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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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ワン公、飛びます!

放課後。


月詠魔法大学の校庭。


噴水を囲むように白いベンチが並び、季節の花々が揺れている。


その向こうには大きな校庭。


職員室の窓からも見える場所だ。


レンはホウキを抱えながら走っていた。


人生初。


自分専用のホウキ。


ミヤが作ってくれた一本。


手に持つたびに胸が高鳴る。


期待。


緊張。


不安。


全部混ざっていた。


だが何より――


楽しみだった。


入学式の日。


モズの後ろに乗せてもらったことはある。


空も飛んだ。


風も感じた。


だが。


あの時は乗客だった。


今回は違う。


自分で飛ぶ。


自分の意思で。


自分の手で。


空へ。


そう思うだけで胸が躍る。


「お待たせ!」


レンが駆け寄る。


先に校庭へ来ていた三人が振り返った。


「おっ」


モズが笑う。


「よっしゃ」

「それじゃ始めるか」


そう言いながら片手を上げる。


橙色の魔法陣。


ふわり。


そこから現れたのは。


細身の黒いホウキ。


銀色の装飾が先端に輝く。


スタイリッシュ。


いかにも乗り慣れている感じ。


完全に上級者用である。


続いて。


ノン。


桃色の魔法陣。


ふわりと桜の花びらが舞う。


現れたホウキには桜の装飾。


緑の蔓が優しく巻き付いている。


春そのものだった。


そして。


ネフィラ。


淡い青色の魔法陣。


ネモフィラの花びらが光となって舞う。


白を基調とした美しいホウキ。


青い宝石。


繊細な花の装飾。


芸術品だった。


レンは思わず感心する。


「なんか……みんな個性出るんだな」


三本を見比べる。


「ホウキってこう……」

「全部同じだと思ってたわ」

「茶色のありがちな感じの」


それを聞いたモズが吹き出した。


「お前何十年前の話してんだよ」


レン。


「えっ」


ノンも笑う。


「今は特注が主流だよぉ〜」


ネフィラは胸を張る。


「私は我が家専属のホウキ職人に作らせましたわ」


ドヤ顔。


「かなりこだわりましたのよ」


レン。

「なるほど……」


元いた世界のランドセルみたいなもんか。


昔は赤と黒。


今はカラフル。


個性重視。


この世界のホウキもそうやって進化してきたのだろう。


レンは一人納得する。


「時の流れだな……」


モズ。

「何言ってんだコイツ」


即ツッコミだった。



「とりあえず飛んでみよぉ〜」


ノンが言う。


レン。

「え?」

「いきなり実践!?」

「俺ホウキ初めてだぞ!?」


ノン。

「ん〜」

「感覚でいけるよぉ〜」

「びゅーんってぇ〜」

ホウキを持っていない方の手を体の前でシューっと動かしながらいう。


沈黙。


…ダメだこれは。


完全感覚派。


説明になっていない。


レンが困惑していると。


モズが助け舟を出した。


「しゃーねぇな」


レンのホウキを受け取る。

慣れた手つきでくるっと回す。


そして。


講師モード。


「まずここ持つ」


「はい」


「足はこう」


「はい」


「重心は前」


「はい」


「視線は十二時方向」


「はい」


「加速は前傾」


「はい」


「減速は後傾」


「はい」


「緊急停止は――」


「まてまてまてまて」


レンが止めた。


細かい。


細かすぎる。


モズは真剣そのもの。


レンはそんな横顔を見つめた。


ふと。


目が合う。


モズ。


ニヤリ。


「なんだ?」


「見惚れたか?」


ドヤ顔。決まった。


モズ本人はそう思っている。


レン。

「いえ」

「細かすぎてわかりません!!!!」


沈黙。


モズ。

「……」


レン。

「……」


モズ。

「これデジャヴだな?」


完全に的当て訓練の時と同じだった。



「もういい!」

「実践だ実践!」


モズが投げやりになる。


レン。

「ごめんって!」


笑いながら謝る。


そして。


ホウキへまたがった。


モズに教わった通り。


よし。


飛ぶぞ!


――しかし…動かない。


沈黙。


びくともしない。


レン。

「……あれ?」


モズ。

「……」


ノン。

「……」


ネフィラ。

「……」


全員何かを忘れている。


そして。


思い出した。


「あ」


レン。

「魔力ないんだった」


初歩的なミスだった。


首から下げた革袋。


中には花びら。


レンはそれを握る。


ノンも同じように革袋を握った。


その瞬間。


ふわっ。


優しい桃色の風が吹く。


レンの瞳が桃色へ変わる。


魔力が流れ込む。


ちゃんと繋がった。


「おお……」


レンが目を見開く。


だが。


すぐに次の疑問。


「…え?」

「これ片手で運転すんの?」


革袋握ったまま?


無理では?


ネフィラが説明する。


「いえ」

「革袋へ魔力を蓄えられましたら一定時間は手を離しても大丈夫ですわ」


レン。


「よかったぁ……」


心底安心した。


二人同時に革袋から手を離す。


それでも。


魔力は残っている。


成功だ。


モズがニッと笑う。


「よし」

「じゃあ飛んでみっか」


「空!」


レン。


強く頷く。


空を見上げる。


青空。


白い雲。


人類の夢。


飛行。


俺は――


空へ羽ばたく!!


意気揚々と力を込める。


ふわっ。


足が浮いた。


レン。

「おおおおおお!!!」

「浮いた!!!」

「ほんとに!!!」


モズ。

「ナイス!」


ノン。

「すごぉ〜い!」


ネフィラ。

「お見事ですわ!」


拍手。


レン感動。


照れて頭をかく。


人生初飛行。


成功。


――だった。


だが。


次の瞬間。


いつもの如く、どこからともなく現れた白い塊。


ウサ丸がレンのホウキの先にぴょんっと飛び乗る。


まるで、私をお忘れ?とでも言うように。


重心が動く。


くるっ。


ホウキが回転する。


向きが変わる。


校庭。


ではない。


校舎。


職員室。


「「「「なんで????」」」」


4人の声が重なる。


嫌な予感。


レン。

「え?」

「こ、これ向きどうやって変えんの?」


モズ。

「あ」


レン。

「あ?」


モズ。

「方向転換教えんの忘れてた」


てへっ。


舌を出す。


ウインク。


レン。

「今いう?!そして、てへぺろじゃないんだわ!」


次の瞬間。またウサ丸のイタズラ。


レンの頭に飛び乗る。


「うお?!」


思わず前屈みになるレン。


重心が前へ。


同時にホウキ急発進。


何事もなかったかのようにシュタッと飛び降りるウサ丸。


優雅である。


「図ったなぁあウサ丸ぅう?!」


一直線。


目指す先。


職員室に飛び込むまであと5秒だった。


どうなる、ワン公!!!!

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