ブルームに咲く縁
数時間後――
魔導具店『ブルーム』は見違えるように姿を変えていた。
古びた棚は綺麗に磨き上げられ。
大きな窓から差し込む柔らかな夕日が、並べられた魔導書や魔導具を優しく照らしている。
レジカウンターには小さな花瓶。
季節の花が飾られていた。
店内の各所には観葉植物が配置され、
無機質になりがちな空間へ自然な温もりを添えている。
壁際には魔導書。
中央には雑貨類。
動線も綺麗に整理されていた。
まるで最初からそこに存在していた店のような完成度だった。
「終わったぁぁぁーーー……」
レンがソファへ倒れ込む。
モズも。
ノンも。
ネフィラも。
全員ぐったりだった。
そんな四人を見て。
ミヤがふっと微笑む。
「お手伝い、ご苦労様でした」
そう言って差し出したのは。
ガラス製のティーカップ。
透明な持ち手には、
薔薇と蝶を模した細かな装飾が施されている。
繊細で美しい。
中には琥珀色の紅茶。
ふわりと良い香りが漂った。
レン。
「なんかこう……」
「オシャレですねこれ……」
慣れない手付きで持ち上げる。
モズ。
「かっけぇーーー!!」
ティーカップを掲げる。
裏までまじまじと見始めた。
レン。
「お前零すぞ」
モズ。
「大丈夫だってー」
その瞬間。
ぴょん。
ウサ丸がモズの左肩へ飛び乗った。
ガタッ。
「あっ」
紅茶が跳ねる。
ピシャッ。
モズの頬へ直撃。
「あっっっつ!?」
レン。
「ほら言わんこっちゃない……」
モズ。
「裏切ったなウサ丸!」
ウサ丸。
きょとん。
全く悪びれていなかった。
一方その頃。
女子組。
「すごく綺麗なカップですわ……」
「紅茶もとっても美味しい〜」
完全に優雅なティータイムだった。
特にネフィラ。
姿勢。
飲み方。
所作。
全部お嬢様である。
ミヤは微笑んだ。
「ありがとうございます」
そして。
少し照れくさそうに続ける。
「実は紅茶もティーカップも僕のお手製なんです」
沈黙。
「「「えっ!?」」」
レン。
モズ。
ネフィラ。
同時に声が出た。
ノンまで目を丸くする。
「手作りぃ〜?」
ミヤ。
「ええ」
「こういう物を作るのが趣味でして」
ネフィラ。
「素敵なご趣味をお持ちで!!」
目が輝いている。
完全に輝いている。
(王道王子キャラ枠来ましたわぁぁぁぁぁーーー!!!)
脳内では花が舞っていた。
ノンがボソッと呟く。
「今絶対妄想癖発動してるぅ」
ネフィラ。
「ななな何の事ですの!?」
顔真っ赤。
ミヤ。
「お褒め頂き光栄です」
どこまでも紳士だった。
レン。
「すげぇな……」
モズ。
「歩く少女漫画じゃん」
レン。
「否定できねぇ……」
モズ。
「俺ら完全敗北だよな」
レン。
「否定はしないけど、勝手にひとまとめにすんな」
即ツッコミだった。
⸻
しばらくして。
ミヤがふと思い出したように口を開く。
「そういえば」
「皆さん、ブキミ森で大蛇を討伐されたとか」
レン。
「ブフッ!?」
危うく紅茶を吹きそうになる。
モズ。
「何故それを!?」
ミヤ。
「噂で聞きました」
レン。
「も、もう広まってんの!?」
誰だよ言いふらしたの。
…心当たりしかない。
⸻
その頃。
職員室。
グレイガルド学長。
「ブェックチョイ!!!」
盛大なくしゃみ。
ボイド先生。
「ひっ…だ大丈夫ですか?」
変なくしゃみにビビりながらも心配はする。
学長。
「む……」
鼻を擦る。
「これは誰かワシの噂をしておるな」
リゼリア教授。
「なんか変な風邪じゃないですか」
学長。
「違うわい」
⸻
ブルーム店内。
ミヤは穏やかに続ける。
「最後のレンさんの一撃」
「とても華やかだったそうですね。さすが神狼族です!」
レン。
「い、いやぁ……まああのぉ」
モゴモゴ。
視線が泳ぐ。
ミヤは気にしない。
そして。
本題へ入った。
「宜しければ……」
「討伐した大蛇の皮を分けていただけないでしょうか?」
全員。
「「!!」」
ミヤは少し申し訳なさそうに微笑む。
「開店準備を手伝って頂いた後で、このようなお願いをするのは大変心苦しいのですが……」
説明によると。
大蛇の皮は高品質な魔導具作成素材。
非常に希少。
市場に出回ることも少ない。
ミヤは革細工も得意だが、
肝心の素材が手に入らず困っていたらしい。
自分自身は戦闘向きではない。
そのため討伐も難しい。
そんな中。
レン達が大蛇を倒したという噂を耳にしたそうだ。
説明を聞いたモズ。
ふと目を見開く。
「……待って」
「もしかしてミヤ先輩」
「大蛇の革袋、作れたりします?」
ミヤ。
きょとん。
そして。
「……ええ」
当然のように頷いた。
「もちろんですよ」
その瞬間。
四人が顔を見合わせる。
レン。
モズ。
ノン。
ネフィラ。
全員の顔が明るくなる。
レンが立ち上がった。
「お願いします!!」
ミヤ。
「え?」
モズ。
「大蛇の皮全部譲るんで!」
ノン。
「革袋作って欲しい〜!」
ネフィラ。
「ぜひ!」
ミヤ。
目を見開く。
「そんなことで宜しいのですか!?」
「しかし……」
「どう考えても対価が見合っておりません」
戸惑う。
だが。
机越しに。
四人が身を乗り出す。
「十分すぎます!!」
「身に余る幸せです!!」
語彙力は死んでいた。
ミヤは呆気に取られる。
そして。
ふっと笑った。
「……そんなに仰るのでしたら」
「承知致しました、お心遣いありがとうございます」
素直な感謝だった。
⸻
モズが手をかざす。
橙色の魔法陣。
空間収納魔法。
そこから。
巨大な大蛇の皮が現れる。
ドサッ。
かなり大きい。
レン。
「うお……」
ミヤも目を丸くした。
モズ。
「一応余分にと思ってさ」
「血飛沫浴びながら結構剥ぎ取ったんだよなぁ」
レン。
「グロいって」
即ツッコミ。
ミヤは思わず苦笑した。
そして。
大切そうに皮を受け取る。
「託されました」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げる。
やはり紳士だった。
そして。
少し困ったように微笑む。
「ですが」
「やはりこれほど貴重な素材を頂いて」
「革袋だけでは僕が納得できません」
四人。
「?」
ミヤ。
「また別の形で必ずお返しさせてください」
そう言って。
優しく微笑んだ。
その笑顔を見て。
ネフィラは再び顔を覆った。
(追加イベント発生ですわぁぁぁぁぁ!!)
ノン。
「また妄想してるぅ〜」
ネフィラ。
「してませんわ!!」
レン。
モズ。
「してるな」
意見は一致していた。
ご覧頂きありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の励みになります!ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




