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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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白羽家の血

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「そのワン公、魔力ゼロにつき。」

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「私のおじいちゃん、人間だから」


ノンのその一言に。


レンとモズは、完全に固まった。


「…………」


「…………」


しばらく沈黙。


先に口を開いたのは、モズだった。


「……え?」


「うん〜」


ノンはいつもの調子で、こてんと首を傾げる。


「おじいちゃん、人間だったんだぁ」


レンは思わず身を乗り出した。


「いや、ちょっと待て」


「それって……」


「ノンも、人間の血が混じってるってことか?」


「そうだねぇ」


あまりにも軽い。


レンとモズは顔を見合わせる。


「……お前、それ結構すごい話じゃねぇの?」


モズが言うと、ノンは少し考えてから笑った。


「ん〜、白羽家の中では有名な話だよぉ?」


内緒だけどねぇ、

と右手の人差し指を口の前で立ててイタズラっぽく笑う。


白羽家。


魔法界でも名の知れた名家。


天使の血を引くという伝説を持ち、代々圧倒的な魔力を誇る家系。


その一族の中でも、ノンは特に強く魔力の才能が発現しているらしい。


「普通はねぇ」


ノンは自分の手のひらを見つめながら言う。


「魔力を他の人に流すのって、すごく難しいんだって」


「そりゃそうだろうな……」


レンは入学式の日を思い出す。


ほんの少し流された魔力が、自分の中で膨れ上がり、大講堂を大騒ぎにした。


「でも私は、なんとなくできちゃったんだぁ」


「なんとなくで済ませるなよ……」


レンが呟く。


ノンはふわっと笑った。


魔力のない自分。


ノンの魔力。


あの日、偶然重なったものが、今になって少しずつ意味を持ち始めている。


その時。


モズが急に身を乗り出した。


「なぁ」


「ん?」


「俺もできんのかな」


レンが目を瞬かせる。


「何が?」


「ワン公に魔力貸すやつ」


「え」


モズは腕を組んで、真剣な顔をする。


「だってさ、一緒にいる時間で言ったら俺が一番多いだろ?」


「同室だし」


「授業もだいたい一緒だし」


「俺が魔力貸せたら効率良くね?」


レンは少し戸惑う。


「いや、でも危ないんじゃ……」


「ちょっとだけ!」


モズはニヒッと笑う。


「ノンがいるし、何かあったら止めてもらえばいいだろ」


「軽いなぁ」


ノンは少しだけ真面目な顔で二人を見る。


「ん〜……本当はあんまりおすすめしないけど」


「ほんの少しなら、見てるよぉ」


モズはレンの前に座る。


「んじゃ、いくぞ」


「待て待て、心の準備が」


「大丈夫大丈夫」


「その大丈夫が一番怖いんだよ」


モズがレンの手首に触れる。


いつもなら騒がしい部屋が、少しだけ静かになった。


「……流すぞ」


「ああ」


モズの手に、橙色の魔力が淡く宿る。


レンは息を止めた。


ノンもじっと見ている。


数秒。


何も起きない。


「…………」


「…………」


さらに数秒。


何も起きない。


レンの瞳は黒いまま。


魔力が流れ込む感覚もない。


「……あれ?」


モズが眉をひそめる。


もう一度試す。


けれど。


何も起きない。


「……なんでだよ」


モズの声が、少し悔しそうに揺れた。


ノンは静かに首を傾げる。


「弾かれてるのかもねぇ」


「弾かれてる?」


レンが聞き返す。


「うん。レンくんの身体が、モズくんの魔力を受け取ってない感じ」


「俺、拒否してるつもりないけど……」


「体がそうしてるのかも」


モズは自分の手を見つめる。


いつもの軽い顔じゃない。


本気で悔しそうだった。


「……そっか」


短く呟く。


そして、すぐ顔を上げた。


「じゃあ、できるようにする」


レンが驚く。


「え?」


「俺もいつか、ワン公に魔力貸せるようになる」


モズはニヒッと笑う。


でも、その目は真剣だった。


「お前ばっか頑張らせるの、なんかムカつくしな」


レンは一瞬言葉に詰まった。


それから、少しだけ笑う。


「……なんだそれ」


「俺なりの友情」


「雑だな」


「分かりやすいだろ?」


その横で、ノンがふわっと笑った。


「ねぇ」


二人がノンを見る。


「ネフィラちゃんに相談してみない?」


「ネフィラに?」


レンが首を傾げる。


ノンは頷く。


「ネフィラちゃん、本がすごく好きなんだぁ」


「恋愛小説だけじゃなくてぇ、魔法理論とか古い文献とか、いろんな本読んでるよぉ」


モズが腕を組む。


「あー、確かに知識ありそうだな」


「でも……」


レンは少しだけ表情を曇らせる。


ネフィラ。


最近仲良くなり始めたばかりの、水色の髪のお嬢様。


悪い子じゃない。


それは分かる。


でも。


「人間ってことまでは、まだ言えない」


部屋が少し静かになる。


レンは言葉を選ぶように続けた。


「疑ってるわけじゃない」


「でも、まだ知り合って日が浅いし」


「ちゃんと……」


少し間を置く。


「心から信じられるって思えてから話したい」


モズは静かに頷いた。


「それでいいんじゃね?」


ノンも優しく目を細める。


「うん」


「ネフィラちゃん、きっと分かってくれると思うけど」


「レンくんが決めていいよぉ」


レンは二人を見た。


今までなら、一人で決めていた。


一人で隠して。


一人で抱えて。


一人で焦っていた。


でも今は違う。


相談できる相手がいる。


待ってくれる相手がいる。


それだけで、少し息がしやすかった。


「……ありがとな」


レンが小さく言う。


モズはニヒッと笑う。


「だからもっと頼れって言ったろ?」


ノンも隣で笑う。


「親友だからねぇ」


その言葉に。


レンの胸の奥で、小さな灯りが揺れた気がした。

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