ワン公のホウキ
放課後の大学敷地内
開店前の魔導具店「ブルーム」は賑やかだった。
ホウキのデザインについて意見を交わしているところだ。
「絶対犬っぽいマーク入れて!」
モズが真っ先に言った。
「色は茶色かなぁ〜?」
ノンも続く。
「レンくん普通っぽいし〜」
レン。
「普通っぽいってなんだよ」
ネフィラも負けていない。
「いつもハッタリをかましてらっしゃるので」
「ハッタリ感も入れて欲しいですわね」
レン。
「言いたい放題だなおい」
オーダーが始まった。
……と思ったら。
自分の意見を言う隙が無かった。
三人が勝手に盛り上がっている。
犬。
茶色。
ハッタリ。
意味が分からない。
レンは助けを求めるようにミヤを見る。
(無視してください)
(今の全部忘れてください)
視線で必死に訴える。
だが。
ミヤ。
完全に職人の顔。
顎に手を当てる。
「なるほど……」
真剣。
めちゃくちゃ真剣。
「犬らしさ……」
「茶色……」
「ハッタリ感……」
メモまで取り始めた。
レン。
「終わった」
頭を抱える。
全部聞いてる。
全部採用される気だ。
モズ。
「おっ、先輩乗り気じゃん!」
ネフィラ。
「参考にして頂けて光栄ですわね」
ノン。
「楽しみぃ〜」
レン。なんとも言えぬ表情である。
(俺のホウキどうなっちゃうのーーー!?☆)
少女漫画の主人公みたいな気持ちだった。
◇
数日後。
再びブルーム。
「完成いたしました」
ミヤがそう言って差し出した一本のホウキ。
そして。
レンは固まった。
「……」
「……え」
言葉が出ない。
想像していたものと全く違った。
良い意味で。
柄は深い焦茶色。
磨かれた木目が美しく浮かび上がっている。
派手ではない。
だが。
どこか上品だった。
持ち手部分には銀色の細い装飾。
手品道具のような繊細な細工が施されている。
先端へ向かうにつれ。
柄には星やトランプを思わせる控えめな彫刻。
まるでマジシャンが使うステッキのようだった。
穂先は少し広め。
飛行時の安定性を重視した設計。
そして。
目立たない位置。
柄の根元近く。
小さな犬の足跡の刻印。
さりげない。
本当にさりげない。
気付く人だけ気付く程度。
さらに。
木目の茶色はノンの提案。
そして。
トランプや星を思わせる意匠が、
ネフィラの言う”ハッタリ感”だった。
レンらしさ。
そして。
三人の意見。
全てが綺麗にまとまっていた。
「……」
「すご……」
思わず漏れる。
モズ。
「魔法????」
ネフィラ。
「さすがですわ……」
ノン。
「思ってたよりも素敵なホウキだぁ〜」
レン。
「人のホウキをどんなのにしようとしてたんだ???」
思わずツッコんだ。
ミヤは小さく笑う。
「ホウキ作成時には魔法も使用しておりますので」
「間違いではありませんね」
レン。
「そこじゃないんですよ」
ミヤはホウキを軽く撫でる。
「安定重視型で設計しております」
「初心者向けですね」
どこまでも丁寧。
どこまでも使い手目線。
レンはホウキを抱きしめた。
「満点以上のホウキです……」
少し涙目だった。
「モズ達が言いたい放題だったから」
「不安だったんだよぉぉ……」
本音が漏れる。
モズ。
「おい」
ネフィラ。
「失礼ですわ」
ノン。
「ひどぉい〜」
レン。
「事実だろ!!!」
ミヤは優しく微笑む。
「ご希望に添えたようで何よりです」
レンは心の底から思った。
本当に。
ミヤ先輩に頼んで良かった。
そんな横で完成したばかりのレンのホウキをクンクンと嗅ぐウサ丸。
口を開けてホウキを齧ろうとする。
「させるかぁぁぁあ!!!」
レンがものすごいスピードでウサ丸の首根っこを掴み阻止する。
「おお、ワン公の反射神経すげぇー」
早すぎて拍手が起こる。
レン。
「汚させないぜ…」
厨二病出てる。
レンに抱き上げられながら、
どこか不服そうなウサ丸だった。
◇
「よっしゃーー!!」
モズが勢いよく立ち上がる。
「練習だーーー!!」
そして。
そのまま店の外へ飛び出していく。
ノン。
「待ってぇ〜」
ネフィラ。
「走らないでください!」
後を追う。
ウサ丸まで。
ぴょんぴょんぴょん。
当然のようについて行った。
嵐だった。
一瞬でいなくなる。
静かになった店内。
レンは店の入口から外を見る。
遠ざかる三人。
そして一匹。
「……嵐みたいな奴らだな」
ぽつりと呟く。
ミヤも窓の外へ目を向ける。
柔らかく微笑んだ。
「賑やかですね」
レンも苦笑する。
「ほんと」
「いつもすみません」
だが。
ミヤは首を横に振った。
「とんでもありません」
本心だった。
そして。
レンへ視線を向ける。
「ホウキに何か改善点などございましたら」
「いつでもいらしてください」
そこで。
ふと思い出したように言葉を続ける。
「あ」
「お陰様で」
「近々お店を開店することになりました」
レン。
「おぉ!」
ミヤは少しだけ寂しそうに笑う。
「開店後は今までのように」
「ゆっくりお話する時間が取れなくなるかもしれませんが……」
そして。
優しく続けた。
「レンさん達ならいつでも大歓迎ですので」
レンは八重歯を見せて笑う。
「そうなんですね!」
「少し早いですけどオープンおめでとうございます!」
「またお祝いしに来ます!」
その言葉に。
ミヤの目が少しだけ柔らかくなる。
まるで春の日差しを受けた花が、
そっとほころぶような表情だった。
「ありがとうございます」
静かに答える。
レンは続ける。
「店忙しくなると思いますし、また手伝いとかあったら呼んでください。俺らで良ければ手伝うんで!」
ミヤは少し驚いた。
そして。
本当に嬉しそうに微笑んだ。
「その時は頼らせていただきます」
一礼する。
そして。
レンの手にあるホウキを見る。
「レンさんも頑張ってください」
「ホウキの練習」
「応援しておりますよ」
レン。
「はい!」
元気よく返事をする。
その時。
外から。
「おーーーーい!!」
聞き慣れた声。
モズだった。
「レンはやく来いーー!!」
レン。
「あ、やべ」
慌てて振り返る。
「今行くー!」
そう返事をして。
ミヤへ向き直る。
ぺこり。
深く頭を下げた。
「ありがとうございました!」
そして。
ホウキを抱えて店を飛び出していく。
その背中を。
ミヤは優しい笑顔で見送った。
ご覧頂きありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の励みになります!ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




