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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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早速ピンチ

レンの手のひら。


そこに乗せられた一枚の花びら。


淡い桃色。


ところどころ焦げている。


大蛇との戦いの日。


無数の花びらが宙を舞ったあの時のものだった。


ノンはその花びらを見つめたまま固まる。


反応がない。


レンが少し不安そうに眉を下げた。


「……ノン?」


顔を覗き込む。


モズも。


ネフィラも。


心配そうに様子を見ていた。


モズ。

「……もしかして髪の毛がよかったのか」


レン。

「ばかやろう」


すると。


「ふふふっ」


突然ノンが笑い出した。


「えっ!?」


レンがびっくりする。


「なに!?」


「なんか変だった!?」


モズも慌てる。


ネフィラも首を傾げた。


ノンは笑いながら首を横に振る。


「ふふふ、ごめんごめん〜」


「違うのぉ〜」


そう言って。


ポケットへ手を入れた。


何かを取り出す。


その瞬間。


三人の目が丸くなった。


ノンの手のひら。


そこにも。


一枚の花びら。


淡い桃色。


そして。


一部が焦げていた。


レン。

「……え?」


ノンがイタズラっぽく笑う。


「私もこれ渡そうと思ってた」


沈黙。


レン。


花びら。


ノン。


花びら。


同じだった。


「ワン公くんとの」


「実践での初めての共同作業だったもんねぇ」


そう言って笑う。


そして。


少しだけ優しい顔になる。


「それに」


「初めて私のこと守ってくれた」


「だからお守りにしたくて」


レンが固まる。


モズも固まる。


ネフィラも固まる。


数秒。


沈黙。


そして。


「ぶはっ!!」


最初に吹き出したのはモズだった。


「え!?!?」

「お前らそういう感じだったのか!?!?」


レン。

「ち、違うからな!?」


即否定。


ノンも慌てる。

「ちがうよぉ〜」


否定している。


だが。


二人とも少し顔が赤い。


ネフィラ。


顔を覆う。


耳まで赤い。


「まぁぁぁぁ……」

「青春ですわぁ……」


完全に始まっていた。


脳内少女漫画。


レン。

「なんか知らんがやめろ???」


全力で阻止した。


ネフィラ。

「まだ何も言ってませんわ!」


言ってないだけだった。


顔に全部出ている。


結局。


二人は花びらを交換することになった。


レンはノンから受け取った花びらを。


ノンはレンから受け取った花びらを。


大切そうに革袋へしまう。


レンの革袋は黒を基調とした落ち着いたデザイン。


小さな銀色の留め具。


手品道具のケースのような上品な雰囲気。


ノンの革袋は淡い桃色の刺繍入り。


小さな花模様が縁を飾っている。


二人とも。


そっと首へ掛けた。


胸元で揺れる革袋。


モズが頬杖をつく。

「なんかお揃いのもん付けてて仲良しだな」


レン。

「やめろ」


即答。


モズ。

ニヤニヤ。


レン。

「そろそろ次の講義始まるぞ!」


耳が少し赤かった。


モズ。

(誤魔化してんな)


顔に出ていた。


「お前何考えてんだよ!」


「キモいぞ!」


レンが抗議する。


モズは肩をすくめた。

「いやぁ?」

「なーんも?」


絶対嘘だった。


ノンはそんな二人を見て。


少しだけ頬を赤くしながら。


目を細めて微笑んだ。


そして。


次の問題が発生するまで。


そう時間は掛からなかった。



午後。


基礎魔法理論。


教室。


リゼリア教授が教壇へ立つ。


「夏合宿が近づいている」


その一言。


教室が爆発した。


「おおおおおおお!!」


「ついに来たーー!!」


「青春イベントだぁぁぁ!!」


「海だーー!!」


歓声。


拍手。


教室は大盛り上がり。


レンはきょとんとしていた。


モズが説明する。


「毎年あるんだよ」


「新入生向けの親睦会」


ノンも頷く。


「楽しそぉ〜」


ネフィラ。


「実戦訓練もあるらしいですわ」


レン。


「へぇ」


少し楽しそう。


夢の学生生活。


まさにそんなイベントだった。


だが。


…問題は次の言葉だった。


リゼリア教授が続ける。


「場所は海を越えた先にある研修施設だ」


生徒達。


歓声。


そして。


リゼリア教授。


何でもないことのように言った。


「各自、空を飛んで現地集合しろ」


レン。


「……」


固まる。


思考停止。


空を。


飛んで。


現地集合。


空を。


飛んで。


現地集合。


レンの脳内でその言葉だけが反響する。


隣。


モズが気付く。


「ワン公?」


返事がない。


「どしたー?」


レンの視線の前で片手をフリフリするモズ。


レン無反応。


モズ。


数秒考える。


そして。


「あっ」


思い出した。


「そういやワン公」

「ホウキまだ買ってないんだっけか!」


レン。

「そうじゃない。…いやそれもそうなんだが…」


低い声だった。


モズ。

「え?」


レンは机に腕を置く。


そして。


額を押さえる。


絶望した顔。


「俺……」


深呼吸。


「飛べません」


沈黙。


モズ。

「……」


ノン。

「……」


ネフィラ。

「……」


数秒後。


モズが立ち上がった。


「そうだった!!!!」


教室中に響く声。


全員振り向く。


リゼリア教授。


「静かにしろ、モズ」


モズ。


「すみません!!!!」


反射だった。


即謝罪。


だが。


レンはそれどころではない。


存在感が消えそうなほど静かになっていた。


海の向こう。


現地集合。


空を飛べ。


レン。


飛べない。


つまり。


夏合宿。


開始前から大ピンチである。


レンは机へ突っ伏した。


「終わった……」


夢の学生生活。


早くも暗雲が立ち込める。


そして。


モズがニヤッと笑った。


「いや待てよ」

「飛べないなら――」


「飛べるようになればいいじゃん!」


レン。


ゆっくり顔を上げる。


嫌な予感しかしなかった。


魔法使いになるための第一歩は。


どうやら平穏には始まらないらしい。


挿絵(By みてみん)

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