初めての戦闘
大蛇の黄色い瞳が。
じぃっと四人を見つめていた。
まるで獲物を値踏みするように。
その視線だけで背筋が冷える。
森の空気が重い。
「……今度こそ下がれ」
モズが言った。
低い声だった。
いつもの軽い調子はない。
レンとネフィラは言われるがまま後ろへ下がる。
ネフィラも流石に顔が青い。
「おきをつけて……」
モズは短く頷く。
その隣で。
ノンがゆっくりと前へ出た。
「うん」
普段と変わらない声。
だけど。
目だけは真剣だった。
ノンは右手を前へ伸ばす。
すると。
足元に淡い桃色の魔法陣が広がった。
桜の花びらのような光が幾重にも重なり、
ふわりと空中へ舞い上がる。
魔法陣の中心。
柔らかな光が集まり始めた。
やがて。
一本の杖がゆっくりと姿を現す。
白い若木を思わせる杖。
先端には若葉を模した装飾。
蔓が優しく巻き付き、
春の花を思わせる小さな花々が咲いている。
風が吹く。
花びらのような魔力の粒子が舞った。
ノンはその杖を握る。
パシッ。
「……いこっか」
モズはニヤリと笑った。
「ああ」
二人が並ぶ。
戦闘態勢。
その様子を見ながら。
レンは蛇から目を離さなかった。
足元へしゃがむ。
枝。
蔦。
小石。
拾う。
数秒。
静かに呟く。
「集え」
「結べ」
「形を変えろ」
小さな光。
枝と蔦が絡まり始める。
ギチギチと音を立てながら変形。
やがて。
パチンコのような武器へ変わった。
レンはそれを手渡す。
モズが受け取る。
「相変わらず便利だな」
「だろ?」
レンは少しだけ得意げだった。
その時。
大蛇が動いた。
黄色い瞳。
完全にこちらを見ている。
モズが武器を構える。
「行くぞ!!」
グォォォォォォォォォォッ!!!!
大蛇が吠えた。
森が震える。
木々が揺れる。
鳥達が一斉に飛び立つ。
次の瞬間。
モズの靴裏に橙色の小さな魔法陣が浮かんだ。
バンッ!!
地面を蹴る。
空気が弾けた。
一気に空へ。
レンが目を見開く。
「速っ!?」
モズの身体が木々を飛び越える。
さらに。
宙で身体をひねる。
クルッ。
回転。
パチンコを構える。
そして。
詠唱。
「石よ」
「貫け」
「砕け」
橙色の光が小石へ宿る。
石が燃えるように輝いた。
モズ。
「そこだァ!!」
バシュッ!!
放たれる。
一直線。
狙いは右目。
しかし。
ほんの少しだけズレた。
ドガンッ!!
大蛇の右目の上。
硬い鱗へ直撃。
火花が散る。
だが。
大蛇は顔を振っただけだった。
ダメージは浅い。
モズが舌打ちする。
「……ッチ!」
「外した!!」
地面へ着地。
ドサッ。
大蛇の瞳がモズを捉える。
だが。
次はノンだった。
ノンは杖を構える。
先端の花飾りが淡く輝く。
桃色の光がゆっくりと集まり始めた。
春風のように優しい魔力。
入学式の日。
動物達を大人しくした魔法。
あれなら。
大蛇の動きを止められるかもしれない。
ノンは集中する。
「おねがい〜……」
桃色の光が集まる。
花びらのような魔力が大蛇へ向かう。
しかし。
大蛇は激しく身体をうねらせた。
狙いが定まらない。
「まってぇ……」
放とうとする。
外れる。
もう一度。
外れる。
さらにもう一度。
外れる。
レンは目を見開いた。
初めてだった。
ノンがここまで苦戦している姿。
普段はのほほん。
マイペース。
だが今。
額には汗が滲んでいる。
戦闘経験が少ないのだ。
緊張している。
モズもそれに気付いた。
「ノン!」
ノンが振り向く。
「ここは任せろ!!」
「援護頼む!!」
ノン。
「う、うん!」
モズが飛び出した。
今度は自分が囮になる。
大蛇の注意を引く。
ノンは援護へ回る。
その瞬間。
ズルッ。
「きゃっ!?」
ぬかるみに足を取られた。
ノンが転ぶ。
ドサッ!!
レン。
「ノン!?」
ネフィラ。
「きゃあ!?」
モズ。
「おい!!」
大蛇の動きが止まる。
黄色い瞳。
地面へ伏したノンを捉える。
ターゲット変更。
完全に。
ノンを見た。
レンの背筋が冷えた。
「まずい!!」
次の瞬間。
大蛇の尾が唸る。
ブォンッ!!
大木のような尾。
一直線に。
ノンへ。
「危ない!!」
全員が叫んだ。
ノンも顔が青くなる。
避けきれない。
そう思った。
だが。
モズが前へ出る。
「空気よ!!」
橙色の魔法陣が展開される。
「壁となれ!!」
バキィィィィィン!!
空気が固まる。
透明な結界。
ノンの周囲を包み込む。
直後。
ドゴォォォォォォン!!!!
大蛇の尾が叩きつけられた。
結界が軋む。
ヒビが走る。
モズ。
「ぐっ……!!」
歯を食いしばる。
額に汗が滲む。
だが。
守った。
ノンは無事だった。
しかし大蛇は暴れ続ける。
森が揺れる。
木が折れる。
地面が砕ける。
レンの顔から笑みが消えた。
ネフィラも本を抱き締める。
気付いてしまった。
この敵は。
学生二人だけでどうにか出来る相手じゃない。
大蛇が再び口を開く。
黄色い瞳が四人を見つめる。
圧倒的な力。その差が。
少しずつ見え始めていた。
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