
「……白金円貨?!」
先程までレンが持っていたはずの魔界通貨が
白金円貨ー百円玉ーに変化していた。
驚く先輩集団に優しく笑いかける。
「さて」
その笑顔が妙に怖い。
先輩達は息を呑んだ。
「先輩方」
「……な、なんだ」
「あなたの手の中にあるのは」
レンが一歩近付く。
「本当に百円玉ですか?」
沈黙。
空気が凍る。
男の喉が鳴った。
だが。
意地がある。
後輩相手だ。
ここでビビるわけにはいかない。
「も、もちろんだ!」
強がる。
「白金円貨に決まってるだろ!」
レンは。
ニヤリと笑った。
「そうですか」
パチン。
指が鳴る。
「では」
ゆっくりと告げた。
「手を開いてください」
男が拳を開く。
そこにあったのは――
銀色の魔界銀貨。
「……え?」
男が固まる。
周囲も固まる。
数秒。
誰も動かない。
レンも。
モズも。
先輩達も。
全員が硬貨を見ていた。
そして。
「ええええええぇぇぇぇ!?」
絶叫が響いた。
「なっ!?」
「入れ替わってる!?」
「いつだ!?」
「無詠唱!?」
「魔力感じたか!?」
「いや感じてねぇ!」
「じゃあ何だよ!!」
完全にパニックだった。
レンは胸を張る。
「この勝負」
ドヤ顔。
「俺らの勝ちです!」
さっきまで怯えていた男と同一人物とは思えない。
モズは呆然としていた。
先輩達は顔を真っ青にする。
特に。
銀貨を持っていた男。
手が震えている。
「お、おい……」
「なんだよ……」
「今の……」
「知らねぇよ!!」
三人とも半泣きだった。
「ひえぇぇぇぇぇぇ!!」
「撤退だ!!」
「関わるな!!」
「絶対ヤバいやつだ!!」
銀貨を放り投げる。
そして。
三人揃って全力疾走。
ものすごい勢いで逃げていった。
覚えてろよぉお!とか言いながら
モブヤンキーのテンプレートみたいに逃げる。
残されたのは。
レンとモズだけ。
(まさかこんなに上手くいくとは…)
手品を仕掛けた本人も引くレベルで大成功だった。
しばらく沈黙。
レンが銀貨を拾い上げる。
「返しそびれたな」
そう呟いて振り返る。
すると。
モズがいた。
口を開けたまま。
完全停止している。
「モズ?」
反応なし。
「おーい」
ようやく。
モズが動いた。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
レンを見る。
「ワン公」
「ん?」
「お前」
数秒の間。
そして。
「ホンマにヤベぇやつなんだな!?」
「なんで!?」
(ただの手品なんだけど……?!)
二人の声が校舎前に響いた。
そしてその頃。
逃げ去った先輩3人組のせいで
『魔力反応ゼロで物質を変換する神狼族の新入生がいる』
という噂が、とんでもない勢いで広まり始めていた。
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