2号っていうらしい
放課後。
特別入学生専用区画の寮。
レンとモズの部屋。
「よし!」
ノンが木の板を高々と掲げた。
「完成〜!」
嫌な予感しかしない。
レンは目を細めた。
「見て見てぇ〜!」
ノンは嬉しそうに木の板を差し出す。
そこには。
丸い顔。
黒い丸二つ。
への字の口。
そして頭の上にはぴょこんと飛び出した耳。
なんとも言えない表情の猫らしき何かが描かれていた。
「猫だよぉ〜」
ノンは得意げだった。
レンは数秒黙る。
「……」
「どう?」
「呪いの偶像か?」
「ひどい」
ノンが頬を膨らませた。
モズも横から覗き込む。
「おっ」
「前のうさぎより進化してるじゃん」
「でしょぉ〜!」
ノンは嬉しそうに猫の板を抱きしめる。
レンは首を傾げた。
「いや退化してね?」
「してないもん」
ノンは胸を張る。
「この子は猫の的2号!」
「1号どこいった」
「この前爆散した」
レン。
「あー……そうだった」
犠牲者だった。
ドア破壊事件の。
モズは笑いながら的を入口のドアに吊るした。
「よし」
「今日の目標!」
レン。
「うん」
モズ。
「部屋を壊さない」
「難易度高くね?」
「高いな」
即答だった。
⸻
部屋の端。
レンが立つ。
ノンが隣に来た。
「じゃあいくよぉ〜」
レンは頷く。
ノンがそっと手を重ねた。
淡い魔力が流れ込む。
レンの瞳がゆっくりと桃色へ変化した。
ノンがぽつりと呟く。
「やっぱり綺麗」
「今はそれどころじゃねぇ」
レンは苦笑する。
以前よりは慣れてきた。
力加減も少しずつ分かってきた。
問題は。
方向だった。
レンは猫の的2号を見据える。
「よし……」
深呼吸。
「えいやっ!」
「まだその掛け声なんだ」
モズがツッコむ。
次の瞬間。
バシュッ!!
光線が飛び出した。
レン。
「よし!」
しかし。
その光線は猫の的2号の横を華麗に通過した。
「よくねぇ!」
モズが叫ぶ。
バチィン!!
壁に激突。
さらに。
バチィン!!
天井へ。
バチィン!!
机へ。
バチィン!!
窓枠へ。
「うわぁぁ!?」
ノンが悲鳴を上げる。
「なんで跳ね返るんだよ!?」
レンも叫ぶ。
「俺が聞きたい!!」
光線は意思を持ったかのように部屋中を飛び回った。
モズ。
「危なっ!」
頭を下げる。
光線が髪の上を通過した。
「ワン公!!」
「すまん!!」
レンも避ける。
ノンも避ける。
部屋は大混乱だった。
そして。
光線が最後の跳ね返りを見せる。
キラン。
嫌な予感。
モズだけが気付いた。
視線の先。
机の上。
そこには。
店のおばあちゃんから貰った。
キラキラデコレーション入れ歯。
「待て」
モズの顔が青ざめる。
「待て待て待て待て待て」
一直線。
光線が向かう。
バチィィィン!!!
光が弾けた。
キラキラのシールが舞う。
そして。
「俺の入れ歯ーーーーーーー!!!!!!」
モズ絶叫。
レン。
「かなり語弊あるーーー!!!!!!」
部屋中に響き渡った。
⸻
数秒後。
沈黙。
モズは震える足取りで机へ向かった。
「そんな……」
「ばあちゃんの新作が……」
レンも青ざめる。
「うっ……」
「その……」
珍しく言葉に詰まる。
完全に自分のせいだ。
「ごめん」
素直に謝った。
ノンも心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫かなぁ……」
モズは震える手で入れ歯を拾い上げた。
そして。
固まる。
「……あれ?」
レン。
「ん?」
ノン。
「え?」
モズは入れ歯をひっくり返す。
表。
裏。
横。
上。
下。
何度も確認する。
傷一つない。
完全無傷。
「……」
「……」
「……」
三人沈黙。
⸻
モズ。
「無事だ」
レン。
「無事なの!?」
ノン。
「すごぉい!」
モズ。
「無事だ」
もう一回確認する。
やっぱり無事。
レン。
「いやなんで!?」
ノン。
「入れ歯さん強い!」
「さん付けすんな!」
レン即ツッコミ。
⸻
モズは恐る恐る机へ戻した。
キラキラ。
ピカピカ。
何事もなかったかのように輝いている。
レン。
「強ぇな……」
ノン。
「強いねぇ〜」
モズ。
「伝説級装備か?」
⸻
三人の脳裏に。
なぜか。
あのおばあちゃんの顔が浮かんだ。
『えっへっへ』
満面の笑み。
めちゃくちゃドヤ顔。
してる気がした。
しばらくして。
モズは大事そうに入れ歯を抱えた。
「やっぱり俺の入れ歯は最強だな」
レン。
「だから語弊があるんだって!!」
ノンは堪えきれず吹き出した。
「ふふっ」
部屋に笑い声が響く。
ちなみに。
猫の的2号には。
結局一発も当たらなかった。
猫の的2号は少し誇らしげに扉に吊るされていた。
「なんでお前だけ無傷なんだよ……」
レンの呟きに。
不気味な微笑みの猫の的2号は
もちろん答えなかった。
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