早速カツアゲされました
校舎へ向かう石畳の道。
昼休みの賑わいはまだ残っていた。
新入生、上級生、教授。
様々な種族の学生達が行き交う。
レンとモズも新入生用の教室を探しながら歩いていた。
「いやぁー、しかしすごかったな」
モズが頭の後ろで手を組む。
「何がだよ」
「何がって食堂だよ」
モズはケラケラ笑った。
「ワン公が百円玉出した瞬間のおばちゃんの顔」
「やめろ」
「めちゃくちゃ面白かったじゃん」
「俺は全然面白くなかった」
レンはため息を吐く。
思い出すだけで胃が痛い。
百円玉一枚で食堂中が大騒ぎ。
神狼族だの白金円貨だの。
意味が分からない。
普通の百円玉である。
本当に。
ただの百円玉なのだ。
「まあでもさ」
モズが笑う。
「おかげで昼飯代浮いたし」
「お前な……」
そんな会話をしていると。
後ろから声が飛んできた。
「おーい!」
モズの肩がぴくりと動く。
レンは気付いた。
今の反応。
明らかに知り合いだ。
振り返る。
二年生らしき男子学生が三人。
どこかガラが悪い。
胸元には二年生を示す学年章。
先頭の男がニヤニヤ笑っていた。
「おぉー、モズじゃんかぁ」
その瞬間だった。
モズの顔から笑顔が消えた。
さっきまでとは別人。
露骨に面倒臭そうな顔。
「あー……」
嫌そうな声まで漏れる。
「久しぶりだなぁ」
「別に久しぶりでもないだろ」
「そうだっけ?」
男達が笑う。
嫌な笑い方だった。
「今年はちゃーんと真面目に授業受けて進級しろよぉ?」
「はははは!」
ゲラゲラ。
ゲラゲラ。
楽しそうに笑う三人。
そのうちの一人がモズの肩へ腕を回した。
まるで友達のように。
だが。
そうではない。
レンにも分かった。
モズは笑っていない。
目も笑っていない。
完全に鬱陶しがっている。
「もー、お前らそういうのいいから」
モズは肩を振る。
腕を払い落とした。
「うわ」
「冷た」
「前までもっと可愛かったのになぁ」
また笑う。
レンは少しだけ眉をひそめた。
嫌な感じだ。
どう見ても仲良しではない。
それでも三人は気にした様子もない。
面白がるようにモズへ絡み続ける。
「そういやお前」
「今年も彼女いないの?」
「はははは!」
「余計なお世話だろ」
モズの声が低くなる。
レンは初めて見る顔だった。
いつも明るいモズ。
誰とでも仲良くなれるモズ。
会話の内容はよく聞こえないが。
モズが不機嫌なのは明らかだった。
レンは少し迷った。
だが。
見て見ぬふりはできなかった。
「その……」
小さく声を出す。
「そういうの、やめた方がいいんじゃないですか」
三人の視線が一斉に向いた。
「あ?」
レンの背筋が凍る。
しまった。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
だがもう遅い。
「いや、その……」
先頭の男がレンを見る。
数秒。
そして。
「あ」
目を見開いた。
「ん?」
「あー!」
残り二人も声を上げる。
「さっきの食堂騒ぎの!」
「白金円貨のやつじゃねぇか!」
「神狼族の新入生!」
嫌な予感がした。
ものすごく。
嫌な予感がした。
三人の興味が。
完全にレンへ向いた。
「へぇー」
男がレンへ近付く。
「お前が例の」
一歩。
「神狼族」
さらに一歩。
レンは思わず後ずさる。
すると。
横からモズが前へ出た。
「おい」
珍しく低い声。
「そいつは関係ねぇだろ」
男達が顔を向ける。
「ん?」
「なんだよ」
「ワン公は新入生だぞ」
モズが睨む。
「俺に用があるなら俺だけにしろ」
一瞬。
空気が張り詰めた。
レンは少し驚く。
モズがこんな言い方をするのを初めて見た。
だが。
先輩達は鼻で笑った。
「かてぇこと言うなよ」
「なぁ?」
一人がモズの肩を押した。
モズがその手を払う。
だが。
もう一人が間に割り込んだ。
「別にいじめてるわけじゃねぇって」
「先輩後輩の交流だろ?」
「そうそう」
そして。
男がレンの肩へ手を置く。
「な?」
レンは固まった。
「俺らさぁ」
男が言う。
「食堂で昼飯食えなくてさぁ」
ニヤリと笑う。
「お前のせいで」
近い。
近い近い近い。
レンは冷や汗を流した。
「食堂では大盤振る舞いだったそうだなぁ?」
「俺らにも奢ってくれよ」
肩を掴まれる。
「神狼のにぃちゃんよぉ」
怖い。
普通に怖い。
レンは俯いた。
どうしよう。
金を渡せば終わるか。
でも。
それでいいのか。
ポケットへ手を入れる。
指先に触れる硬貨。
百円玉。
さっきの騒動の元凶。
レンはそれを握りしめた。
そして。
ふっと息を吐く。
やるしかない。
顔を上げた。
「……分かりました」
「あ?」
「これ、あげます」
百円玉を差し出す。
三人の目が輝く。
「おおおおお!!」
「これが噂の白金硬貨!」
「マジかよ!」
男が百円玉を受け取ろうとする。
宝石でも見るように眺める。
レンはその様子を見ながら。
口元を少しだけ緩めた。
「ただ――」
三人が顔を上げる。
「これをタダで差し上げるほど、俺もお人好しじゃないんです」
カチン。
レンが百円玉を指で弾く。
澄んだ音が響いた。
モズが嫌な予感を察した顔になる。
レンはゆっくり笑う。
「ひとつ」
そして。
いたずらを思いついた子供のような顔で言った。
「賭けをしませんか?」
ご覧頂きありがとうございます!
次のお話は19:10に投稿します。
ブックマーク登録をしてお待ちいただけると幸いです。
「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の励みになります!




