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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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くっつき虫

猫の的二号事件から数日後。


放課後。


レンとモズの部屋。


窓の外では夕陽が差し込み、部屋の床をオレンジ色に染めていた。


机の上には教科書。


開かれたノート。


そして――


修理されたばかりの壁。


レンは視線を逸らした。


見てはいけない。


思い出してはいけない。


猫の的二号事件を。


そんなレンの前で、モズは腕を組みながら何度も頷いていた。


「よし」


うんうん。


「大体分かってきたな」


やたら偉そうだった。


レンは首を傾げる。


「何が?」


モズは得意げに顎を上げた。


「魔力調整」


「あー」


確かに。


以前のような大惨事は起きなくなっていた。


部屋を吹き飛ばすこともない。


壁に穴を開けることもない。


家具を破壊することもない。


……多分。


的を狙えば。


一応近くには飛ぶ。


以前のように真後ろへ飛んでいくことも減った。


成長している。


間違いなく。


レン自身もそれは感じていた。


「ならさ」


モズがニヒッと笑う。


嫌な予感がした。


嫌な予感しかしなかった。


「大学の練習場行こうぜ!」


案の定だった。


「実践実践!」


「は?」


レンは即座に聞き返す。


「いやいやいや」


「無理だろ」


モズは不思議そうに首を傾げた。


「なんで?」


「なんでって……」


レンは思わず声を潜める。


ドアの方をちらりと見る。


誰もいないことを確認してから言った。


「俺、人間だぞ?」


モズは数秒考える。


そして。


「あー」


納得したように頷いた。


レンも頷く。


そうだろう。


普通はそうなる。


だが次の瞬間。


「でも傍から見たら魔法使えてるじゃん」


「うっ」


痛いところを突かれた。


反論できない。


確かに今のレンは魔法を撃てる。


正確にはノンの魔力を借りているだけなのだが。


外から見れば普通に魔法使いである。


モズはさらに続けた。


「それにさ」


部屋をぐるりと見渡す。


視線の先には修復跡。


焦げ跡。


若干歪んだ棚。


レンは再び目を逸らした。


「部屋で練習する方が危険だろ」


「うっ」


また刺さった。


思い出される。


吹き飛んだドア。


暴走した光線。


壁にめり込んだ猫の的。


そして。


デコ入れ歯。


レンは静かに頭を下げた。


「……すみませんでした」


モズは満足そうに頷く。


「よろしい」


偉そうだった。


やたら偉そうだった。


そして胸を張る。


「魔力はノンに任せよう」


「任されたぁ〜」


ノンがふわっと笑う。


モズはさらに続ける。


「狙い方は俺に任せろ!」


左手を腰へ。


右手の親指で自分を指差す。


歯を見せて笑う。


完全にドヤ顔だった。


レンは思った。


(なんかドヤってる小型犬みてぇだな)



そして。


大学練習場。


広かった。


とにかく広い。


レンは思わず足を止める。


「おぉ……」


声が漏れた。


天井は高く。


広大な敷地が奥まで続いている。


一直線に並ぶ射線。


その先には無数の的。


静止しているもの。


左右へ動くもの。


上下に浮いているもの。


さらには突然消えたり現れたりするものまであった。


学生たちが真剣な表情で魔法を放っている。


炎。


氷。


雷。


風。


様々な属性が飛び交う。


魔法大学らしい光景だった。


「すげぇ」


レンは素直に感動した。


モズは得意げだ。


「だろ?」


「お前の施設じゃねぇだろ」


「俺の庭みたいなもんだ」


「絶対違う」


即否定。


モズは笑った。



空いている場所へ向かう。


初心者向けの射線。


比較的動きの少ない的。


モズが腕を組む。


「よし」


「まずは基本から」


レンが構える。


その瞬間だった。


ぴとっ。


何かがくっついた。


「近くね?」


ノンだった。


レンの隣にぴったり張り付いている。


肩が触れそうな距離。


ノンは当然のように言った。


「魔力渡せないもん」


仕方ない。


理屈は分かる。


だが近い。


妙に近い。


ノンはそっとレンの腕へ触れる。


淡い光。


魔力が流れ込む感覚。


身体の奥がじんわり温かくなる。


そして。


レンの瞳が桃色へ変わった。


モズが目を輝かせる。


「よし!」


さらに近付く。


レンの腕を掴む。


「角度はこう!」


ぐいっ。


「顎引いて!」


ぐいっ。


「肩の力抜け!」


ぐいっ。


レン。


「近い近い近い!!」


結果。


レン。


ノン。


モズ。


三人がほぼ密着状態になった。



その頃。


練習場入口。


リゼリア教授が通りかかった。


銀色の長い髪が揺れる。


ふと視線を向ける。


そして足を止めた。


「……」


見慣れた三人。


大神レン。


天音モズ。


白羽ノン。


しかし。


距離感がおかしい。


異常に近い。


レンに張り付くノン。


反対側から腕を掴むモズ。


三人とも真剣な顔だ。


だが外から見れば。


完全にくっついている。


リゼリア教授は無言だった。


眼鏡を指先で押し上げる。


位置を整える。


そして少し目を細めた。


「暑苦しいな」


静かな感想だった。


さらに数秒眺める。


そして。


「くっつき虫か」



当然。


三人には聞こえていない。



「よし!」


モズが叫ぶ。


「今だワン公!」


レン。


「おう!」


バシュッ!!


光線が放たれる。


一直線。


今までよりも遥かに綺麗な軌道。


的へ向かって飛んでいく。


三人の視線が追う。


「おおっ!?」


そして。


ドンッ!!


的の中心付近へ命中した。


「当たったぁ〜!」


ノンが飛び跳ねる。


レンも目を丸くした。


「当たった!」


初めてではない。


だが。


こんなに綺麗に飛んだのは初めてだった。


少しだけ嬉しい。


モズはニヤリと笑う。


「誰の指導だと思ってる」


「調子乗んな」


「褒めろよ!」


「調子乗るから嫌だ」


「ひでぇ!」



少し離れた場所。


リゼリア教授はその様子を見ていた。


「……」


以前より安定している。


以前より成長している。


何より。


レンが楽しそうだった。


入学当初。


不安そうだった少年が。


今は友人たちと笑っている。


教授は小さく息を吐く。


「まあ」


ほんの僅かに。


本当に僅かだけ。


口元が緩んだ。


「悪くない」


そう呟く。


そして去り際。


もう一度だけ振り返った。


相変わらず密集している三人。


「やはり暑苦しいな」



その後。


レンは的に五回命中させた。


外した回数は二十三回だった。


モズは最後まで自分の指導力を自慢し続けた。


ノンは最後までくっついていた。


そして遠くから見れば。


三人は本当に――


仲の良いくっつき虫だった。

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