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【勘違いコメディ】そのワン公、魔力ゼロにつき。  作者: 小春日和
第2章 ワン公、魔法を知る

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ワン公、埋もれる

50m走を終えたレンは、

まだ若干脚が震えていた。


「はぁっ……はぁっ……」


モズはそんなレンを見て、

ケラケラ笑っている。


「いやぁ危ねぇ危ねぇ!」


「負けるかと思った!」


「絶対思ってねぇだろ……」


レンは肩で息をしながら、

ジト目を向けた。


完全に棚からぼたもち。


だが結果として、

何とか第一種目は乗り切った。


その時。


「次、立ち幅跳び」


リゼリア教授の声が響く。


レン:

「もう次かよ……」


疲れる暇がない。


測定場所へ移動すると、

そこには既に地面へ刻まれた測定ライン。


そして。


嫌な予感しかしない学生たち。


「《軽量化》!」


「《風圧加速》!!」


ドォン!!


普通に爆音。


学生が、

ほぼ砲弾みたいな勢いで飛んでいく。


「7m12!!」


「8m03!!」


レン:

「立ち幅跳びってなんだっけ」


その横で、

モズは楽しそうだった。


「おっ、飛んでんなぁ」


「感想が軽いんだよ」


レン、

ドン引き。


その時。


「大神レン」


呼ばれる。


来た。


レンは深呼吸した。


(変に誤魔化すより……)


(普通にやるしかねぇ)


覚悟を決める。


スタート位置へ立つと、

周囲の学生たちがザワついた。


完全に期待されてる。


やめてくれ……


レンはしゃがみ込み、

集中する。


高校時代、

体育の授業で何度もやった。


フォームは覚えている。


腕を振り。


タイミングを合わせ。


全力で跳ぶ!!


「っ――!」


ヒュッ!!


綺麗なフォーム。


結構飛んだ。


学生たちも、

少し感心した顔をする。


「おぉ……」


だが問題は……


着地だった。


ドゴォッ!!!!


地面から、

謎の音。


「え?」


レン:

「え?」


たまたま。


着地点。


ピンポイントで、

地盤が緩んでいた。


ズボォォォッ!!!!


砂煙が舞い上がる。


「ゴホッ!!」


「げほっ……!」


その場にいた全員が咳き込んだ。


やがて砂煙が晴れる。


静寂。


レン、

綺麗に下半身埋まってる。


「いっっっっっってぇぇぇぇ!!?」


周囲:

「「「…………」」」


レンは必死に砂を掻き出す。


だが抜け出せない。


「ちょっ、なんで!?」


「俺なんかした!?」


だが。


周囲の反応がおかしい。


学生:

「地面が……」


「学長の結界内の地盤を……?」


「なんの魔力だ……?」


勝手に勘違いが始まる。


レン:

「違ぇよ!!たまたまだろこれ!!」


誰も聞いていない。


リゼリア教授は、

呆れたようにため息をひとつ。


「次、スターリング」


レン:

「そのまま続けんのぉお!?」


モズは、

下半身が埋まったまま慌てているレンを見て吹き出した。


「ワッハハハ!!」


「綺麗に埋まってんなワン公!!」


「笑ってねぇで助けろ!!」


モズはニヒッと笑う。


「しゃーねぇなぁ」


スタート位置へ立ち、

軽く肩を回す。


そして。


高速詠唱。


「《風よ、軽く》」


「《空よ、支えろ》」


「《一歩分だけ貸せ》」


跳ぶ。


ドンッ!!


その瞬間。


空中。


靴裏へ、

橙色の小さな魔法陣がパキッと展開した。


モズは空中を踏む。


「うおっ!?」


レンは穴の中から見上げる。


ポカンと開いた口から、

八重歯が覗いていた。


二段加速。


速い。


綺麗。


そのまま。


空中からモズが叫ぶ。


「おーい!手上げろ!」


「えっ!?」


レンは、

言われるがまま両手を上げた。


次の瞬間。


モズがその腕を、

グイッと掴む。


「うおっ――!?」


勢いそのまま。


空中で。


クルッ!!


レンごと一回転。


砂が舞う。


学生:

「「「おぉぉ!?」」」


そして。


モズはレンを抱え込むように着地した。


ドンッ!!


「モズ・スターリング!!」


「8m87!!」


会場がざわつく。


でも。


学生たちが見ているのは、

記録じゃない。


レン:

「な、何今の!?!?」


モズ、

ニヒッと笑う。


「救出成功〜」


「雑すぎんだろ!!」


しかも。


着地した体勢。


完全に……


お姫様抱っこ。


「…………は?」


レン、

固まる。


周囲:

「「「…………」」」


レン:

「なんでその持ち方なんだよ!?!?」


モズ:

「いや運びやすくね?」


「絶対嘘だろ!!」


モズはケラケラ笑う。


その時だった。


遠くの女子測定会場側から。


「えぇぇぇぇ!?!?」


「10m超えた!?」


「うそでしょ!?」


ザワザワと騒がしい。


レンたちは同時に、

女子サイドへ目を向けた。


すると。


空中。


ノンが。


ふわふわ飛んでいた。


「…………」


立ち幅跳びなのに。


飛んでる。


しかも。


めちゃくちゃ脱力した顔。


「ん〜……」


ゆるーく前進。


そして。


トン。


着地。


女子学生たち騒然。


測定係の先生も固まっている。


「……10m24」


静寂。


ノン:

「やったぁ〜」


女子:

「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」


レン:

「立ち幅跳びってなんだっけ」


モズ、

腹を抱えて笑う。


「ノンそれ反則ギリギリだろ!!」


ノンは、

こてんと首を傾げた。


「ちゃんと跳んだよぉ?」


「途中飛んでたろ!!」


ノンは気にした様子もなく、

ふわ〜っとこちらへ戻ってくる。


周囲の女子たちは、

まだざわついていた。


「やっぱ特別編入生って……」


「次元違う……」


完全に化け物枠。


でも。


ノン本人だけ。


「?」


って顔してる。


自覚がない。


呆気に取られていたレンは、

ハッと我に返った。


レンはまだ、

モズに抱えられたままだった。


「……そろそろ降ろせ」


「お、忘れてた」


「忘れんな!!」


その様子を遠くから、

静かに眺めるグレイガルド学長。


「青春じゃのぉ」


ボソッと呟き、

優しく目を細める。


その時。


コツ……コツ……


後ろから、

乾いたような足音。


学長の表情が、

スッと氷のように冷たくなる。


無表情。


「……賑やかですね」


低い声が聞こえた。


「来ておったのか……」


グレイガルド学長は、

声のする方向へ身体を向けることもなく答える。


白髪。


黒縁メガネ。


深いクマが刻まれた目。


白衣の裾を風に靡かせながら、

男が現れた。


静かに、

学長の隣へ並ぶ。


「……研究棟から出てくるとは珍しいの」


「クロード研究員長」


クロードと呼ばれたその男。


夜の月詠で、

レンたちが遭遇した男だった。


「……少し、興味深い学生がいまして」


そう言って見つめる、

クロードの視線の先には。


レンの姿。


クロードは、

右手の中指でメガネの位置を整える。


「今日は視察です」


その言葉を。


グレイガルド学長は、

静かに。


無表情のまま聞いていた。


挿絵(By みてみん)

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