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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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壊れたドアと向こう側



「……で」


低い声が響く。


レンとノンは。


正座していた。


場所はレンとモズの部屋。


夕方。


窓から差し込むオレンジ色の光が床を照らしている。


だが。


空気はまったく温かくなかった。


むしろ冷えている。


原因は目の前。


腕を組み。


仁王立ちするモズだった。


「…………」


無言。


怖い。


いつも騒がしいやつが静かな時ほど怖いものはない。


レンはそう学び始めていた。


モズは額に手を当てる。


そして深いため息。


「俺さ」


「はい」


「うん」


レンとノン。


返事だけは良い。


なぜかこういう時だけ素直だった。


モズはさらに深いため息をつく。


「帰ってきたら部屋のドア吹っ飛んでる経験すると思わなかったんだけど」


「……」


「……」


レンはそっと視線を逸らした。


ノンはにこにこしている。


モズが即座に指を差す。


「いや笑うとこじゃねぇからな?」


「えへへ〜」


「褒めてねぇよ!?」


ノンは楽しそうだった。


全然反省している顔ではない。


レンは隣を見た。


(強ぇな……)


なぜそんなに堂々としていられるのか。


少し羨ましい。


モズは再びため息。


本日何回目か分からない。


「マジで何やってんだよ……」


その横では。


問題のドアが修理されていた。


正確には。


修理されている途中だった。


カチカチ。


トントン。


カンカン。


レンの詠唱魔法によって動き出した工具たち。


金づち。


釘。


ドライバー。


ノコギリ。


それぞれが意思を持つように動き回り、壊れたドアを直している。


……はずだった。


カンッ。


突然。


金づちがドライバーへぶつかった。


ピタッ。


二つの工具が止まる。


「……?」


レンが首を傾げた。


嫌な予感がする。


非常に嫌な予感だ。


すると。


金づちがゆっくり振り返った。


ドライバーも向き直る。


空気が変わる。


レン。


「……」


「なんか見覚えあるな」


モズも嫌そうな顔をした。


「俺もある」


二人の脳裏に蘇る。


以前。


掃除中に発生した事件。


箒。


雑巾。


そして壮絶なメンチ切り合戦。


嫌な記憶だった。


次の瞬間。


カンッ!!


ガキィン!!


工具同士。


喧嘩開始。


「またかよ!!」


レンが叫ぶ。


金づちは振り下ろされ。


ドライバーは突撃する。


ノコギリまで参戦した。


完全に混戦だった。


モズは頭を抱える。


「あー……」


察した顔。


完全に察した顔。


「おーい」


手を振る。


「頼むから真面目にやってくれー」


しかし。


工具たちは聞いていない。


むしろヒートアップした。


ガンッ!!


ガリッ!!


バキッ!!


ドアへ追加ダメージ。


「いや壊してんじゃねぇか!!」


レンが立ち上がる。


「修理じゃなくて破壊になってる!」


モズは両手で顔を覆った。


「勘弁してくれ……」


本気で疲れた声だった。


「直す物増やしてどうすんだよ……」


その時。


ふわっ。


ノンが立ち上がった。


「ん〜」


工具たちの前へ歩く。


しゃがむ。


そして。


両手を合わせた。


「ねぇ」


優しい声。


工具たちが止まる。


ノンは少し首を傾げた。


下から覗き込むように。


ふわっと笑う。


「お仕事してぇ?」


一拍。


「お願い」


「…………」


工具たち。


完全停止。


空気が固まる。


そして。


次の瞬間だった。


ドッキーーーーン。


……した気がした。


工具なのに。


顔も無いのに。


明らかに照れていた。


レン。


「……」


モズ。


「……」


二人とも無言。


工具たちは。


急に整列した。


金づち。


シャキッ。


ドライバー。


シャキッ。


ノコギリ。


シャキッ。


完全に軍隊だった。


そして。


カンカンカンカンカン!!


トントントントントン!!


ギュイィィィン!!


爆速。


ものすごい勢いで修理が始まる。


さっきまで喧嘩していたとは思えない。


完璧な連携だった。


レンは思わず突っ込む。


「女子に弱いな!?」


工具たちは聞いていない。


だが明らかに張り切っている。


モズも苦笑した。


「リゼリア教授の時と全然違ぇ……」


あの時は。


怒られるのが怖くて。


震えながら掃除していた。


今回は違う。


完全に格好つけている。


「工具にも男心あんのかよ……」


レンは呆れた。


ノンは嬉しそうだ。


「頑張れぇ〜」


工具たち。


さらに高速化。


単純だった。


モズは修理されていくドアを見る。


「まぁ……」


腕を組む。


「もし完全に直んなかったら」


「後でネフィラにも手伝ってもらうか」


レンも頷く。


「あー」


納得だった。


ネフィラの補助魔法。


浄化魔法。


細かな修復補助には向いている。


「先生たちにバレたら面倒だしな」


モズは肩をすくめる。


「またリゼリア教授にペナルティ食らったらたまったもんじゃねぇ」


その瞬間。


三人。


沈黙。


思い出す。


あの地獄。


終わらない掃除。


無言の圧力。


逃げ場のない空間。


「……」


「……」


「……」


絶対避けたい。


満場一致だった。


工具たちだけが元気に修理を続けている。


カンカン。


トントン。


その音を聞きながら。


モズはゆっくり表情を戻した。


笑顔が消える。


空気が変わる。


レンは気付いた。


いつものモズじゃない。


「で」


静かな声。


レンとノンを見る。


「本題」


レンの背筋が伸びる。


ノンも笑顔のまま黙った。


モズは腕を組む。


少しだけ目を細める。


「ワン公」


「……ん?」


「お前さ」


間。


ほんの数秒。


なのに妙に長く感じた。


工具の音だけが部屋に響く。


カン。


トン。


カン。


そして。


モズは静かに言った。


「俺に隠してることあるだろ?」


部屋の空気が止まった。


レンの心臓が一度だけ大きく鳴る。


ドクン。


ノンも何も言わない。


窓の外では夕焼けが広がっている。


だが。


その部屋だけは。


静かに張り詰めていた。

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