閑話 もしも話ができるなら(前編)
昼休み。
いつものように学食へ集まった四人。
ノンは相変わらず大量の料理を前に幸せそうな顔をしている。
モズはそんな様子を見ながら、どこからか仕入れてきた噂話を始めた。
「そういや知ってるか?」
「何を?」
レンが聞き返す。
モズはニヒッと笑った。
「どこにでも繋がる公衆電話」
レン。
「なんだそれ」
ネフィラが反応する。
「ああ」
「校内を移動するという噂の電話ですわね」
「有名だよぉ〜」
ノンも頷く。
レンだけ置いてけぼりだった。
「いやいや」
「意味分かんねぇだろ」
モズは肩をすくめる。
「俺もそう思う」
「でもさ」
少しだけ真面目な顔になる。
「もし本当にあったら」
「話してみたい相手いる?」
レンは一瞬だけ固まった。
脳裏に浮かぶ。
狭いアパート。
朝早くから働いていた母親。
受験に落ちた日。
無理に笑っていた顔。
大学に来てから。
まともに連絡を取れていない。
スマホは圏外。
元気だろうか。
心配していないだろうか。
「……いる」
自然と口から出ていた。
少しだけ静かな声。
モズも。
ノンも。
ネフィラも。
気付く。
冗談じゃない。
本気の声だ。
モズはニッと笑った。
「じゃあ探そうぜ」
レン。
「は?」
ノン。
「探すぅ〜!」
ネフィラ。
「協力いたしますわ」
話が早い。
「いや待て」
「本当にあるかも分からねぇんだぞ?」
モズ。
「だから探すんだろ?」
ノン。
「見つかるかもよぉ〜」
ネフィラ。
「目撃情報もありますし」
電話探索について作戦会議を始める三人。
電話を必要としている張本人より楽しそうだった。
レンはそんな三人を見た。
そして少し笑う。
「……変な奴ら」
こうして。
四人による公衆電話捜索隊が結成された。
⸻
数日後。
講義の空きコマ。
公衆電話探索が開始された。
レンはノンと行動していた。
「……あれ?」
しかし途中からノンの姿が見当たらない。
「ノーン!」
レンの声が響く。
返事がない。
嫌な予感がする。
電話探索から。
なぜかノン探索に切り替わった。
しばらくして。
少し離れた場所。
掃除用具入れ。
そこから見覚えのある足だけが見えていた。
レン。
「何してんだ」
ノン。
「電話探してるぅ」
上半身だけ中へ突っ込んでいる。
「そこにあるわけねぇだろ!?」
ノンがひょこっと顔を出した。
淡いピンクの髪はところどころ埃を被り、灰色になっている。
「でも隠れてるかもしれないよぉ?」
「公衆電話が?」
「うん〜」
「なんで?」
「恥ずかしがり屋さんかも」
レン。
「会話が成立しねぇ」
呆れながらも、ふっと笑った。
⸻
翌日。
ノンは今度。
寮の机の引き出しを開けていた。
ガラッ。
ガラッ。
ガラッ。
次々開ける。
レン。
「何してんだ」
ノン。
「電話探してるぅ」
「そこも!?」
「だって入るかもしれないじゃん」
レン。
「猫型ロボットか」
ノン。
「?」
きょとん。
「なんて?」
レン。
「お気になさらず」
伝わるわけがなかった。
⸻
また別日。
今度はモズが先陣を切って探索。
「こっちだろ!」
探す場所ごとに自信満々だった。
レンを連れて行く。
向かった先。
巨大な花壇。
モズが真剣な顔で花をかき分け始めた。
レン。
「何してんの」
「電話探してる」
「花壇の中に?」
「擬態してるかもしれん」
「電話が?」
「電話が」
「なんで?」
「知らん」
「知らんのかよ!」
完全に根拠のない自信だった。
レンに首根っこを掴まれながら巨大な花壇をあとにするモズ。
「ちぇーー、ありそうだったのに」
頭の後ろで手を組み、不貞腐れながら歩くモズ。
そんなモズを横目に、
「はいはい」
と呆れ気味に答えるレン。
その時。
モズが突然立ち止まった。
……池の前だった。
レン。
嫌な予感。
モズ。
真剣な顔。
腕を組む。
そして。
「ありそうじゃね?」
レン。
「ねぇよ」
即答。
それでもモズは池を指差す。
「でもロマンあるじゃん」
「ロマンで探すな」
数秒。
池を見つめるモズ。
そして。
「よし」
服を脱ぎ始めた。
レン。
「待て待て待て待て」
モズ。
「ん?」
「何してんの」
「潜る」
「なんで!?」
「電話探す」
「池の中にあるわけねぇだろ!!」
「仮にあったとしてもだ!」
「水中でどうやって電話すんだよ!?」
「あばばばばばってなるだけだろ!!」
だがモズは真顔だった。
「でももしあったら熱くね?」
「熱くねぇよ!」
「むしろ水寒い!!」
レンは慌てて腕を掴む。
モズ。
「離せワン公!」
ジタバタジタバタ。
レン。
「離さねぇよ!」
引っ張り合いになる二人。
完全にアホだった。
その様子を少し後ろから見ていたネフィラ。
「ひぇぇぇ……」
顔真っ赤。
レン。
「?」
ネフィラ。
ビクゥッ。
慌てて本で顔を隠す。
「な、何でもありませんわ!」
何でもなくなかった。
モズが急に服を脱ぎ始めたせいで。
また脳内が大変なことになっていた。
ノンだけは平和だった。
「モズくん風邪ひくよぉ〜」
その一言で。
モズはようやく止まった。
レンは深いため息を吐く。
「助かった……」
ネフィラは本で顔を隠したまま思う。
(この方達、本当に大丈夫なんですの……?)
レンとモズはまだ言い合っている。
ノンはのんびり眺めている。
騒がしい。
本当に騒がしい。
(……ですが)
少しだけ口元が緩む。
(退屈はしませんわね)
⸻
ネフィラはそんな二人を見ながらため息をつく。
「お二人とも」
「ん?」
「そんな場所にある訳ありませんわ」
レン。
「ほら」
モズ。
「ですよねー」
ネフィラは本を閉じた。
「図書館裏の旧校舎付近が有力です」
「なんで分かるんだよ」
「目撃情報ですわ」
レン。
「根拠あるの助かる……」
思わず呟く。
ネフィラは胸を張った。
「当然ですわ」
レンは思った。
(初めてまともな人間が出てきた)
レンとノン
「失礼な!」
レン。
「心読んだ?!」




