貴方だけの1本を
講義終了。
ガタガタと椅子を引く音。
生徒達は次々と教室を後にしていく。
「夏合宿楽しみ〜!」
「今年は海だぞ海!」
「去年の先輩達めっちゃ焼けて帰ってきたらしいぞ」
賑やかな声が遠ざかっていく。
そんな中。
一人だけ動かない生徒がいた。
レンである。
顔面蒼白。
机に突っ伏したまま。
完全に停止していた。
その様子を。
モズ。
ノン。
ネフィラ。
三人が見つめる。
そして。
ぴょん。
どこからともなく現れた白うさぎ。
ウサ丸。
何故いるのかは誰にも分からない。
慣れた。
ウサ丸はレンの机へ飛び乗る。
そして。
レンの顔を覗き込む。
じーっ。
数秒。
沈黙。
その後。
ぷいっ。
顔を背けた。
まるで。
「……重症だなこれ」
と言わんばかりだった。
モズが肩をすくめる。
「珍しくウサ丸にも伝わるほどの空気の重さだな」
レン。
無反応。
完全に終わっていた。
ノンが苦笑する。
「そんなに落ち込まないでぇ〜」
そう言いながら。
レンの手を掴む。
ぐいっ。
席から引っ張り上げる。
レン。
「うぅ……」
ゾンビみたいな声。
だが立った。
ノン。
満足そう。
すると。
モズがパンッと手を叩く。
「よし!」
「そうと決まればまずはあれだな!」
ノン。
「うん〜」
ネフィラ。
「ですわね」
そして三人同時。
「「「ホウキ調達!!」」」
勢いがすごい。
レンだけ置いていかれていた。
すると。
ウサ丸。
ぴょんっ。
モズの肩へ飛び乗る。
耳ぴこぴこ。
尻尾ふりふり。
やる気満々。
「お前も行くのかよ」
レンが呟く。
ウサ丸。
どや顔だった。
行く気満々である。
◇
放課後。
魔導具店『ブルーム』。
本日二回目の来店である。
店内へ入る。
すると。
カウンター奥からミヤが顔を上げた。
少し驚いたような顔。
そして。
ふっと笑う。
「おや」
優しい声。
「おかえりなさいませ」
レン達。
「ただいまー」
違う。
店である。
モズが即座にツッコむ。
「ちょっと先輩」
「来すぎて引いてません?!」
ミヤ。
「そんなことはありませんよ」
即答。
「ちょうど暇をしていたところです」
そう言って微笑む。
その時。
レンとノンの胸元へ視線が向いた。
首から下げられた大蛇の革袋。
ミヤの表情が少しだけ柔らかくなる。
嬉しそうだった。
「革袋」
「早速身につけてくださったのですね」
レン。
「あ、はい」
ノン。
「お気に入り〜」
ミヤは目を細める。
「お二人ともよくお似合いですよ」
ノン。
「えへへぇ〜」
嬉しそうに頭に手をやる。
店の入口にはまだ、
『オープン準備中』
の看板。
レン達のペナルティ(という名目の手伝い)により、
予定よりかなり早く準備が終わったらしい。
開店日までまだ余裕があるようだった。
ミヤはカウンターへ向かう。
「せっかくですので」
「お茶でもいかがですか?」
そして。
いつものように紅茶を淹れ始めた。
もはや魔導具店ではない。
四人専用のカフェだった。
ソファへ座る。
モズ
「落ち着くわぁ……」
ノン
「ダメ人間になっちゃいそぉ〜」
ネフィラ
「分かりますわ……」
珍しく同意。
ウサ丸までソファの上で。
のびぃ〜〜っ。
完全にくつろいでいた。
レンはそんな仲間たちの様子を見る。
そしてぽつりと呟く。
「甘やかされてんな……」
居心地が良すぎる。
そんな四人を見て。
ミヤは小さく笑った。
紅茶をテーブルへ置く。
そして。
「さて」
「今回はどのようなご相談でしょう?」
穏やかに尋ねた。
モズ。
「あっ!」
思い出した。
本題忘れんな、と軽くつっこむレン
モズ、勢いよく姿勢を正す。
「そうだったそうだった!」
そして。
レンの肩をガシッと掴む。
「コイツのホウキ作って欲しいんです!」
レン
「雑な紹介!」
ミヤ
「ほう」
少し興味深そうに顎へ手を当てる。
「ホウキですか」
レンが頭を掻く。
「まだ……」
「デザインとか迷ってて……」
嘘だった。
迷っていたというより。
後回しにしていただけである。
ミヤは優しく頷く。
「それでしたら」
「私でよければお作りいたしますよ」
レン。
「えっ」
ミヤ。
にこり。
「レンさんのためだけの一本を」
爽やかな笑顔。
男女問わず破壊力がある。
店員の鑑である。
ネフィラ。
「ひぇぇぇぇぇ……」
顔を隠す。
(今日も眩しいですわぁぁぁ……)
心の声が漏れそうだった。
レンも少し照れる。
「お、お願いします」
頭を下げた。
すると。
ミヤが続ける。
「お代は結構ですので」
レン。
「えっ!?」
固まる。
「い、いやいやいや!」
「悪いですよ!?」
ミヤは首を横に振った。
「大蛇の皮を譲っていただいてから」
「開店に向けて新しい魔導具を幾つも作ることが出来ました」
「とても助かっております」
そして。
少しだけ照れたように笑う。
「このような形でお返しさせていただけるなら」
「私も嬉しいのです」
レン
「でも……」
モズが横から口を挟む。
「素直に受け取っとけよぉ」
「先輩がそう言ってんだからさ」
ノンも頷く。
「そうだよぉ〜」
ネフィラ
「ご厚意はありがたく受け取るべきですわ」
レンは少し考えた。
そして。
頭を下げる。
「……分かりました」
「ありがとうございます」
ミヤは満足そうに微笑んだ。
「こちらこそ」
そして。
職人の顔になる。
「さて」
「レンさん専用のホウキですね」
「どのようなものがお好みでしょう?」
その瞬間。
モズ。
ノン。
ネフィラ。
三人が同時に前のめりになった。
嫌な予感しかしなかった。
レンは悟る。
――俺の意見、通るかな。
と。
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