並走
魔力測定テスト当日。
澄み渡った空。
程よい気温。
外での測定には、
うってつけの天気だった。
新入生たちも、
朝から妙に気合いが入っている。
「今年こそ記録更新してやる!」
「ぶっ飛ばすぞー!!」
「結界あるなら全力出せるしな!」
怖い。
会場。
巨大な結界が展開された広場の中央で。
レンだけ、
空気が重かった。
「はぁーーーー……」
盛大なため息。
いつもは上向きに跳ねている、
猫耳みたいなくせっ毛も。
今日は心なしか、
しょんぼり垂れている。
目の下にはクマ。
原因。
徹夜。
昨日、
夜通し手品の仕込みをしていた。
使えるか分からない。
でも。
“何かあった時用”。
お守り代わり。
肩から提げたウエストポーチには、
トランプやら小道具やらが詰まっている。
服装は。
黒っぽいジャージ上下。
少し年季の入った白い運動靴。
高校時代に使っていた体操着だ。
その隣では。
レンと真逆の生命体がいた。
「よっしゃぁ!!」
モズ。
超元気。
前髪を括り上げ、
今日は珍しくおでこ全開。
準備運動するたび。
結った前髪が、
ぴょんぴょん跳ねる。
オレンジ色のジャージ。
しかも前開け。
白タンクトップ見えてる。
長ズボンは、
ふくらはぎ辺りまで捲り上げ。
蛍光オレンジの運動靴。
眩しい。
完全に。
体育会系陽キャ男子。
レン、
眩しさで目細める。
「なんなんだあの生命力……」
その二人を見比べ。
ノンは少し考え込んだ。
そして。
こてん、
と首を傾げる。
今日は、
薄いピンク色の長髪を
ゆるくポニーテールにまとめている。
揺れる髪。
淡い黄緑色のジャージ。
長めの袖は萌え袖状態。
淡いピンク色の短パン。
白い靴下。
白い運動靴。
全体的にふわふわしてる。
ノンは真顔で言った。
「モズくんに生気吸い取られちゃったのぉ?」
「どんな原理だよ」
レン、
即ツッコミ。
ノンはクスクス笑う。
「寝不足はだめだよぉ?」
新緑みたいな瞳が、
いたずらっぽく細められる。
その時。
「おーいモズー!」
「あっ、先輩じゃーん!」
モズが他の学生に呼ばれ、
少し離れていった。
ノンは、
ふわっとレンへ近づく。
そして。
耳元で囁いた。
桜みたいな、
甘い香り。
「魔力、貸す?」
レン、
動きが止まる。
ゆっくり。
ノンの目を見る。
冗談じゃない。
本気で心配してる目だった。
レンは、
昨日その方法も考えた。
でも。
それじゃ。
自分の力じゃない。
ノンの力だ。
だから。
今日は。
何が起きても。
自分の力で乗り切る。
そう決めて来た。
レンは小さく笑う。
「今日は自分の力で乗り切るって決めて来たんだよ」
「気持ちだけで十分」
「……ありがと」
ノンは少し目を丸くして。
それから。
優しく目を細めた。
「……そっかぁ」
その時。
「集合しろ」
リゼリア教授の声。
続いて。
「えー、測定開始します……」
ボイド先生。
学長も、
既に会場へ来ていた。
圧がすごい。
ノンはレンから離れ、女子の列に向かいながら
手を振る。
男女別々に測定をするようだ。
「お互い頑張ろうねぇ〜」
「お、おう」
そして。
最初の種目。
50m走。
リゼリア教授は、
ジャージ姿だった。
銀髪ポニーテール。
めちゃくちゃ強そう。
「転移魔法は禁止だ」
「しっかりスタートからゴールまで走り切れ」
レーンは二つ。
二人ずつ測定するらしい。
「よーい……スタート!!」
次々走る学生たち。
風魔法で追い風を作る者。
身体強化を使う者。
そして。
「《爆ぜろ》!!」
ケツからジェットエンジンみたいな炎吹いてるやつ。
「5.40秒!!」
「4.95秒!!」
速い。
普通に速い。
レン、
ドン引き。
「すげぇ……」
その横で。
モズが真顔で呟く。
「アイツ、ケツ熱くねぇのかな」
「ズボン燃えてパンツ見えたりしねぇ?」
「そこかよ」
レン、
即ツッコミ。
そして。
ついに。
「次」
「モズ・スターリング、大神レン」
来た。
モズはニヒッと笑い、
スタート地点へ立つ。
余裕そう。
レンも隣へ立つ。
一応。
人間界では足は速い方だった。
6秒台。
スポーツには自信あった。
……まあ。
ちょっと遅いな、
くらいで済むだろ。
問題ない。
問題ないはず。
レンは深呼吸する。
その時。
モズが笑いかけた。
「お互い全力で行こーぜ、ワン公」
頭の上で、
結った前髪が揺れる。
レンは真剣な顔で頷いた。
「……おう」
「位置について――」
「よーい」
「スタート!!」
瞬間。
モズが自分の靴へ、
高速詠唱を叩き込む。
「《風のように走れ》」
靴が光った。
次の瞬間。
勝手に走り出す。
「うおっ!?」
それに合わせて動くモズ。
速い。
一瞬で加速。
レン、
置いていかれる。
「はっや!?」
慌てて走り出す。
だが。
その時。
レンは足元へ違和感を覚えた。
「……え?」
靴。
光ってる。
次の瞬間。
レンの靴も、
勝手に走り出した。
「んええええええ早ぁぁぁぁ!?!?」
急加速。
レン、
半分振り回されてる。
でも。
異常に速い。
あっという間に、
モズへ並ぶ。
モズ、
目を見開く。
「……やるな」
レンは必死で、
靴の動きへ身体を合わせながら思う。
(……これ)
(モズの魔法、俺の靴にも掛かってんな……!?)
たぶん。
発動範囲が広すぎた。
そして。
二人はほぼ同時にゴール。
「モズ・スターリング!!」
「2.35!!」
「大神レン!!」
「2.42!!」
僅差。
会場がざわつく。
「早っ!?」
「なんだ今の!?」
リゼリア教授も、
わずかに目を見開く。
学長は髭を撫でながら。
「ほぉ……やりおるのぉ」
と呟いた。
ほんの一瞬の出来事。
モズはケラッと笑う。
「危ねぇ〜負けるとこだった!」
レン。
完全に棚からぼたもち。
でも。
何とか。
第一種目、
突破。
レンは密かに胸を撫で下ろした。
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