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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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大切に思う物

数日後――。


魔道具店『ブルーム』。


開店前の店内は静かな空気に包まれていた。


磨き上げられた木製の床。


壁際に並ぶ魔導書や魔導具。


大きな窓から差し込む午後の光が棚を優しく照らし、ガラス細工や金属製の魔導具がきらりと反射する。


レジカウンターの傍には小さな花瓶。


季節の花が飾られていた。


店の奥には、開店祝いとして贈られたのであろう色とりどりの花束。


白百合。


ネモフィラ。


薔薇。


見ているだけで華やかな気持ちになる。


そして店内には、ほんのりと紅茶と木材の香りが漂っていた。


まるで森の木陰で一息ついているような。


穏やかで心が落ち着く香りだった。


そんな店内の一角。


ソファに腰掛けた四人。


手にはミヤ特製オリジナルブレンドティー。


だが。


その優雅な時間とは裏腹に。


落ち着かない人物が一人。


レンだった。


カタカタカタカタ……


ティーカップが震えている。


というか。


持ち主が震えている。


モズが吹き出した。


「ワン公」


「緊張しすぎだろ」


ノンもくすっと笑っている。


「そうかもしれないでござんす」


レンの口調。


完全に壊れていた。


ネフィラ。

「誰ですのその口調」


レン。

「分からん。自分の中から知らない奴が出てきた」


自分でも分からなかった。


だが仕方ない。


今日。


ついに完成したのだ。


大蛇の革袋が!


夢見ていた一歩。魔法使いへの大きな一歩。


落ち着ける訳がない。


その時だった。


店の奥から姿を現した人物。


細身の高身長。


さらりとした金髪。


柔らかな笑み。


ミヤだった。


「皆さん」


「大変お待たせいたしました」


相変わらず爽やかである。


「完成いたしましたので、お渡しいたします」


そう言って。


懐から二つの小包を取り出した。


レンとノンへ差し出す。


受け取る。


白いオーガンジーの巾着袋。


花と蝶を模した刺繍。


口元はベージュのシルクリボンで結ばれていた。


ラッピングですらお洒落だった。


レン。


「うわ……」


思わず声が漏れる。


ノンも目を輝かせていた。


「かわいぃ〜」


ゆっくりと開ける。


中から現れたのは。


黒く艶やかな革袋。


大蛇の皮で作られたものだった。


だが。


二つは少し違う。


レンの革袋はシンプル。


黒を基調にした落ち着いたデザイン。


蓋の部分には小さな銀色の金具。


どこか手品道具を思わせる上品な造り。


一方ノンの革袋は。


革の縁に淡い桃色の糸で小さな花の刺繍。


結び紐にも小さな白い花飾りが付いていた。


可愛らしい。


だが派手すぎない。


ノンらしいデザインだった。


「おおーー!」


モズ。

「すげぇ!」


ネフィラ。

「流石ですわ……」


思わず感嘆の声が漏れる。


ミヤは少し照れくさそうに微笑んだ。


「首から下げられるように紐を長めにしております」


「使いやすい長さに調整してお使いください」


ただの革袋ではない。


使う人のことを考えて作られている。


それが伝わってくる。


レンは革袋を見つめた。


そして。


ぽつりと呟く。


「ミヤ先輩にお願いして……本当に良かったです」


心から出た言葉だった。


革袋を胸元で握りしめる。


「素敵な品をありがとうございます」


「大切に使います」


深く頭を下げた。


モズ。


ノン。


ネフィラ。


三人もつられて頭を下げる。


ミヤは少し目を見開いた。


そして。


優しく微笑む。


「そんなに喜んでいただけたなら」


「職人としてこれ以上嬉しいことはありません」


「こちらこそ、ありがとうございます」


その笑顔は。


どこまでも穏やかだった。


しばらくして。


四人は紅茶を飲み干す。


「ごちそうさまでした〜」


ノンが手を振る。


店を出る。


ミヤは入口まで見送りに来ていた。


片手を胸に当て。


軽く会釈する。


「またいらしてくださいね」


本当に。


素敵な店だった。



その後。


四人は大学の庭へ向かった。


中央には大きな噴水。


水音が心地よく響いている。


その周囲には手入れされた植木。


色鮮やかな花々。


白いベンチが点々と並び。


まるで小さな公園のような空間だった。


木々の隙間から差し込む光が地面へ模様を描いている。


モズが笑う。


「よっしゃー!」


「ついにゲットだな!」


レンも革袋を見る。


少しだけ緊張する。


すると。


ネフィラが立ち上がった。


「……では」


「わたくしの出番ですわね」


そう言いながら。


レンへ歩み寄る。


狙いは。


頭。


レン。


嫌な予感。


ネフィラ。


真顔。


白く綺麗な指が伸びる。


レンの猫耳みたいな癖っ毛へ。


ピクッ。


危険察知。


レン。


反射的に立ち上がった。


距離を取る。


ネフィラ。

追いかける。


レン。

逃げる。


ネフィラ。

追う。


「待て待て待て待て!!」


レンが叫ぶ。


「俺!」


「ノンの革袋に入れる物ちゃんと決めてんだよ!」


ネフィラ。


「……」


止まる。


「髪の毛じゃないんだ」


その言葉に。


ネフィラは少しだけ口を尖らせた。


残念そうだった。


レン

「確か」


「身体の一部じゃなくても」


「大切な物なら良かったよな?」


ネフィラが頷く。

「ええ」


そして以前図書館で見た魔導書の内容を思い出す。


『魂結びの媒介術』


『互いに信頼する者同士、身体の一部、

または大切に思う品を一つ選び、

大蛇の革袋へ納めよ。』


『魔力を送る時、または受け取る時、

相手を思い浮かべながら革袋へ触れれば、

その袋は一時的な魔力核の役割を果たす。』


モズが腕を組む。

「まあ」

「年頃の女の子に男子大学生の髪の毛持たせるのはな」


レン。

「だろ?」


モズ。

「確かに嫌だな」


レン。

「お前もか」


ネフィラは渋々引き下がった。


そして。


レンはノンへ向き直る。


ベンチへ座るノン。


革袋を持ったまま首を傾げていた。


レンはその前へ立つ。


少し照れくさそうに笑う。


「大蛇と戦いながら考えてたんだよな」


「何を入れるか」


そう言って。


ポケットへ手を入れた。


取り出した物。


それは――


一枚の花びら。


淡い桃色。


ところどころ黒く焦げている。


ノンが目を丸くした。


「それ……」


レンが頷く。


「覚えてるか?」


「大蛇戦の時」


「俺がノンの魔力で初めて戦った時のやつ」


無数の花びら。


宙を舞った。


あの日。


仲間を守るために放った一撃。


その時最後まで残っていた一枚だった。


レンは花びらを見る。


そして。


少しだけ笑った。


「俺が初めて」


「自分の意志で戦えた時のやつ」


「だから」


そう言って。


ノンへ差し出す。


「これを入れてくれ」


優しい風が吹いた。


焦げた花びらが。


陽の光を受けて静かに揺れていた。

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