ただの100円玉ですが?
寮へ向かう道中。
モズはずっと喋っていた。
「んでさー、月詠の食堂マジうまいんだよ!」
「へぇ……」
「あと風呂広い!露天ある!」
「露天?」
「夜になると精霊浮いてる!」
「なんで?」
「知らん!」
テンションだけで生きてる。
レンは黒いリュックを肩に掛け直しながら、隣を歩いた。
校内は広すぎた。
石造りの廊下。
浮かぶランプ。
空中を走る小さな使い魔。
でも意外と、
“生活感”がある。
普通に学生が騒いでるし、
ベンチで寝てるやつもいるし、
購買でパン奪い合ってるやつもいる。
大学だ。
変な大学だけど。
「ここが男子寮!」
モズが勢いよく扉を開けた。
中は意外と普通だった。
「……あれ」
レンは少し拍子抜けする。
もっとこう、
魔法陣とか浮いてると思ってた。
だが実際は、
* 長い廊下
* 共有キッチン
* ソファ
* 掲示板
* 洗濯機
普通の学生寮っぽい。
……たまに壁を幽霊が通り抜けてる以外。
いやそこ普通じゃねえな!?
レン思わず心の中でツッコむ。
二人は部屋へ入った。
「うおー、結構広くね?」
モズがベッドへダイブする。
部屋は二人部屋。
木目調の家具。
大きめの窓。
月の紋章が刻まれたランプ。
レンは荷物を置き、ほっと息を吐いた。
「……大学生かぁ」
実感が湧いてきた。
その時。
ぐぅぅぅ……。
腹が鳴った。
モズがニヤッとする。
「飯行く?」
「……行く」
即答だった。
案内された食堂は、めちゃくちゃデカかった。
吹き抜け。
長テーブル。
シャンデリア。
そして学生だらけ。
獣人。
エルフ。
魔法使い。
みんな普通に飯食ってる。
レンはちょっと感動した。
「大学の食堂だ……」
「そこ感動するとこ!?」
モズ笑う。
レンは定食らしきものを受け取った。
めちゃくちゃうまそう。
「いただきます……」
一口食べる。
「うっっっま!?」
「だろ!?」
肉が柔らかい。
スープも濃厚。
パンふわふわ。
レン、感動。
「大学ってすげぇ……」
「ワン公かわいいな」
「やめろ」
食後。
二人はレジへ向かった。
「会計、銀貨三枚ねー」
レジのお姉さんが言う。
レン、固まる。
「……え?」
銀貨?
モズも「あっ」って顔をした。
「そういやワン公、人界から来たんだった」
終わった。
レンは焦りながら財布を開いた。
札束ぎっしり。
二十万円。
レジのお姉さんへ、一万円札を差し出す。
「これで……」
お姉さん、固まる。
「…………え?」
周囲も静かになる。
レン:
「?」
お姉さんの手が震え始めた。
「こ、これ……まさか……」
「えっ」
「人界紙幣……!?」
ざわっ。
食堂全体が揺れた。
「は!?」
「本物か!?」
「初めて見たぞ!?」
「おい嘘だろ!?」
レン:
(なんで!?)
モズ:
「え、ワン公それ持ってきたの!?」
「えっ!?だめだった!?」
次の瞬間。
厨房の奥から、ドタドタと音。
「どきな!!」
現れたのは、小柄なおばあちゃんだった。
白髪。
割烹着。
杖。
食堂長らしい。
おばあちゃんは一万円札を見るなり、目を見開いた。
「ひぇぇぇぇ……!!」
レン:
「えっ」
「人界の“純紙幣”じゃないかい!!」
食堂騒然。
「純紙幣!?」
「マジか!?」
「本物初めて見た!!」
レン:
(純紙幣???)
おばあちゃんは震える声で言った。
「こりゃあ王都オークション級だよ……!」
「えっ」
「しかも保存状態が完璧……!」
「えっ」
モズ、小声。
「ワン公、お前……大富豪だったのか……?」
「違う」
普通のバイト代。
だが周囲は完全にざわついていた。
おばあちゃんは慌てて頭を下げる。
「と、とても釣りなんか払えないよ!!」
「ええ!?」
「銀貨三枚の飯にこんなもん出されたら店が潰れる!!」
レン:
「ええぇ!?」
価値観が分からん。
その時。
レンのポケットから、カラン、と硬貨が落ちた。
床を転がる。
銀色に光る丸い硬貨。
全員の視線が集まる。
沈黙。
おばあちゃんが、震える手でそれを拾い上げた。
「…………」
レン:
「え?」
おばあちゃんの目が見開かれる。
「こ……これは……」
周囲もざわつき始める。
「どうしたんだ?」
「何見つけた?」
「まさか……」
おばあちゃんが、かすれた声で呟いた。
「白金円貨……」
食堂、静止。
次の瞬間。
「はぁぁぁぁぁ!?」
大爆発みたいに騒ぎになった。
「白金円貨だと!?」
「嘘だろ!?実在したのか!?」
「初めて見た!!」
「しかも保存状態ヤバくない!?」
レン:
(100円玉だが!?)
モズも目を剥いていた。
「ワン公!!お前それポケットに入れて持ち歩いてんの!?」
「えっ!?普通だろ!?」
「普通じゃねえよ!!」
おばあちゃんは半泣きで100円玉を掲げている。
「人界の高純度金属貨幣……!!」
「えぇ……」
「しかも加工技術が異常だよ!!」
学生たちも騒然。
「この細工、現代魔導技術じゃ不可能だぞ……」
「文字が刻まれてる……!」
「神代文明レベルでは……?」
レン:
(自販機でジュース買えるやつなんだが……)
おばあちゃんは勢いよく振り返った。
「今日の食堂代、全部この白金円貨から出すよ!!!」
「えっ」
「全員タダだぁぁぁ!!!」
ドォォォン!!!
食堂、大歓声。
「うおおおおおお!!!」
「神狼様ー!!!」
「大神レン万歳!!!」
「ワン公ありがとー!!!」
レン:
「いや待っ――」
学生たちが拍手し始める。
誰かが肩を叩く。
「気前いいな兄ちゃん!」
「いや違――」
「さすが特別入学生!」
「違――」
モズ、口開けて固まる。
そして次の瞬間。
「ワン公!!!!!お前やっぱヤバいやつじゃん!!!」
「だから違うってえぇ…!!!!」
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