ワン公、埋もれる
50m走を終えたレンは、
まだ若干脚が震えていた。
「はぁっ……はぁっ……」
モズはそんなレンを見て、
ケラケラ笑っている。
「いやぁ危ねぇ危ねぇ!」
「負けるかと思った!」
「絶対思ってねぇだろ……」
レンは肩で息をしながら、
ジト目を向けた。
完全に棚からぼたもち。
だが結果として、
何とか第一種目は乗り切った。
その時。
「次、立ち幅跳び」
リゼリア教授の声が響く。
レン:
「もう次かよ……」
疲れる暇がない。
測定場所へ移動すると、
そこには既に地面へ刻まれた測定ライン。
そして。
嫌な予感しかしない学生たち。
「《軽量化》!」
「《風圧加速》!!」
ドォン!!
普通に爆音。
学生が、
ほぼ砲弾みたいな勢いで飛んでいく。
「7m12!!」
「8m03!!」
レン:
「立ち幅跳びってなんだっけ」
その横で、
モズは楽しそうだった。
「おっ、飛んでんなぁ」
「感想が軽いんだよ」
レン、
ドン引き。
その時。
「大神レン」
呼ばれる。
来た。
レンは深呼吸した。
(変に誤魔化すより……)
(普通にやるしかねぇ)
覚悟を決める。
スタート位置へ立つと、
周囲の学生たちがザワついた。
完全に期待されてる。
やめてくれ……
レンはしゃがみ込み、
集中する。
高校時代、
体育の授業で何度もやった。
フォームは覚えている。
腕を振り。
タイミングを合わせ。
全力で跳ぶ!!
「っ――!」
ヒュッ!!
綺麗なフォーム。
結構飛んだ。
学生たちも、
少し感心した顔をする。
「おぉ……」
だが問題は……
着地だった。
ドゴォッ!!!!
地面から、
謎の音。
「え?」
レン:
「え?」
たまたま。
着地点。
ピンポイントで、
地盤が緩んでいた。
ズボォォォッ!!!!
砂煙が舞い上がる。
「ゴホッ!!」
「げほっ……!」
その場にいた全員が咳き込んだ。
やがて砂煙が晴れる。
静寂。
レン、
綺麗に下半身埋まってる。
「いっっっっっってぇぇぇぇ!!?」
周囲:
「「「…………」」」
レンは必死に砂を掻き出す。
だが抜け出せない。
「ちょっ、なんで!?」
「俺なんかした!?」
だが。
周囲の反応がおかしい。
学生:
「地面が……」
「学長の結界内の地盤を……?」
「なんの魔力だ……?」
勝手に勘違いが始まる。
レン:
「違ぇよ!!たまたまだろこれ!!」
誰も聞いていない。
リゼリア教授は、
呆れたようにため息をひとつ。
「次、スターリング」
レン:
「そのまま続けんのぉお!?」
モズは、
下半身が埋まったまま慌てているレンを見て吹き出した。
「ワッハハハ!!」
「綺麗に埋まってんなワン公!!」
「笑ってねぇで助けろ!!」
モズはニヒッと笑う。
「しゃーねぇなぁ」
スタート位置へ立ち、
軽く肩を回す。
そして。
高速詠唱。
「《風よ、軽く》」
「《空よ、支えろ》」
「《一歩分だけ貸せ》」
跳ぶ。
ドンッ!!
その瞬間。
空中。
靴裏へ、
橙色の小さな魔法陣がパキッと展開した。
モズは空中を踏む。
「うおっ!?」
レンは穴の中から見上げる。
ポカンと開いた口から、
八重歯が覗いていた。
二段加速。
速い。
綺麗。
そのまま。
空中からモズが叫ぶ。
「おーい!手上げろ!」
「えっ!?」
レンは、
言われるがまま両手を上げた。
次の瞬間。
モズがその腕を、
グイッと掴む。
「うおっ――!?」
勢いそのまま。
空中で。
クルッ!!
レンごと一回転。
砂が舞う。
学生:
「「「おぉぉ!?」」」
そして。
モズはレンを抱え込むように着地した。
ドンッ!!
「モズ・スターリング!!」
「8m87!!」
会場がざわつく。
でも。
学生たちが見ているのは、
記録じゃない。
レン:
「な、何今の!?!?」
モズ、
ニヒッと笑う。
「救出成功〜」
「雑すぎんだろ!!」
しかも。
着地した体勢。
完全に……
お姫様抱っこ。
「…………は?」
レン、
固まる。
周囲:
「「「…………」」」
レン:
「なんでその持ち方なんだよ!?!?」
モズ:
「いや運びやすくね?」
「絶対嘘だろ!!」
モズはケラケラ笑う。
その時だった。
遠くの女子測定会場側から。
「えぇぇぇぇ!?!?」
「10m超えた!?」
「うそでしょ!?」
ザワザワと騒がしい。
レンたちは同時に、
女子サイドへ目を向けた。
すると。
空中。
ノンが。
ふわふわ飛んでいた。
「…………」
立ち幅跳びなのに。
飛んでる。
しかも。
めちゃくちゃ脱力した顔。
「ん〜……」
ゆるーく前進。
そして。
トン。
着地。
女子学生たち騒然。
測定係の先生も固まっている。
「……10m24」
静寂。
ノン:
「やったぁ〜」
女子:
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
レン:
「立ち幅跳びってなんだっけ」
モズ、
腹を抱えて笑う。
「ノンそれ反則ギリギリだろ!!」
ノンは、
こてんと首を傾げた。
「ちゃんと跳んだよぉ?」
「途中飛んでたろ!!」
ノンは気にした様子もなく、
ふわ〜っとこちらへ戻ってくる。
周囲の女子たちは、
まだざわついていた。
「やっぱ特別編入生って……」
「次元違う……」
完全に化け物枠。
でも。
ノン本人だけ。
「?」
って顔してる。
自覚がない。
呆気に取られていたレンは、
ハッと我に返った。
レンはまだ、
モズに抱えられたままだった。
「……そろそろ降ろせ」
「お、忘れてた」
「忘れんな!!」
その様子を遠くから、
静かに眺めるグレイガルド学長。
「青春じゃのぉ」
ボソッと呟き、
優しく目を細める。
その時。
コツ……コツ……
後ろから、
乾いたような足音。
学長の表情が、
スッと氷のように冷たくなる。
無表情。
「……賑やかですね」
低い声が聞こえた。
「来ておったのか……」
グレイガルド学長は、
声のする方向へ身体を向けることもなく答える。
白髪。
黒縁メガネ。
深いクマが刻まれた目。
白衣の裾を風に靡かせながら、
男が現れた。
静かに、
学長の隣へ並ぶ。
「……研究棟から出てくるとは珍しいの」
「クロード研究員長」
クロードと呼ばれたその男。
夜の月詠で、
レンたちが遭遇した男だった。
「……少し、興味深い学生がいまして」
そう言って見つめる、
クロードの視線の先には。
レンの姿。
クロードは、
右手の中指でメガネの位置を整える。
「今日は視察です」
その言葉を。
グレイガルド学長は、
静かに。
無表情のまま聞いていた。
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