くっつき虫の真相…?
放課後。
大学練習場。
ずらりと並ぶ的。
その前で、レンは腕を伸ばしたまま固まっていた。
モズは腕を組みながら真剣な顔をしている。
「違う」
「何がだよ」
「全部」
「全部!?」
モズはレンの横に立つ。
そして。
「腕は90度」
レンの腕を少し上げる。
「手は真っ直ぐ的」
ぐいっと向きを調整。
「肩の力抜け」
ぽんぽんと肩を叩く。
「体は時計で言うと10時方向」
「ん?」
「足は肩幅より少し広め」
「おう」
「膝は固めるな」
「おう」
「顎引いて」
「おう」
「目線は的の中心」
「おう」
「呼吸は整えろ」
「おう」
「左肩は下げろ」
「おう」
「腰は少しだけ捻れ」
「おう」
レンは数秒黙った。
「……」
モズは満足そうに頷く。
「よし」
レンは真顔で言った。
「細かすぎて逆にわからん」
「なんでだよ!?」
モズが叫ぶ。
「めちゃくちゃ分かりやすいだろ!」
「時計10時の方向で既に迷子だわ」
「そこから!?」
ノンはレンの背中にぴとっとくっつきながら笑う。
「モズくん先生みたぁい」
モズは少し得意げだった。
「だろ?」
「狙う系なら任せろって」
レンは渋い顔で構え直す。
「腕90度……」
「手は的……」
「体は10時……」
「足は……」
「お、いいぞ」
「待て」
レンが振り返る。
「俺今何時向いてる?」
モズは即答した。
「8時半」
「時計やめろ!!」
ノンが吹き出した。
「ふふっ」
そのままレンの背中にぴったり張り付く。
「ノン」
「ん〜?」
「近い」
「魔力渡してるもん」
「それは分かる」
「じゃあいいじゃん〜」
良くなかった。
暑い。普通に暑い。
ノンの手から淡い魔力が流れ込む。
レンの瞳が桃色へ変わる。
「よし」
レンは的を見据える。
「いくぞ」
「おう!」
「頑張れぇ〜」
バシュッ!!
光線発射。
一直線。
レンは思わず声を上げた。
「おっ!?」
珍しく真っ直ぐ飛んだ。
光線はそのまま的へ向かい、
ドン!!
中心から少し外れた場所へ命中する。
「当たったぁ〜!」
ノンが飛び跳ねた。
レンも目を見開く。
「当たった!」
モズはドヤ顔だった。
「誰の指導だと思ってる」
「調子乗んな」
「褒めろよ!」
「調子乗るから嫌だ」
「ひでぇ!」
そんな三人の様子を、少し離れた場所から見つめる影があった。
ネフィラだった。
「あら?」
本を抱えながら練習場を歩いていた途中、見慣れた三人を発見したのだ。
少し嬉しくなり、声をかけようと駆け寄る。
そしてピタッととまる。
気付く。
モズ。
真剣な顔。
レンの腕を持っている。
「違う違う!」
「手首が少し右!」
「こうか?」
「違う!」
「じゃあどうだよ!」
「だから右!」
「右ってどっちだよ!」
「お前の右だよ!!」
真剣だった。
そして。
レン。
真剣な表情。
的を見据えている。
さらに。
その背中。
ぴったり張り付いているノン。
離れない。
とにかく離れない。
ネフィラは立ち止まった。
(練習中にも関わらず……)
ぴとっ。
(全く離れませんわね……)
ぴとっ。
(そんなにくっつく必要ありますの……?)
ネフィラの脳内が回転し始める。
そして閃いた。
(はっ!!)
目を見開く。
(ノンさん……)
(もしかして……)
(レンさんのことがお好きなんですの!?)
脳内ネフィラ。
ドーーーン!!!
(だからモズさんに嫉妬を!?)
(レンさんを奪われたくないんですの!?)
(そういうことでしたのねぇぇぇぇぇ!?)
顔が一気に赤くなる。
(恋愛小説でよく見る青春ですわぁぁぁぁ!!!)
その時だった。
「あ、ネフィラちゃぁん!」
ノンが最初に気付いた。
笑顔で手を振る。
当然。
レンから手が離れる。
レン。
「よし!」
魔法発動。
しない。
シーン。
「……あれ?」
もう一回。
「えい」
出ない。
「あ」
ノン。
「あ、ごめんごめん〜」
レンが振り返る。
「おい」
ノン。
「えへ」
「離れんなよ!!」
ネフィラ。
「!!!!!!」
脳内爆発。
(きゃああああああああ!!!)
(そっちでしたの!?!?!?)
(レンさんの独占欲でしたの!?)
(ノンさんに離れて欲しくないんですの!?)
(積極的ですわぁぁぁぁ!!!)
ノン。
「ごめんってばぁ〜」
再び。
ぴとっ。
レンの背中に手を当てる。
魔力供給再開。
ネフィラは両手で口を押さえた。
(戻りましたわぁぁぁぁ!!!)
(離れた瞬間怒られたから戻りましたわぁぁぁ!!!)
(情報量が多いですわぁぁぁ!!!)
完全に一人で大混乱だった。
レンが声を掛ける。
「……何してんだ?」
モズも首を傾げる。
「顔赤くね?」
ネフィラはビクッと肩を震わせた。
「なっ!?」
「何でもありませんわ!!」
レン。
「絶対なんか考えてた」
モズ。
「顔に書いてある」
ネフィラ。
「書いてませんわ!!!」
ノンだけが平和だった。
「ネフィラちゃんもやるぅ?」
ネフィラ。
「やりませんわ!!!」
即答だった。
レンは思った。
(まともな奴だと思ったのに……)
ネフィラ。
「失礼ですわ!!!」
「また心読まれた!?」
その日。
一番疲れたのは。
間違いなくネフィラだった。
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